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161・子供たちの事情

 教会の外でシリウスを待っている三人の見習い騎士の少年たちは、なんとなくお互いを牽制しあうように無言だった。

沈黙を破って最初に口を開いたのはワグナーだ。


「ただ突っ立っていても仕方がない。有事の際にどう動くか、今のうちに決めておこう」


「有事の際って?」


 バナードはわりとのんびり聞き返した。

なんだかんだ言って、シリウスはいろんな意味で最強だと思っていたため、エルフごときに何かされるとは考えていなかった。

もう一人、ハイドは冷たい目線でワグナーを睨んだ。


「お前はアレスタの人間だろ。殿下をお守りするのは私たちの役目だ」


 そう言ってから、バナードも睨む。


「それにバナード! お前、さっきなんで殿下とタメ口で喋っていたんだ! いくら殿下が親しく語りかけてくださるからといって、無礼にもほどがあるぞ!」


「あ、ああ~。……えっと、実はオレ、シリウスとはずっと前から知り合いでさ……」


「はあ?!」


 思い切り「腑に落ちない」表情で、ハイドは眉を上げた。

別にバナードを蔑んでいるわけではなく、単純に、身分が違いすぎて知り合う機会などまったくないはずだったからだ。

一度見かけた、とか、たまたま声をかけてもらう機会があった、とかならまだ理解もできるが、ずっと前から知り合いだった、というのはわけがわからない。


「ハイドの気持ちもわかるよ……。オレだって、オレじゃなかったら信じられないけどさあ、二年ぐらい前、シリウスが家出して迷子になってたとき、王子だなんて知らなくてさ、たまたま仲良くなったんだ」


「家出?!」


 ハイドは口をあけっぱなしにしてバナードを見つめた。

美少年なのに無防備すぎる表情だ。


「あ、ほら、壊れてた塔がいきなり直った日だよ。シリウスが髪を切りたいって言うから、床屋まで案内を……」


「髪を切る?!」


 ハイドだけではなく、ワグナーも叫んでしまった。

あの宝石のような髪を切ってしまうなんて、たとえ世界一腕のいい職人であっても許されないと少年たちは思ったのだ。


「床屋のおっちゃんは、シリウスの髪を切りたくないって断ってくれたから切らずに済んだ。で、城内には同年代の子供がいないからって、いっしょに勉強したり遊んだりするようになったんだ」


 それを聞いた少年二人は盛大なため息をついた。


 ハイドは力が抜けたように、近くにあった岩に腰掛ける。


「ようやくわかったよ。お前がやたらとこの旅に同行したがってた理由が。でも殿下の知り合いならズルして連れてきてもらってもよかったんじゃないか?」


 旅行に同行する人員に選ばれるため、バナードが必死で勉強していた事は、クラスの子供たちだけではなく、士官学校全体でも有名だった。

座学だけではなく、馬術や剣術も、早朝や放課後に特訓していたからだ。

けれどバナードは肩をすくめて苦笑する。


「シリウスを守れる人間になりたいんだから、コネで同行したんじゃ意味がないんだ。でもまあ最終的にはちょっとズルだったよ。オレは黒竜公さまや赤竜公さまをよく知ってたから、竜になっていてもあんまり怖くなかったんだ」


 巨大な竜の顎の下を歩いた事を思い出す。

あの時、黒竜は確かにおそろしい表情を作ってはいたが、バナードを見てこっそり笑みを浮かべてくれた。

竜の傍を歩くよりも、生徒達とシリウスたち一行、全員に注目されていることのほうがよっぽど緊張したのだ。


「あの試験は、殿下がお前に一緒に来てほしくて追加したものだったんだな」


 バナードはハイドが怒るかと思ったのだが、シリウスの遠い親戚である少年は、面白そうに小さく笑った。

バナードがさぼっていて、単純に贔屓された結果ならともかく、誰よりも努力していたことを知っていたし、竜の前を歩く試験だって、全員に向け平等に行われたものだ。

だから怒りはなかった。

それよりもむしろ……。


「天使みたいだと思ってたけど、殿下もやっぱり普通の子供なんだな」


 世界最強の竜を従え、この世のものとは思えないほど美しく、地上のことなど関係ない、何かを超越したような存在に思えていたのだ。

家出したり、友達と一緒にいたくて工夫したり、ごくごく普通の子供みたいなことをするなんて考えてもいなかった。

なんとなくほっとしていたし、うれしい気もする。


「話がまとまったなら、あらためて警護について計画を決めておこう」


 ワグナーが話を戻す。


「いいか、俺がアレスタの人間なのは事実だし、変えられない。だがお前たちと同じぐらいシリウスを守ってやりりたいと思っているし、今は国籍がどうのとかそんなどうでもいい事でもめている場合じゃない。使える魔法を全部教えろ。持っている武器も……」


 そう言いながら、自分の武器を出す。

シリウスに直してもらった母の形見の魔法剣と、ミドルスピア。

ハイドはまだ若干ワグナーを信用できないようだったが、もめている場合じゃないことはわかっている。


「私は光魔法が得意だけれど、大して使いこなせるわけじゃない。魔法騎士を目指していたわけじゃないし……」


 バナードに至っては、腰に下げていた剣以外に戦う手段は何もなかった。

その剣術だって、まだ本格的に学び初めて二ヶ月しか経っていない。

正直にそう言うと、ワグナーは呆れたりせず黙ってうなずいた。


「マジックキャンセルの指輪を持っているのはハイドだから、ハイドがシリウスのすぐ右隣にいるべきだな。三人とも右利きなのは残念だが仕方がない。俺がシリウスの左につく。バナードがハイドの右。隣接横列に」


「なんですぐ横?」


「今のところ相手は一人しかいないから、広がる必要はないし、縦列にする理由もない。それに近くにいないとまた空間を移動させられた場合に対処できない」


「よく考えるなあー」


 しみじみと感心してからバナードは元気な少年らしい素直さで笑った。

今の状況は十分理解していたけれど、それよりもハイドに本当のことを話せてスッキリした気分のほうが大きかった。

それを見たワグナーもつい笑ってしまった。

なるほどシリウスの友達らしいへんなやつだ、と自分のことは棚に上げて納得したのだった。




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