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12・☆白金の翼

お気に入りの登録や評価、いつもありがとうございます。

おかげさまで順調に更新も進み、毎回楽しく書かせて頂いております。


今回は挿絵がありますので、苦手な方はご注意下さい。

 

 

 

 カイルがアレスタからシリウスの元に戻って十日ほどが経過していた。

両親に説明してきたからもう心配要らないと、ジャンや他の騎士たちをアレスタに帰国させ、本当にカイルだけウェスタリアに残ってしまった。


 あの日からシリウスは、カイルが竜になって飛んでいった時の事を毎日のように思い出す。

巨大で美しい緋色の竜が、蒼穹を自由に飛んでいた。

あんなに大きな竜なのに、まるで鳥のように軽々と空を舞い、とても気もちがよさそうだったことを。


「ぼくもあんなふうに飛べるのかなあ……」


 シリウスはカイルが特別な人間「竜人」だとは知らなかった。

世界にとってどれほど重要人物であっても、シリウスにとっては、カイルもアルファも大事な大事な友人で、それ以上でも以下でもなかったのだ。

誰もが竜になって自由に空を飛べて、自分もいつか一緒に飛べるようになると思っていた。


 だからその日、シリウスは夜の読書の時間に本を読みにやってきてくれた兄に聞いてみた。

ベッドの中に兄弟仲良く並んで入り、本を広げたのだけれど、ルークが最初のページを読み始める前にシリウスは兄の顔を見る。


「兄上、あのね」


 そう話しかけると、兄、ルークは目じりを下げて、眼一杯甘い笑顔で愛しい弟に頷いた。


「うん? どうかしたかシリウス」


「あのね、ぼくもカイルみたいに飛んでみたいんだけど、どうやったらできる?」


「……」


「兄上?」


ルークが考え込んでしまったのでシリウスは首をかしげた。


「まだ子供だから無理?」


「い、いや、そういうわけじゃないんだけどな」


 ルークは本をわきに寄せ、弟の金の髪を撫でた。

さらさらで、つやつやの、磨きぬかれた金属のようで、同時にしなやかで繊細な、美しい髪。




 「……シリウス、実はな、普通の人間は飛べないんだ」


「カイルはふつーじゃないの?」


「ぶっ、いや、うん、まあ、普通とはちょっと違う」


 弟の言い方に、兄は内心で大笑いしていた。

カイルが聞いたらショックで卒倒するかもしれない。


「カイルとアルファは竜人と言って、普通の人より少し色々なことが出来るんだ。二人は飛べるけれど、飛べる人間はめったにいないんだよ」


「兄上は飛べないの?」


「残念ながら飛べない」


「……ぼくも飛べない?」


 切なそうに言われて、ルークは返答に困った。

卵から生まれたシリウスは竜人なのではないだろうかと言われていたし、カイルやアルファも、おそらくシリウスは竜人だろうと言っていた。

けれども本来四人しかいない竜人が五人になったことはなく、確定するには少々早い時期だった。

もう少し大きくなって、成長が止まるか、あるいは竜に姿を変えるようなことがあれば間違いないのだけれど。


「シリウスは飛べるかもしれないけれど、まだわからないんだ。もうちょっと大きくなったらわかるかもな」


「カイルみたいに、羽がはえたら飛べる?」


「ははは、そうだな、飛べたら兄上を乗せてくれ」


「うん!」


「おっこちないようにうんと練習しないとな、お前が怪我したらみんな悲しむ」


「おっこちたりしないよ」


ほっぺたを膨らませた弟を愛しい気持ちで眺め、ルークは改めて本を開いた。




―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―




 羽が生えたら飛べる、と、兄は言った。

シリウスはルークが部屋を出て行った後、寝巻きの上着を脱いで腕を回し背中に触れてみた。


「何もない……」


つるつるの背中には羽がはえてくる様子はまったくない。


「空を飛べたら、カイルやアルファと一緒に飛んでみたいなあ」


 きっとすごく気持ちがいいし、二人も喜んでくれる気がした。

目を閉じて、自分が飛んでいる姿を想像してみる。

竜になるのは大変そうだから、とりあえずは羽だけでもあったら。


「カイルみたいに……」


 あんな風に強くて大きな羽じゃなくて、鳥みたいな羽だっていい。

目を閉じたまま集中すると、背中がさわさわとくすぐったいように感じた。


金色の光が糸のように集い、シリウスの背に寄り集まって行く。



―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―




 ――翌朝、幼い主人を起こすため、カイルは洗顔用の湯を張った桶を持ってシリウスの部屋に入った。

最近は、カイルとアルファで、数日ごとに夜番の時間を入れ替えている。

そうしないと、どちらが朝一番に主と言葉を交わすかで争いになってしまうからだ。


 本当は夜、寝る時にも、眠りにつく主についていたかった彼らだが、それは残念なことに、シリウスの兄であるルークが、寝る前に本を読んであげるという形で独占していた。

ルークは主人の兄であり肉親だったので、追い出してしまうわけにもいかず、竜人たちは耐えるしかない。


 今朝は三日ぶりにカイルが早朝の見張り番だった。

何事もなく無事に朝を向かえ、今日も一日かわいらしい主人の傍にいられると思うと自然と笑みが浮かぶ。

こんな風に、自分が誰かの事を全身全霊で想う日が来るとは夢にも考えていなかった。


 シリウスが笑えば嬉しく、悲しんでいれば胸が締め付けられる。

まだ一度も主の怒る姿は見ていなかったのでわからないが、もしもシリウスが誰かに対して怒りを表すことがあったなら相手を殺してしまうかも知れぬ、などと物騒なことまで考えた。

まるで愛する主人に常に付き従い、命を賭して守る忠実な犬のようではないかと一瞬想像してしまったが、実際そのとおりだったので、まあいいかと開き直る。


 朝は部屋の扉をノックしない。

カイルの主人はまだ眠っているので、できればノックの音などではなく、もっとやさしく声をかけて起こしたかったからだ。

それに、どれぐらい深く眠っているのかも確認したかった。

もしもほんの少しでも不調が見られたら、起こしたりせずそのまま眠っていさせてあげたい。


 アルファがどうやっているのかは知らなかったが、きっと同じようにしているだろうと確信していた。

シリウスに対してカイルはとても過保護だったが、アルファはさらに過保護だと、カイル本人は思っていた。

実際にはどっちもどっちだったのだが。


 そんなわけで、今朝もカイルは、オーク製の重厚な扉をそっと開き、主人の寝所に入室した。

足音をしのばせながら、桶をサイドテーブルに置き、眠っている主の傍らに立つ。

何度見ても、すやすや眠っている主は天使のようにかわいらしかった。

起こしてしまうのはもったいない気もするけれど、シリウスが目を覚ませば、その美しい紫の瞳が見られる。

いつもそれを楽しみに、カイルは眠るシリウスを起こすのだった。


 主の細い肩に触れようと腰をかがめ手を伸ばしたとき、カイルはふと「ソレ」に気づいた。

主人の髪と同じ色だったのですぐには気づかなかったのだが、シリウスの枕元に、カイルの指の長さほどの大きさの、金の羽が一枚落ちていた。


「なんだ……?」


 摘み上げようとして失敗する。

かなりの重量で、予想していた重さと違っていたためつまみ損ねたのだった。


「これは……」


 見た目には根元のふわふわしたダウンの部分まで完璧に鳥の羽にしか見えないのに、細かな造形もそのままに、その羽はすべてが黄金でできていた。

慎重に持ち上げて、そっとダウンの部分に触れると、見た目に反して微細な針金のような固さがある。


「……?」


 人間が作れるような代物では絶対にない。

だからといって、エルフにも、細工が得意なドワーフにも不可能に思える精緻さだった。

まるで抜け落ちた鳥の羽が、そのまま黄金に変化してしまったような。


「もしや……」


 主であるシリウスの仕業としか思えない。

どうやったのかは想像もつかないが、カイルの主人にはまだまだ未知の力があった。


 「シリウス様……、シリウス様……」


そっと肩をゆり動かして、主人を起こす。


「ん……カイル……?」


かわいらしい声でいとけなくつぶやき、シリウスは小さくあくびをした。


「ふぁ……」


紫色の大きな瞳が開かれて、カイルを見つめる。


「……んーおはよう、カイル」


その瞳に魅了されながら、カイルは極上の微笑みを主に返す。


「おはようございます。お起きになられますか?」


「うん、ちょっと眠いけどもう起きる。……今日はいい天気?」


 天気がよかったら、お昼は外で食事をしたいと言っていたので今日の天気は重要だった。


「少々曇っておりますが、大丈夫でしょう」


 雨が降るようなことがあったなら、カイルは主人に気づかれないように雲を吹き飛ばしてしまうつもりだった。

もちろん、周囲になるべく迷惑がかからないよう、中庭の上空だけをピンポイントで。


 シリウスが上半身を起こし、顔を洗うのを手伝う。

着替えのためにベッドから降りようとしたとき、カイルは先ほどの黄金の羽を差し出した。


「シリウス様、これが何かご存知ですか?」


 シリウスがその羽を見ても動きを止めず自分で衣服を脱ぎ始めたので、カイルも慌てて羽をベッドに置き、主の着替えを手伝った。

着替えながら、シリウスは


「それ、ぬいてみたんだよ」


と、普通のことのように言う。


「ぬいた?」


「うん」


「何から?」


 さっぱり意味がわからなかったカイルは思わず主人に質問を重ねてしまう。

そんなカイルの様子がおかしかったのか、シリウスはクスクスと笑っている。


「ぬけたらすぐ固くなっちゃったけど、くっついてるときはふわふわだったんだ」


「ええと、金の翼の鳥かなにかがいたということですか?」


あんまりカイルが不思議そうだったので、シリウスは逆に不思議になったようだった。


「ぼくのだよ」


「ぼく、というのは……」


ボク、という鳥かなにかだろうか、などと一瞬考え、それからすぐにハッとする。


「シリウス様の?!」


 シリウスはコクンと頷くと、説明するより見せたほうが早いと思ったのか、着替え途中で上半身裸の姿のまま、タタタ、とカイルから離れて部屋の真ん中で目を閉じた。




―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―




 それは一瞬の事だった。

じつにあっさりと、何の気負いも集中もなく、室内に金色のまぶしい光が満ちたと思った次の瞬間、


「シリウス様……」


 背に白金色の翼を負ったシリウスが、まっすぐに紫の瞳をカイルに向けていた。


 カイルのみたところ、シリウスの翼は広げれば片方だけでも本人の身長とかわらないほど大きく優雅だった。

言葉に言い表せないほどの感動がカイルを包み、その美しさに目を奪われる。

だが同時に混乱もしていた。

シリウスは竜人のはずだし、気配も魔力もオーラも竜人のそれだったけれど、背に現れたのは鳥のような羽毛に包まれた翼だ。

竜の翼はコウモリのような形状のものしか知られていない。

そもそも、翼だけ背に顕現させる方法も、カイルは知らなかった。


 信頼する護衛であるカイルがとても驚いているようだったので、シリウスは首をかしげた。

そもそも、シリウスが飛んでみたい、羽がほしい、と考えるようになったのは、カイルが竜になって飛んでいる姿を見たからだ。

あこがれの翼を持っている本人であるカイルが、なぜか驚いているのが不思議だったのだ。


「ほら、この羽、さわってみて」


呆然としているカイルに、シリウスは普通に話しかけてくる。


「ほら、ここ」


「えっ!?」


 神々しいとしか言いようのない金の翼に、触ることなど許されない気がした。

けれど、カイルの動きをじっと待っている主人を裏切るわけにも行かず、恐る恐る、その羽毛に触れてみる。


 「ふ……」


枕辺にあった、固い金の羽の感触を予想していたのだが。


「ふわふわです……っ!」


 やわらかく、あたたかく、同時に冷たく、一枚を抜いて手にとって見たわけではないが、きっと重さを感じさせないほどに軽いだろうと思われた。


「ね、すごく気持ちいいから、だれかにあげようと思って抜いたんだけど、ぬけたら固くなっちゃったんだ」


そう言って、カイルを見る。


「ためしにもうひとつ、抜いてみて」


「は……?」


「おっきいのは痛いかもしれないから、真ん中辺の」


「……!?!?」


今度こそ、カイルはパニックになった。


「い、いけません!」


その場からすごい勢いであとじさり、ぶんぶん首をふる。


「?」


自分の守護者があんまりにも動揺しているので、シリウスも驚いたようだった。


「わるいことだった?」


「い、いえ、いけなくはないのですが。と、とにかく、私には無理です!」


 首をかしげつつも、いけなくはない、と聞いて安心したのか、シリウスはカイルが止めるまもなく、ぷつん、と自分で羽を抜いてしまった。

羽をぬくと、すぐに翼のないいつものシリウスの姿に戻り、たたたた、とカイルにかけよってきて、抱きつく。


「ほら!」


 無邪気な笑顔で差し出された羽を、ついカイルは受け取ってしまったが、手の中の羽は、みるみるうちに重く、固くなり、あっという間に金できた、最初の羽と同じ物体になってしまった。

呆然としているカイルに、シリウスは、


「カイルにあげるね!」


と、無邪気に笑いかけるのだった。



挿絵(By みてみん)




―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―




 飛んでみたくて練習してたんだ、と、カイルに着替えを手伝ってもらいながら、シリウスは自分から抜いた羽をくるくる回す。

二度目に抜いた羽の方はカイルが大事に大事に自分の胸元にしまった。


「カイル、空を飛んでたでしょ。ぼくも飛んでみたい。兄上にどうしたらいのですかって聞いたら、兄上は飛べないって」


「人間は普通飛べないものなのです」


「でもカイルは飛んでたし、だからぼくも出来るって思ってたんだけど……。カイルって普通じゃないの?」


 自分は竜人で、一般の人々とはまったく違っていると、当然自覚していたカイルだったが、愛する主人に面と向かって「普通じゃないのか」と問われると、なんとなくショックであった。


「え、ええと。……普通……ではないかもしれません」


 心の迷いが歯切れの悪い返事を生んだが、シリウスは全然気にせず次の話題に移る。


「魔法使いは飛べる?」


「飛べる魔法使いはかなりの上級者でしょうね」


さあ、着替えは済みましたよ、と、笑って、カイルはシリウスの手を握った。


「お食事にまいりましょうか」


「うん!」


 元気よく返事をして、シリウスはカイルと並んで部屋を出る。

廊下に出たところで、ちょうど食事のために二人を迎えに来たアルファと出会った。


「おはようございます、我が君」


 相変わらず落ち着き払った声で、しかし幸せそうな微笑をたたえ、自分の主に腰を折ったアルファは、シリウスが手に持った金の羽に気づいた。


「それは……?」


「おはよう、アルファ。これあげるね」


 差し出された黄金の精緻な細工物を見ると、アルファはすかさずその場に膝まづいた。

深くこうべをたれ、まぶしそうに主を見上げる。


「私めに、賜りものを……?」


「本当はふわふわのをあげたかったんだけど……」


シリウスが差し出した羽を、アルファは両手でうやうやしく押し頂いた。


「ありがとうございます、我が君……」


感無量、と言った様子で、金の羽を胸に押し付ける。


「我が君から一番最初に頂いた賜りもの、このアルファ、一生に大事にいたいします」


それを見てシリウスはちょっと首をかしげ、アルファはおおげさだなあ、と笑ってから、


「そんなのだったらほしいだけあげるのに!」


膝をついたままのアルファに抱きついた。


 彼らの様子を傍らで見ていたカイルは、実のところ内心非常に後悔していた。

カイルにあげるね、と、気軽に言われて、喜びのあまり素直にその場であっさり受け取ってしまったけれど、よく考えてみたら、確かにアルファの言うとおり、主からの一番最初の賜りものではないか。

これから、自分が死ぬまで、何百年も一緒にいるつもりだけれど、その中で、一番最初。

しかももしかしたら、シリウスという少年にとっても、誰かに何かを贈るのは生まれて初めてだったのではないか。


 とんでもなく貴重で重要な出来事だったはずだ。

それなのに……。

自分もあんな風に膝をついて、正式な形で受け取ればよかった。

誰かに膝をつく、なんて行為に慣れていなかったため思いつかなかった。


やりなおしたい……。


 もんもんとしている間に、アルファはシリウスを抱き上げ、どんどん食堂へと歩いていく。


「シ、シリウス様……!」


慌てて声をかけると、アルファが立ち止まり、二人でカイルを振り向いた。


「どうしたの? 朝ごはん、食べに行こう?」


「い、いえ、なんでもございません」


どうしても「やりなおしたい」などとはとても言い出せず、カイルはしょんぼりと二人のあとをついていったのだった。




―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―




 「それでカイル、これがなんなのか、おぬしは知っているのか?」


 朝食の後、勉強のために家庭教師と図書室に篭るシリウスと別れ、二人は図書室の向かいの部屋で話しあっていた。


「よく見れば、俺が賜った羽と、おぬしが賜った羽とでは、微妙に形が違うようではないか?」


「……」


シリウスから貰った金の羽を、カイルはハンカチの上に乗せて指先で何度も何度も撫でていた。


「おい、カイル」


「……」


 まだ朝の後悔がさめやらないのだった。


 アルファも胸元にしまっていた羽を取り出す。

金で出来た羽は、生きた鳥から抜け落ちた羽そのものにしか見えず、櫛のように精緻な羽毛の毛並みや、ダウンの部分の糸よりも細い部分までもが再現されている。

しかし重さも色も触り心地も、それは間違いなく黄金だった。

指の長さほどの大きさだったが、細工の緻密さを抜きにしても相当の価値があるだろう。


 手のひらに乗せて慎重に意識を集中してみれば、薄い金の羽の細工には、相当の魔力が秘められているように思えた。

あからさまに魔力を放出しているのではなく、アルファほどの人物が相当に集中して探らなければわからないほど、強大なものが隠蔽されている。

意図してそうしたのではないようだったし、探れば探るほど、それはとても心地よい魔力だった。

魔法道具は星の数ほどあるが、これほどまでにみごとに性能を隠してある道具は見たことも聞いたこともない。


「カイル!」


「!」


 ビクンと肩を跳ね上げたあと、カイルは急いで居住まいを正した。

あわてた自分をごまかすように咳払いする。


「なんだ」


「なんだじゃない……。これがなんなのか、知っているのか、と聞いたんだ。これほどの品、もしも国宝の類だとしたら、安易に受け取ってしまってはシリウス様がお叱りを受けるかもしれぬではないか」


「あ、ああ。その心配はない」


 カイルは早朝に部屋で見たすべてをアルファに説明した。


「なんと……」


アルファは絶句し、あらためて羽を見る。


「ではこれは、シリウス様ご自身の羽であらせられるのか……」


そっと両手で持ち上げ、あらためて胸に押し当てる。


「なんとおやさしい力に満ちているのだろう……」


 竜の鱗といえば、最高級のお守りとして有名で、かなりの高値で取引されている。

幸運をもたらすといわれ、実際に運命線を左右するほどの魔力を内包した代物だ。

だが竜本人がもたらさなければ決して抜け落ちるものではなかったので、本当に貴重で希少な品物でもあった。

アルファには、シリウスの羽も、まさしく竜の鱗と同じように、持ち主を守護する力に満ちているように感じられた。


「……俺はこれをマントを留めるのに使わせていただこう」


 常に肌身離さず身に着けていたい、と、アルファはしみじみとつぶやいた。

それを聞いたカイルは目を丸くする。

加工して身に着ける、なんて、考えもしなかったのだ。

アルファの黒衣に、きっとそれはとんでもなく美しく映えるだろう。


 カイルは考えた。

どうすれば一番、この賜りものを身近に感じていられるだろう。

しばし悩み、決意したように頷く。


「では私はペンダントにさせてもらおう。服の内側に入れて常に肌にふれさせておきたい。きっと私を守護してくださる」


 カイルの思いついたアイデアに、アルファは少々うらやましそうな表情をしたが、自分の考えを曲げたりはしなかった。


「それにしてもカイル、お前は幸福な男だ」


しみじみといって、ため息をつく。


「我らが君の黄金の翼……。さぞかし美しかったであろうな」


「ああ……。素晴らしかった。白金色に輝いていらして……」


 うっとりとつぶやき、あの姿をしっかり思い出すために、また貰ったばかりの羽を撫でる。 


「俺も早くお見せいただきたいものだ。……カイル、そなたがうらやましい」


アルファは金でできた羽をつまんで、そっと自分の額に押し当てた。




カイルもアルファも、なぜシリウスにこれほど忠誠心を抱くのか、なぜこんなに過保護なのか、本人たちも気づいていない上に疑問にも思っていませんが、

その理由はのちのち詳しく明かそうと思います。


ルークは常識人で普通に良いお兄さんなのでシリウスの傍にいてくれると安心です。


カイルって普通じゃないの? と直に問われて若干ショックなカイル17才。

いろいろな葛藤を抱えております。 やりなおしたかった件に関しては最後まで言い出せなかった模様。



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