☆クリスマス&100回記念(前編)
今回は、クリスマス&100話到達記念番外編となっております。
前後編の二話だけですが、本編とは接点のない話です。
アレスタではなく、時間軸不明のウェスタリアでの出来事です。
三話分にしようと思っていたのですが、番外編を三回もやってしまうと、本編の進捗が遅れるぞ、ということで、長めの二話になりました。
活動報告のほうにいただいたリクエストは「ほのぼの」「あまあま」「クリスマスパーティ的な」だったので、ではその路線で! ということで、みんな出てきてほのぼのです。
書きながら、ほのぼので甘いのは、いつもとまったく同じだなあ、と、自分もほのぼのしました。
「共闘」は今回達成できなかったのですが、ぜひ書きたいテーマでもあるので、いつかやらせてくださいませ。
ウェスタリアの城内、シリウスが母のジュディスと勉強をしている間、カイル、アルファ、フォウルの三人の竜人たちは、主人が部屋から出てくるまで隣室に控えていた。
カイルはなんとなくやることがなくて、椅子に座ったまま茶を飲んでいた。
隣に座るアルファは、いつもこの時間、なにやら難しそうな魔法書を読んでいる。
カイルも大体は本を読んですごすのだけれど、前日に読みかけていた小説を読了してしまっていたので、次に何を読むかまだ決めかねていた。
暇だったので、手元でなにやら作業しているフォウルをみやる。
いつものフォウルは、親子の勉強の時間でも、主人らのいる部屋の扉の前に、狼の姿で居座っているのだが、今日はカイルたちと同じ部屋だ。
めずらしく室内にいるフォウルは、手元の透明な物質に向け魔力を注いでいた。
手前に置かれたガラスのようなものは、触れると少しずつ形をかえていく。
「フォウル、それはなんだ?」
気になって声をかけると、フォウルはチラリとカイルを見てから手を止めた。
ふう、と息をついて、コリをほぐすように肩をまわす。
「水に魔力を注いで形を固定させてる」
ガラスのように見えたものは水で、フォウルは指先から微細に魔力を噴出し、微妙に形を整えながら、彫刻のような真似をしていたのだった。
まだわずかに全体の形がわかる程度にしか出来上がっていないけれど、いわれてみれば、たしかに何か動物の形に近づいている。
よく見れば、ガラスと違って、ぷるぷると、ゼリーのような質感だ。
「精密魔法の訓練でもしているのか」
「贈り物を用意する」
「シリウス様に? お誕生日には遠いが」
「誕生日じゃない。みんなが贈り物を渡しあう日」
フォウルの言葉に、カイルは首をかしげた。
本を読んでいたアルファも顔を上げ、眉をひそめる。
「そんな日は聞いたことがない」
「本当は何かの記念日で、家の内外に飾り付けをして、パーティをしたりする。その時、大切な人に贈り物をするんだ」
フォウルは作りかけの動物をつついた。
水で出来た四肢がプルンと揺れる。
「ボクがその日を知ってたわけじゃない。そういう記念日の存在する世界があったって、以前のあの人が昔教えてくれた。教えてくれたとき、実際にボクたちに贈り物をしてくれたんだ。だから今度はボクから贈る」
いうだけ言うと、再び製作に戻ってしまった。
カイルは手に持っていた茶を置き、ふむ、と顎に手を当てる。
以前、シリウスの誕生日に贈り物をしようとして考えすぎ、街を右往左往したあげく、当のシリウスに大変な心配をかけたことを思い出したのだ。
買い求めた品をそのまま渡してしまったのだけれど、今度は何か、あのときのアルファのように、自分にしかあげられないものを贈りたいと思っていた。
目の前で、せっせと水の彫刻を作っているフォウルを見つめる。
「私も何か贈りたい」
「じゃあ用意したら? でも当日まで内緒にして」
「わ、わかった」
真剣に答えると、アルファも目を閉じうなずいた。
「俺も用意しよう」
短い参加表明だったけれど、アルファが内心でとても楽しんでいることを、そこそこ長い付き合いになりつつあるカイルは察していた。
この黒衣の竜人は、見た目にほとんど変わらないけれど、それでもかすかに微妙な表情の変化がある。
今、アルファの口の端がわずかにあがっていた。
気のせいではないかと思えるほど、ほんのかすかに、ではあるけれど。
おそらく、大事な人に贈り物ができる、そのこと自体が嬉しいのだろう。
カイル自身もそうだったので良くわかる。
「アルファは何を用意するつもりなんだ?」
「ふむ……。前は短剣を作って差し上げたからな。次は身を守る装身具などもいい」
ただ身につけているだけで、守ってあげられる何か。
「魔法石を使わず、金属に魔力をこめた指輪にしよう」
宝石に魔力を込めるのは簡単なのだが、まだ子供のシリウスに、石のついた指輪は少々派手過ぎると思った。
金属に魔力を封じ込めることは難しく、一般では、ごくわずかに黄金の魔具がある程度だ。
「我が君には、装飾の少ない、細い指輪がお似合いになると思う」
少年の細い指に、シンプルな指輪がはまっている様子を想像して、カイルはうなずいた。
確かに、どんな宝石のついた指輪よりも、とても似合うだろう。
「そなたはどうするのだ。前のように、我が君に心配をかけたりしたら許さぬぞ」
闇色の瞳でにらまれて、カイルは思わず身を縮めた。
「わかっている。二度とあんなことにはならない。そうだな……。私は……」
カイルには、ひとつだけ、魔法以外に自慢できる特技があった。
ここウェスタリアで披露する機会はなかったが、きっとあれなら。
心の中で決めてから、ふと目を開けると、アルファだけではなく、フォウルも、カイルが何を贈るのか知りたいらしく、じっと答えを待っている。
「も、もう決めたが、秘密だ」
「本当だろうな……」
疑わしそうにアルファが言ったが、それ以上、追求してはこなかった。
フォウルも、特に今すぐ答えを聞くことにこだわりはないらしく、自分の作業に戻っていく。
カイルは立ち上がり、内ポケットに入れた懐中時計を確かめた。
まだシリウスが出てくるまで時間がある。
「私は部屋で『その日』の練習をしてくる」
「練習が必要なのか? 物ではないんだな」
今度のアルファは、面白そうに眉がわずかに上がっている。
アルファは水の彫刻を続けるフォウルに向けたずねた。
「『その日』では呼びにくい。何かの記念日だと言ったな。祝日なら何か名称はないのか?」
「ディエス・ナタリス・イエス・クリスティ」
「長い」
すかさず突っ込む。
「ナタリス……。ノエルって呼ぶ場所もあったって」
「ふむ、古代の言語で『誕生』か。何かの宗教儀式だったのか」
「宗教だったのかもしれないけど、あの人は別にそんなこと言ってなかった」
「とりあえず、われわれは短いほうの、ノエルという名称を使おう」
フォウルは呼称がなんだろうとどうでもよかったようで、それでいい、と素直にうなずいている。
カイルも首肯した。
「では、私は練習してくる。シリウス様が出ていらっしゃる前には戻る」
重々しく宣言すると、部屋を出て行ったのだった。
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
その日は、いつもと変わらない一日になるはずだった。
シリウスは、いつもと同じように、いつもと同じ時間に朝食を食べ、勉強をして、みんなでお昼を楽しんでから、午後にもいくつか授業を受け、それから少しだけ自室で昼寝をする。
けれど今日は、いつもと違ってなんだかやけに外が静かな気がして、目が覚めてしまった。
鳥のさえずりも聞こえるけれど、それでもやっぱり、なんだか、音が吸い込まれてしまっているように、シンとしているのだ。
不思議に思ってベッドから降り、窓辺に寄ると、そこから見える景色は朝までと一変していた。
「えっ……?!」
庭も、庭に植えられた木々も、真っ白になっている。
そして空からは、今も白い綿ぼこりのようなモノが、静かに降り積もり続けていた。
「もしかして、雪?!」
シリウスにも雪の知識はあった。
雨が凍ると、真っ白でふわふわした『雪』が空から降って来る。
それが積もると、覆われた大地が白く染まる。
絵本や教科書、広間に飾られた絵にも、雪が描かれているものがあったけれど、実物を見るのは始めてだった。
ウェスタリアでも、北部にはそれなりに雪が降る。
けれど王都は、数年に一度、真冬にうっすらと積もる程度にしか降らない。
だからシリウスは雪を見たことがなかったのだけれど、それにしても、まだ雪が降るには少し早い季節だった。
よく見れば、雪が降っているのは城壁の内側だけで、城の外の木々や山河は、いつもと同じ景色のままだ。
城の敷地の中だけが、真っ白な雪に覆われている。
「お城の中だけ雪がふるって、あるのかな?」
首をかしげたときだ。
「お気に召したかな、主どの」
窓の外に、雪よりも白く長い髪を、ひとつにまとめた少女が現れた。
「シャオ!」
急いで窓をあけ、白竜の化身である少女を室内に招き入れる。
雪の積もった庭の上空からやってきたのに、彼女は真夏のような軽装だ。
寒くないのかな、と思ったが、シャオは氷を操る竜人だったので、きっと寒くはないのだろう。
「主はきっと、雪を見たことがなかろうと思いましてな。北極の雪雲を運んでまいったのですじゃ」
「北極の雪雲!?」
シャオはうなずき、ニッコリ微笑む。
「わしが直接降らせて差し上げてもよかったのじゃが、初めてご覧になる雪なのじゃから、自然に発生した本物を見るべきじゃ。少しだけじゃから、明日には溶けてしまうじゃろうが、やりすぎると動植物に影響がでるからの」
シリウスはあらためて窓辺にたち、外を見下ろした。
周囲を純白に染める雪はとても美しかったが、みまわりの兵士たちは突然の雪にくしゃみをしているようだった。
「ありがとうシャオ。すっごくきれいだね。うん、ぼく、雪を見るの初めてだ。――でもどうして?」
なんの前触れもなく現れ、突然雪景色を見せてくれるなんて、不思議だった。
「わしからの贈り物じゃ」
「贈り物……」
今日は何か特別な日だっただろうかと、細い顎に手を当てて考えてみるが、一向に何も思い浮かばない。
「まあまあ、気にせずともよろしいじゃろ」
ニコニコと満足げに言う。
シリウスはシャオの手を握って、一緒に部屋の外に出た。
昼寝の時間はもう少しあったけれど、外に出て、雪に触ってみたかった。
早くしないと、冬の午後はすぐに日が落ちてしまう。
扉の外には、いつものようにフォウルがいた。
けれど、いつもとは違い、人の姿のままで扉を守っている。
そんな日もあるのかな、とシリウスはあまり気にせず、狼にしているのと同じように、フォウルに抱きついた。
「おまたせフォウル。ねえ、外に雪が降ってるの、しってる?」
フォウルはそれに答えず、やわらかな微笑を浮かべて膝をついた。
「フォウル?」
「ボクの王。ボクの光。いつもボクに生きる意味をくれる人。――あなたにこれを」
いきなりものすごい事を言われ、シリウスは目を丸くしたが、膝をついたままのフォウルが差し出した品物を見て、ますます目を見開いた。
水晶の台座に乗っているのは、水でできた手のひらサイズの駿馬だ。
風の中に立っているかのように、鬣や尾が揺れてキラキラとたなびいていた。
よく見れば、ごく小さな滝のように、水が彫刻の中を流れていて、それで鬣がたなびいて見えるのだった。
馬の足元では、清浄な水が心地よいしぶきをあげ、そこにあるだけで周囲を浄化していく。
「すごい! これ、どうしたの?」
「作った。――あなたにもらってほしくて」
「ぼくに?」
シリウスは驚いて、フォウルの差し出している馬を手に取った。
目の高さに掲げると、頬にひんやりと心地よい、霧のようなしぶきがあたる。
「こんなのが作れるなんて、すごいや……。でもぼく、今日誕生日でもなんでもないんだけど」
普通の日なのに、シャオといい、フォウルといい、なんだか今日はやけに贈り物をもらう日だ。
「部屋に置けば室内を浄化できる。小さいからそれほど範囲は広くないけど、だから魔力の消費量も少ない。1000年ぐらいは魔力を補充しなくても大丈夫」
「1000年も?!」
フォウルはうなずいた。
「台座の水晶に、ボクの魔力を貯めてあるから」
「すごいや。ありがとう、フォウル」
こんな素敵なものをもらって、シリウスはなんだかちょっと涙が出そうだった。
いつもほとんど感情の起伏を見せないフォウルだったけれど、こっそりこんな品物を用意してくれていたなんて。
それにしても、フォウルもシャオも、どうして急に贈り物をくれたのだろう。
二人を見上げると、シャオは腕を組んでうなった。
「そなたも今日が何の日だったか知っておったか。そんな良いものを用意しておったとは……。わしももっと形に残るものにしておけば……、いやいや、数時間で消えてしまう、はかないものでも、だからこそ思い出に残るということもあろうし……」
最初の一言こそ、フォウルに向けたものだったが、あとは独り言のようだ。
フォウルは立ち上がると、シリウスの部屋に入り、水流の駿馬をベッドサイドに置いた。
「アルファとカイルも何か用意してる」
「アルファとカイルも? 今日って、何か特別な日だった?」
「それは……」
フォウルが説明しようとしたとき、噂の赤と黒の人物が廊下を歩いてやってきた。
まずはアルファが、胸に手を当て、敬意のこもった礼をする。
黒鋼色の瞳がやわらかく細められた。
「どうやらすでにシャオとフォウルから贈り物をお受け取りになられたようですね。俺からの贈り物も受け取っていただけますか?」
アルファは内ポケットから、小さな箱を取り出した。
小箱を開けると、中に入ってたのは、銀色の細い指輪。
シリウスが受け取ってよく見ると、指輪の内と外側には、それぞれ精緻な彫刻がなされている。
どうやら文字のようだけれど、小さすぎてとても読めなかった。
「これ、なんて書いてあるの?」
「いかなる魂も主を傷つけることはかなわない。そう記してあります。一度だけですが、悪意ある攻撃魔法を無力化します。向けられた魔法と同じだけ、持ち主の魔力を消費してしまうので、いままでお渡ししませんでしたが、今の我が君であれば、かなりの威力の魔法でも相殺できるでしょう」
シリウスはさっそくもらった指輪をはめてみた。
銀色に鈍く輝く指輪は、細くシンプルなつくりであったけれど、どことなく大人の男、という雰囲気がかっこよかった。
なによりも、誰かの力に頼るばかりではなく、ちゃんと自分の力も使って自分を守れるという点がすばらしく気に入った。
アルファに、一人前と認めてもらえたようで嬉しい。
「ありがとう、アルファ……」
最後に残ったカイルは、シリウスの両手をしっかり握った。
緊張で冷えた指先。
けれど真紅の瞳がキラキラ輝いていた。
「あの、私は、何かを作ったりする技術がなくて。それで、もし、シリウス様がお嫌ではなかったら、その……」
いったん言葉を切って、つばを飲み込む。
「――歌をお贈りします」
「歌?」
「はい。子供のころから、歌曲は毎日練習させられていました」
カイルは、アレスタに住む竜人として、小さなころから祭日などの儀式の際、魔力を込めた歌を披露してきた。
祝いのまじないであり、ちゃんと魔力を込めれば実際それなりの効果がある。
今までは「仕事」として歌ってきたが、生まれて初めて「大事な人のため」に歌いたかった。
「カイルが歌ってくれるの?! 聞いてみたい!」
シリウスは興味津々だ。
今まで一度だって、カイルが歌を歌ってくれたことなんかなかったので、そんな特技があったなんてまったく知らなかった。
若く張りのあるカイルの声が大好きだったシリウスは、ぜひカイルの歌を聴いてみたかった。
シリウスだけではなく、他の竜人たちも知らなかったようで、意外そうな表情が浮かんでいた。
フォウルのつくった置物は、マイナスイオン加湿器。
次回は後編です。カイル、歌います。
あと、魔人たちもなんかやってます。




