第3話 二日酔いと忙しい1日の始まり
空が赤い。
焼かれている。僕の村が。
僕は村へ急いで戻った。
心配だ。父さんも、母さんも、そして彼女も。
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……頭が痛い。目が覚める。時計を見るといつもより早い時間だった。
頭が痛くて気持ち悪いのは話に聞く、二日酔いというものだろうか。
……最悪だ。飲んでるときは楽しかったけど。
お腹が鳴り、空腹であることに気づいた。そういえば昨日は料理に手を出す暇なく酒を飲まされたんだった。
しかし、怠い……。何か二日酔いに効くものを作ってもらおう。
隣のベッドを見るとアーロンさんはまだ寝ているようだった。まだ早いし、アーロンさんは起こさないでおこう。
「おはよう、シャル。こんなに早く起きるなんてどうしたの!? 何かあった?」
「いや、何かあったって……、たまたま早く起きただけだよ。それより朝食頼めるかな。二日酔いに効くのがあると嬉しいんだけど」
テーブル席につきながら答える。
「二日酔いかー。何かあるかな。お母さん、シャルが二日酔いに効くもの欲しいって」
すると女将さんのマリーさんが調理場から出て来た。
「あら、シャル。だらしないわねー。ちょっと待ってなさい。薬と一緒に消化にいいもの持って来るから」
マリーさんはそう言って調理場に戻って行った。リタのお母さんだけあって面影はあるんだけど、なんというか恰幅がいい。リタも将来こうなるんだろうか……。
余計なことを考えているのがバレたのか、リタがジトッとした目で見て来た。
「そ、そんなことより、リタ。み、水もらえるかな? 喉が渇いちゃって……」
客の注文を無視して、リタが向かいの席に座った。
「ねえシャル。今日はお仕事するの?」
急に話をふられて戸惑いつつも考える。
「いや、昨日の仕事で装備がダメになったから今日は買い物することにするよ」
するとリタはうれしそうに話しかけてきた。
「あたしランチの時間終わったら自由時間なんだ。あたしも買いたいものあるから一緒に行かない?」
俺の買い物は装備品とかだから、リタは退屈だろうな。
ちらっとリタを見る。俺の答えをじっと待っているようだ。
「いいよ。でも俺の買い物は冒険者用のものだから、昼前にすませておくよ。んで、昼後はリタの買い物に付き合おう?」
「やった! じゃあ昼後にうちに戻ってきてね、絶対だよ」
リタはどこか嬉しそうな足取りで調理場へ行った。
朝食をとり、薬で幾分か楽になった体で部屋に戻るとアーロンさんが起きていた。
「おはよう、シャル。珍しいな、私よりも早く起きているとは」
「おはようございます、アーロンさん。昨日のお酒のせいですよ。朝起きたら頭痛くてびっくりしました」
「……酒の訓練もしておくべきだったな。昨日はお前の祝いの席だったのに、お前がつぶれた後は私が連中の相手だ。……ただ酒飲めたからいいけどな」
どこか嬉しそうな顔で言う。アーロンさんはザルだっていう噂だから、たくさんお酒が飲めてご機嫌なんだろう。
朝食から戻ってきたアーロンさんは世間話をするように急な話を切り出した。
「今日から仕事でまた一週間程度、この町を離れることになった」
「何かあったんですか?」
「……活性化しているモンスターの調査でな」
アーロンさんは月に一度、一週間くらい町を離れる。
理由は毎回異なる。冒険者なら普通のことかもしれないが、それにしては定期的な気がする。
この町に来る前のことはあまり聞いたことがない。それに関係しているのだろうか。
アーロンさんほどの力を持った冒険者ならば、本来もっと大きな町で活躍していてもおかしくない。いや、すでに大きな町で遊んで暮らせるだけの蓄えだってあるはずだ。
……考えても仕方ないか。アーロンさんにだって色々事情があるだろうし。俺の師匠であることに変わりはない。
大通りを歩きながら装備品についてのアドアイスを受ける。
「装備品を新しくするなら魔力の伝導性に優れた材質のものがいいだろう。お前は魔力に恵まれているからな。多少高くついても長持ちするはずだ」
「そうですね。今まで使ってたやつだと魔力が全然伝わらないから、オーガみたいなやつに一撃喰らうと終わりなんですよね。そうなると伝導率の高い金属製の鎧とかですかね?」
「重い材質だと速さを活かせなくなる。軽い材質を優先した方がいいだろうな」
「そうですね。今日これから工房に行って相談してきます」
「そうだな。ドニならいい物を選んでくれるだろう」
話しているうちに町の出口に着いた。
「それでは私はこれで行く。無理はあまりするなよ」
「分かってますって。アーロンさんが戻ってくるまでに腕を上げて、ビックリさせてあげますよ」
アーロンさんは少し溜め息をついてから答えた。
「……楽しみにしておこう」
「はい。期待しててくださいよ!」
なんか会話が噛み合っていないような?
そしてアーロンさんは行ってしまった。一週間程度とはいえ少し寂しい。
でも次に会ったときにビックリするくらい成長して驚かせよう。そう決意し、町中へ足を向けた。