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復讐者シャルと聖女イリス  作者: 大桜乱
第1章 シャルの記憶
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第9話 旅路と襲撃

 セロンを出て二日が経った。馬車に乗って移動しているが乗るのは久しぶりだったりする。二頭立ての、大きな馬車。聖女のために作られたのだろう、非常に乗り心地がいい。……感激だ!

 初めて乗った馬車は最悪だった。今でも思い出すと気持ちが悪くなる。舗装されていない道を通ったためもあったんだと思う。揺れるし、気持ち悪くなるし、尻も痛くて仕方なかった。まさに天国と地獄だ。そのせいか周りの風景もすごく新鮮できれいに見える。

 馬車の御者席にはガストンさんとオーランドさんが座っている。セロンの町に来る前に襲撃されたことを警戒している。客席には俺、そして向かい合う形でイリスとエイラさんが座っている。

 俺も外にいた方がいいんじゃないかと提案してみたが、イリスとエイラさんも新しい話し相手が欲しかったらしい。エイラさんは無言で外にいる二人を黙らせ、俺はこの二日間のんびりと世間話をしていた。やはりどこでも女性の方が強いのかな?


 エイラさんは世間話がかなり好きなようだ。この2日間でセロンの観光スポットや人間関係、そして俺のプライベートな質問をうけるまでになってしまった。……どうやら黙秘権はないようだ。

「じゃあシャル君は町では彼女とかいなかったの? 気になる子も?」

「ええ、残念ながら。町の人達にはお世話になってばかりでそんな余裕はなかったですね。滞在している宿の子なんかすごく俺のことを気にしてくれてたんですよ。もう姉弟みたいな関係になるくらいで。今度紹介しますね」

「きっと可愛い子ね。もう、間違いないわ。今から楽しみだわ! でもシャル君はどんな子が好みなのかしら? イリスなんてどう? 固そうに見えて可愛いところあるんだから。きっと尽くすタイプよ」

 それを聞いたイリスが慌てて反論する。

「エ、エイラさん! 何言ってるんですか。私は聖女です。恋愛なんかに興味ありません。……それに、私はむしろ尻に敷くタイプです!」

 語るに落ちてるよ、イリス……。


 そうして世間話していると、突然馬車が止まった。

「どうしましたか? ガストンさん」

「賊のようです、イリス様。馬車から出ぬようにお願いします」

 俺もエイラさんも外に出る。まだ賊は姿を現していない。

「数がわからんな……」

「魔力を探知する限り襲撃者は十五人。五人ずつの三グループに分かれて近くの森に潜んでいるようです」

 ガストンの言葉を遮り、答える。ガストンさん達は唖然とした顔をしている。特別な技術じゃないと思うんだけど。アーロンさんなんて俺が敵に気づく頃には先手を取ってるし。

「いつ襲ってくるかわからん。迎撃しよう。だが……」

 こちらを見てガストンさんが少し不安そうな顔をする。ギルドの紹介とはいえ、どの程度の力を持っているか分からない以上、不安なんだろう。

「皆さんとは連携をとりにくいと思いますので、俺が切り込みます。援護と撃ち漏らした襲撃者を皆さんにお願いしたいのですがいかがでしょうか?」

 ガストンさんは他のメンバーに視線をやり、同意を確認した。

「……わかった。だがくれぐれも無理をするなよ。援護はお前の行動に併せて行う。とにかく少しでも危ないと思ったら戻ってこい」


 ガストンさん達の了承をとったので早速森の近くに潜んでいるグループに向かって雷の魔法“サンダーストーム”を放った。牽制のためだ。

 しかし、放たれた雷の嵐は自分が想像したものよりも遥かに大きかった! 木々を撒き散らし、辺りを蹂躙する。難を逃れた襲撃者が慌ててこっちにやって来た。……遅い。エナジーボールを放ち、迎撃する。

 別のグループがこちらの襲撃に気づいたようだ。こちらに向かって魔法の矢“マジックアロー”を放ってくる! 矢を銀の腕輪で形成した盾で防ぎ、放った魔導士へ接近する。相手の驚愕が目に映る、と同時に相手の障壁ごと切り伏せた。

 魔導士があっさりと迎撃されたことに驚いたのだろう、近くで呆然としていた襲撃者達にオーランドさんがエナジーボールを連続して放つ。難を逃れた一人があわてて俺に切り込んでくる。俺は相手の剣をうけ、弾き、返す剣で相手を切り裂いた。

 少し時間をかけ過ぎたか? 馬車の方を見る。まだ襲われていないようだ。先ほど放ったサンダーストームがいい牽制になったのか。


 と、俺の周囲に魔力が集まる。大規模な魔法が来る前兆だ。

 ……しまった、油断した。クソッ! 俺は急いで防具に魔力を込めて守りに入る、と同時に辺りが炎に包まれた。熱い!

 このままだとヤバい、そう思ったとき冷たい風が吹いた。エイラさんの魔法だろうか、渦巻いていた炎が消え去る。

 辺りは焦土と化している。近くに倒れ伏して居た仲間もろとも殺すつもりだったのか。俺も新調した防具とエイラさんのフォローがなかったら厳しかったかもしれない。もう一度くらったらたまらない。襲撃者の気配を探る。

 ……しかしすでに敵の気配は消えていた。


 馬車に戻ると、みんな驚いた顔をしていた。

「……こんなに強いとは思わなかった。ギルドの紹介とはいえまだ子供が紹介されたからな。侮っていたことは謝ろう。しかしあまり魔力の無駄遣いはするな。あくまで目的は明日着くメイルの調査だ」

 サンダーストームで破壊された一角を見ながらガストンさんが呟く。そんなに威力がでるとは思わなかったんです、とは言えなかった。

 最近やっぱり魔力が上昇している。たまに見る夢が関係しているんだろうか。あまり思い出せない夢。見た後は体が自分のものではないかのような錯覚を覚える。


 と、そこで馬車の中からイリスが慌てて出て来た。

「シャル、大丈夫? ……火傷してるじゃない! 今治すね」

 そう言って火傷を癒してくれた。我慢できるくらいだったけど、すっかり良くなった。

「ありがとう、イリス。楽になったよ」

「無理しないでね……。すごく、心配したんだから」

 そんなイリスを見て、エイラさん以外はかなり驚いている。おそらく、聖女であるイリスとは距離を置いて接していたのだろう。一方でエイラさんはどこか満足げな顔をしている。


 その後辺りに襲撃者がいないことを確認すると、再び馬車で移動を開始した。

「……不自然、ですよね。強い力を持った魔導士が敵の中に居ました。それに引くのが早い。襲撃に来たというよりもこちらの戦力などの偵察にきた感じがしました」

 馬車の中で俺は疑問に思ったことをエイラさんに尋ねる。戦闘に長けた魔導士は少ない。少なくともあれだけの魔法を放つ魔導士が単なる盗賊とは思えない。

「あの、聞いてもいいですか? 以前も襲撃を受けたんですよね。これから向かう場所と何か関係があるんですか?」

 イリスはエイラさんを見て行っても良いか判断を仰いでいる。エイラさんは話してもいいでしょうとイリスに合図を送る。

「そうですね。実際に着けば分かることですし、今のうちに話しておきます」

 イリスの話はこうだった。最近になって魔力の少なくなる土地が増えてきたそうだ。大地にある魔力が枯れると辺りの自然が荒廃し、人に限らず動植物が住めなくなってしまう。

 特にメイルの村はその進行があまりに急だったらしい。そしてその魔力枯渇の少し前に、メイルの近くに大きな建造物が建てられていたそうだ。そこには最近の魔力低下の原因のヒントがあるかもしれない。ひょっとしたら襲撃者はその建物に近づくことを妨害しているかもしれない、とイリスは語った。


 その説明を受けて、俺は違和感を覚える。建造物の調査が目的ならば聖女であるイリスが行く必要はないのだ。多分、何かを隠している……。そこまで考えた時、ガストンさんから声がかけられる。

「今日はここで野営だ。シャル、準備を手伝え」

 ガストンさんは俺を認めてくれたせいだろうか、今までよりもこき使われた。その後、オーランドさんがしとめて来た鹿の肉と携帯食を食べると眠気が襲って来た。昨日は夜の見張りをしていたので、結構疲れていたのだ。気づくと、眠りに落ちていた……。


 次の日、一年前メイルの村だった場所に着いた。そこは、草木の一本も生えていない荒野だった……。

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