第6話 リタとのデート?
ギルドの仕事を終えた俺は森の宿へと戻った。
食堂はさすがに昼食時だ。すごく賑わっている。
リタは……、まだ忙しそうだな。昼食の時間が終わってからと言っていたけど、どうせなら一緒に食べたほうがいいよな。
そう考え、自分の部屋に戻ろうとしたときリタがこっちに気付いて声をかけてきた。
「おかえりなさい、シャル! もうお昼食べた?」
「まだだよ。リタは?」
「あたしもまだだよ。じゃあ、後で一緒に食べよ?」
「オッケー! じゃあ俺は自分の部屋にいるから終わったら声かけてよ」
さて、リタが来るまで少し休もう。ゴーレムの魔力補充で少し疲れた……。
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「――は将来何するの?」
あんまり考えたことないな。だけど彼女にそう言うのは悔しい。
「あるけど、教えない」
「えー、教えてよー」
「やだよ。もう、すご過ぎて言えないんだ」
そう言うと、彼女は拗ねた顔をしてこう言う。
「じゃあ、いいもん。ずっと一緒にいればわかるもん」
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「シャル、起きてってばー」
「あれ? リタ?」
なんかすごく懐かしい夢を見た気がしたんだけどな……、思い出せない。
「おはよう、リタ。もう仕事終わったの?」
「うん、終わったよ。いつでも出かけられるよ」
あ、本当だ。宿の制服じゃなくて外行き用の格好をしている。
「あ、俺がプレゼントしたイヤリングつけてくれたんだ!」
「うん! 似合う?」
「もちろん。俺の見立てに間違えはありませんでした」
そう言うとリタは嬉しそうに微笑んだ。やっぱり赤いルビーはリタによく似合っていた。
「シャル、そろそろ出かけよう?」
「オッケー。リタは何食べたい?」
そう言った時、リタが後ろに何かを隠しているのに気づいた。何だろう?
「えっとね、実はお弁当作って来たの! 公園で食べよ?」
自然公園は町の面積の五分の一を占める、セロンの町の観光名所だ。町を一望できる高台や大きな池があり、町の人達の憩いの場だ。
公園のベンチに座り、リタの作ってくれた弁当を広げる。
「じゃん! どうぞ」
お、自慢気だ。でもそう言うだけある。ランチボックスの中には手のこんだ料理が詰め込まれていた。サンドイッチなんてすごくおいしそうだ。
「すごいな! 結構手間かかったんじゃない?」
「そんなことないよ。仕事のついでに作っただけだから」
リタはわたわたと手を振って答える。いや、かなりかわいいんですけど。宿の客じゃなくて格好いい彼氏でも作って来ればいいのに。リタの理想が高すぎてなかなか彼氏できないのかな。
「じゃあ、いただきます!」
早速目を付けていたサンドイッチを頬張る。う、うまい!
「すごくおいしいよ! わ、これもおいしい」
本当においしい。たくさんあるからどんどん手が進んでしまう。
「本当! よかったー。シャルって何食べてもおいしいって言うから、それくらいリアクションないとわからないよね」
え? そうかな。森の宿のご飯は本当においしいからそう言っているだけなんだけど。でもリタも俺が食べてるのを見て嬉しそうにしているから何でもいいか!
「リタも食べなよ。本当においしいよ」
俺ばっかり食べてリタはあまり手をつけてない。こんなにおいしいのに。
「え、あたしはそんなにお腹すいてないから、シャルたくさん食べて! 作るときに少し味見とかしたし」
女の子だし、あまり食べないのかもな。そういうことならたくさんいただきます!
た、食べ過ぎた。まさかあの大きなランチボックスに入った料理をほとんど俺が食べるとは思わなかった。
「ご、ごちそうさま。おいしかったよ」
ちょっと量が多かったけど。
「お粗末様でした! たくさん食べてくれてよかった」
そうして少しベンチで談話した。リタはすごく楽しそうだった。
「買い物あるって言ってたよね。そろそろ買い物に行く?」
「そうだね。じゃあ大通りの方へ行こう?」
大通りはセロンの町の中央を走っている。たくさんの店が並んでいて、各種ギルドやドニさんの工房、リタのイヤリングを買った出店も大通りに並んでいる。
「買い物あるって言ってたけど、何買う予定なの?」
んー、と顎に指を当てながらリタは何か考えている。買いたいものがたくさんあるのかな?
「とりあえず、色々見て廻ってみよ?」
そう言ってリタは駆け出していく。……このときに覚悟をしておくべきだった。
女の買い物は長い、とはよく言う。しかし、まさかこれほどとは……。なぜか俺の服も数着買うことになってたし。すでに俺の両手は買い物袋で塞がっている。
森の宿に着いた頃には既に夕暮れ時だった。リタは手伝いがあるから、と言って仕事に行ってしまった。俺はお腹もまだすいてないし、どうせだから森へ行って戦闘訓練でもするかな。
リタと別れた後、森へ向かった。せっかく冒険者になって森へ自由に行けるようになったんだ。できるだけ経験は積んでおきたい。
夕方の森は視界が悪い。近くにモンスターがいないか探りながら慎重に進む。
夕方あたりから出現するモンスターは昼間に出会うものと異なる。多くのモンスターは夜行性など変化する前の特徴を残していることが多いためだ。また大気に漂う魔力が強くなるせいだろうか、より強いモンスターが活動することが多い。
しばらく歩いているとウルフの群れが現れた。十数匹ほどだろうか。
飢えているのだろうか、眼がギラギラしている。とても逃がしてくれそうにない雰囲気だ。
アーロンさんにもらった剣を試すいい機会だ。相手してやる。
相手が包囲してくる前に連携を断つ! 俺はアーロンさんからもらった剣に魔力を込めると同時に、ウルフの群れに向かってエナジーボールを連続して打ち出す!
ウルフが散開する。俺は各個撃破すべく距離をつめ、近くにいるウルフに魔力を込めた剣で斬りつけた!
すると、まるでバターをきるみたいにあっさりとウルフを真っ二つにした! すごい。アーロンさんのくれた剣は俺の魔力とよく馴染む。
ウルフを切り伏せたところで、三匹のウルフが一斉にこっちにやってきた。
まずい、魔法で牽制しないと! そう思ったところでウルフ達の動きがやたらと遅いことに気づく。
ウルフが遅い? いや、俺が速くなってるんだ! 魔力で身体能力を上げた俺はウルフの動きを完全に超えていた。
俺は魔力で空中に足場を作り、ウルフ達の真上へ駆け上る! すれ違いざまに切りつけ、次のウルフへと視線を向ける。
それからは数分とかけずに、ウルフの群れを全滅させた……。
それから何度かモンスターの群れと遭遇したが、何の問題もなく退治することができた。
ゴーレムに魔力の補充をしたときにも感じていたが、戦闘をすると以前の俺より明らかに魔力と身体能力が上がっていることに改めて気づく。
昨日オーガと出会ってからだろうか。悪いことじゃないはずなんだけど気味が悪い。
そう思いながら歩いていると、きれいな歌が聞こえた。
え、歌? ここはモンスターが生息する森の中だ。とにかく保護しないと! 俺は歌の聞こえる方へ足を速めた。
開けた場所にたどり着く。幻想的な場所だ。きれいな花々が咲き誇り、ぼおっとした光が漂っている。この場に魔力が溢れているのがわかる。ここに歌の主がいるのだろうか。
そして俺は出会った。きれいな青い髪をした美しい少女、イリスと。