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復讐者シャルと聖女イリス  作者: 大桜乱
第1章 シャルの記憶
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第8話 イリスの依頼

 青い髪をした少女が目の前にいる。これからずっと一緒にいる、そう思う少女。高い魔力を生まれ持ち、そのためか周りの人達と髪の色が違っている。そのことをいつも気にしていた。

 僕は魔力には恵まれなかったけど、いつか強くなる。そしてこの少女を守っていきたい、そう思った。



――――――――――――



 昨日に引き続き、またも早くに起きた。夢にイリスに似た少女が出て来たような気がする。イリス……、なつかしい響き。記憶を無くす前に、どこかであったことがあるんだろうか。


 食堂で朝食をとっていると、ダニエルさんが慌てた感じでやって来た。

「シャル、よかった。もう起きていたか」

「どうしたんですか? そんなに慌てて」

「ああ、詳しくは言えないが、今からギルドに来てもらえないか?」

 急な話だな。けど、どちらにせよ昼前にはギルドに行く予定だったからいいかー。まだ働いていない頭で、わかりましたと答える。

「いや、今すぐにだって! のんびり食べてないで。ほら、食べながらでも行けるだろ?」

 え? このまま?

 ダニエルさんに半ば引きずられるような形でギルドに向かった。


 ギルドに着くといつもとは違う緊迫した雰囲気が漂っていた。そして奥にある個室に案内される。

「シャルを連れて来た」

 ダニエルさんがそう報告するなり、部屋からシャリーさんが出て来て緊張した様子で話しかけてきた。

「こんなに早くにごめんね、実は……」

「そこからは私から説明します。シャリーさん」

 シャリーさんの声を遮ったのは他でもないイリスだった。昨日話した感じとは違い神秘的な雰囲気がにじみ出ている。部屋に入りソファに腰掛けた。何の話だろう? 困惑している様子がみてとれたのか、イリスが話題を切り出した。

「シャルさん、突然ですがあなたを私の護衛としてしばらくの間、同行を依頼します」

 えっと、話題について行けない。イリスの護衛? なんで俺を? しばらくってどれくらい? 困惑した様子の俺を見てシャリーさんが申し訳なさそうに言う。

「急な話でごめんね、シャル。アーロンさんがいない今、この町ですぐに動けて最も戦闘力のあるのがあなただから。ダニエルは町の護衛で離れられないし。他の人も殆ど出払ってしまっていて。ほら、オーガを1人で倒した実績もあるし」

 ダニエルさんを見ると、悪いな、とばつの悪そうな顔をしている。

「あ、いえ、自分は構わないですよ。でも聖女の護衛なら普通に考えて十分な数が揃ってるんじゃないですか?」

 聖女、という言葉に顔をしかめながらイリスが答える。

「実はここに来るまでに襲撃を受けてしまって……。期間は一週間程度です。お願いできないでしょうか」

 頼み込むイリスを見て、イリスの後ろに控えていたガストンさんが俺を睨みつける。

「イリス様。こんな小僧に腰を低くする必要はありません。おい、小僧。出発はこれから2時間後。それまでに準備しておけ! 集合場所はギルドの前だ。イリス様、申し訳ありませんが物資の補給をして参ります。しばらくここでお待ちください。他の護衛はここに残ります故」

 そう言ってガストンさんは外に出て行ってしまった。冒険者をあのような見下した態度で接するのは教会の人間にはよくいる。教会は魔科学を肯定する一方でそこまでよい印象を持っていない。そのため、その基盤を支えている冒険者ギルドを疎しく思っているのだ。今回も冒険者ギルドに依頼をすることもガストンさんの苛立つ原因となっているのだろう。

 シャル、ごめんね……、そう顔で訴えてくるイリスを見ると、余計なことを聞いた俺が悪く思えて来た。

 俺も、いいよ、イリス。ありがとう、と声には出さずに答える。それを見て安心したのかイリスは嬉しそうに微笑んだ。

「わかりました。では俺も準備があるので2時間後にこちらに来ます。シャリーさん、昨日のゴーレムの報酬はその時に受け取りますのでよろしくお願いします」

「わかったわ。すぐに渡せるように準備しておくわ」


 そして俺は終始ずっと黙っていたダニエルさんと共に外に出た。

「シャル、急な話で悪いな。俺は町の警護でどうしても離れられないんだ」

「いえ、ダニエルさんが謝ることなんてないですよ。それに町の外に出る仕事にも興味がありましたし。ガストンさんとはやりにくそうですけどなんとかやってみますよ!」

 それを聞いて安心したのかダニエルさんは、頑張れよ、と言って仕事に戻っていった。


 とくかく旅の準備をしないと。まずはドニさんの所に行って装備を受け取らないとな。店に入るとドニさんが挨拶して来た。

「いらっしゃい! シャルか、装備品ならできているぞ。自信作だ!」

 そう言って差し出された黒い灰色をした半袖のジャケットと銀色の腕輪を受け取り、身につける。

「似合うじゃないか。やはり金髪と黒い服装の対比は合うな、銀の腕輪のアクセントもいい! さすが俺だな」

 職人によくあることだが、ドニさんも芸術家体質なんだよな。ワイバリアはたしか白に近い灰色だったはずだが、わざわざ黒に染めたのか。疑問が顔にでていたのか、ドニさんが答えてくれた。

「色が気になるか? アーロンが持って来たのがワイバーンの亜種でな、もともとこの色だったんだ。でも通常のワイバリアと比較して全体的に性能もいい。もちろん値段はそのままでいいよ!」

 いい作品を仕上げられてご機嫌なんだろう、ドニさんがにっこりと笑って答えてくれた。早速ジャケットと腕輪型の盾の具合を確認する。いい具合だ。ドニさんがご機嫌な理由がよくわかる。

「ありがとうございます。実は今日から町の外に出ることになったので助かりました」

「お、もう外に出る仕事を引き受けるようになったか。頑張れよ」

「ありがとうございます。頑張ります!」

 激励の言葉に感謝を返し、ドニさんの工房を後にした。


 ガストンさんは準備をすると言っていたが、やはり自分の分は自分で揃えておくべきだろう。携帯食料や解毒剤などをそろえておく。

 1週間程度とはいえ町を留守にする。できるだけたくさんの人に挨拶しておいた。みんな心配そうにしてくれたけれど、頑張れよ、と笑顔で送り出してくれた。


 そうだ、リタにもしばらく留守にするって言っておかないと。森の宿に入り、リタを探す。見つけるなり、リタが話しかけて来た。……少し怒っているように見える。

「シャル、どこに行ってたの? 突然いなくなってたから、お父さん怒ってたよ?」

「実は急にギルドに呼ばれてさ。しばらく外に出ることになった」

 言うなり、リタが明らかにショックを受けている。すぐにフォローしないと。

「長くても一週間くらいだから。そんなに心配するな、すぐに戻るよ!」

 そう言って自室に戻り、準備を整えた。そろそろ時間だ。ギルドに行かないと。一階に降り、リタに挨拶する。

「じゃあリタ、行ってくる。……そんな顔するなよ。ほら、これも持ってくし。すぐに戻るさ!」

 心配そうに俺を見るリタにお守りを見せる。少しは安心させられただろうか。

「うん……。いってらっしゃい、頑張ってね!」

 笑顔で見送ってくれたリタに背を向け、ギルドに向かった。


 約束の時間より少し前にギルドに到着する。シャリーさんから昨日の報酬を受け取っておこう。

「シャリーさん、昨日倒したモンスターと材料になります。ゴーレムのと併せて報酬をいただけますか?」

「わかったわ。……はい、全部で二十万エルになります。頑張ったわね。あとこっちはダニエルからの贈り物よ」

 そう言ってシャリーさんは真っ黒なロングコートを差し出す。

「仕事で頑張ってくれたお礼だって。旅に出るなら防寒具もしっかりとね。魔力を通しやすい材質で作られているから戦闘にも大丈夫だそうよ」

「ダニエルさん……、言ってくれれば良かったのに」

 やばい、感謝で胸がいっぱいだ。よしっ、イリスの護衛頑張ろう! ……しかし、金髪、黒いコートってあんまり人がよって来なさそうなイメージだよな。

 シャリーさんに行ってきます、と言ってギルドの扉を開け、外に出た。


 ギルドの前に出るとイリスの他、護衛であろう3人がいた。一人はもちろんガストンさんだ。

「シャルさん、来ていただいてありがとうございます。同行する人を紹介します。みなさん、紹介をお願いします。こちらは冒険者ギルドで依頼を受けてくれたシャルさんです」

 やはり護衛の中ではリーダー格なのだろう、ガストンさんが真っ先に発言する。

「ガストンだ。見ての通り戦士だ。……これからよろしく頼む」

 ぶっきらぼうにそれだけ言った。基本的に真面目な人なんだろうな。短い茶色い髪に髭をきれいにそろえ、いかにも真面目ですって顔をしている。一八〇センチ半ば程度の引き締まった体。いつでもイリスを守る為だろう、町中でも武装している。背中に背負った大剣。重厚な鎧。性格も併せて考えればおそらく戦闘スタイルはパワーで押していくタイプだろう。


「ガストンさん、そんなに冷たくしなくても。シャルさん、私は魔導士のエイラです。主に戦闘の補助や回復を担当します。よろしくお願いしますね」

 ガストンさんを嗜めたのは中年の女性だった。赤に近い茶色く長い髪。うなじの辺りで結っている。優しそうな顔立ちで、すごく上品な感じがする。見て分かる高い魔力。地味なベージュのローブを着ている。しかしなにかしらの付加がなされているにちがいない。ガストンさんが前に出て、後ろから援護するスタイルか。


「俺はエイラと同じく魔導士のオーランドと言う。よろしくな、シャル君。結構派手なタイプだから巻き込まれないように気をつけろよ」

 最後に名乗ってきたオーランドさんはガストンさんよりも少し若いくらいの男性だった。赤い逆立った髪。野性味溢れる顔立ち。一八〇センチ程度の身長。細身だが鍛えられているのが分かる。魔力はエイラさんと同じくらい。きっと魔法で攻撃する以外にも接近戦に秀でているのだろう。


 皆が聖女を守る為に選ばれた精鋭なのだろう、全員から強い自信と力を感じた。

「よろしくお願いします、皆さん。俺のことは遠慮なくシャルって呼び捨てにして下さい。戦闘スタイルは魔法で牽制後、切り込んでいくタイプです」

「お、なら俺と少し近いな。俺はどちらかというと後衛が主体だが。期待しているぞ」

 握手を求めて来たオーランドさんに応え、一番気になっていた質問をする。

「それで、今回はどこに行くんですか?」

「それは……」

「それは私が言います」

 オーランドさんの発言を遮り、イリスは答える。


「ここから馬車で三日ほど南に行ったところにあるメイルの村です。……1年前、突然の魔力の枯渇によって滅びた村」

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