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復讐者シャルと聖女イリス  作者: 大桜乱
第1章 シャルの記憶
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第2話 夢と力の覚醒

 俺には高い魔力があるとアーロンさんは言っていた。

 魔力は思い描いた想像を現実世界に顕現させるための媒介だ。魔法の力は想像力と魔力によって決定される。

 多くの魔法使いは魔力不足を補うため、想像を固めるために呪文を用いる。もちろんそれによるメリットもある。単純な想像力でなされた魔法よりも複雑な事象を引き起こすことができる。一方でデメリットとしては魔法が展開されるまでに、時間がかかることが挙げられる。

 しかし魔力の多い俺は簡単な現象をイメージし、魔力を注ぐだけで強い魔法を行使できる。複雑な魔法の行使がしづらい代わりに、魔法の展開が非常に速い。

 このためモンスターに囲まれ不意打ちをうけても、気配を察知した方向に魔法を打ち込めば撃退できる。おかげで順調にモンスターを退治し、今日の戦利品としては十分な量の魔石と材料を回収していた。


 もう少し狩りをしたら帰ろうかなと、探索を進めていくにつれおかしなことに気付いた。さっきからモンスターの気配がなくなっている。

 確かにこの森はモンスターがそれほど多く出現するわけじゃない。町の近くにあるくらいだ。さっきまであれだけのモンスターがいたことだけでも珍しいといえる。

 さらに不可解な点として、得られている魔石は聞いていたものより全体的に大きい気がする。

 こういう時の勘は大事だとアーロンさんに言われていた。今日はここで引き上げよう、そう考えた。

 その時目の前に巨大なモンスターが突如現れた。

 四メートルは優にある巨大な体躯。赤い肌。頭に突き出ている二本の角。金色の瞳。……オーガだ。

 金色の瞳はモンスターの上位に君臨する魔族の特徴だ。通常のモンスターよりも遥かに高い身体能力と魔力を持っている。

「ガァァァァ!!!!」

 叫び声が響く。勝てる相手じゃない! すぐに逃げなくては。

 目の前にいるとはいえ、まだ数メートルの距離がある。魔力でけん制し、逃げようと魔法を解き放つ!

 しかしオーガは魔法をものともせず、すごい速さで俺に向かい、持っている鉈で俺を、袈裟切りにした……

 冒険一日目で死ぬのかよ。まだ何もできてないのに。くそ、死にたくない……

 そして俺は意識を失った……



――――――――――――



「おめでとう」

 意識が朦朧とする中、人を馬鹿にしたような口調でその科学者は言った。

「君は――と相性がいいようだねぇ? 今からこれが人にどんな影響を及ぼすか実験するから頑張って生きてね。よいデータを期待しているよ?」


 ビー! ビー! 警報が鳴り響く。

「警報、警報。サンプルナンバーS〇九が暴走を開始しました。各スタッフは速やかに対処に移ってください」

「残念だ。君はいいサンプルだったんだが、廃棄が決まった。本当に残念だ。バイバイ」



――――――――――――



「ギャァァァァ!!」

 オーガの叫び声で目を覚ました。

 気が付くと、俺の前には肉片を森にまき散らしてオーガが死んでいた。

 寒い……。辺りの魔力が枯渇し、草木は枯れ果てていた。

 しかも明らかに致命傷だった俺の傷が治っている。

 これは、俺がやったのか? いつの間にか日が傾きかけていることに気付いた俺は、半ば呆然としながら町へと戻った。


 ギルドに戻るとシャリーさんは帰ってきた俺の装備がぼろぼろだったのと、持ってきた魔石の量にびっくりしていていた。

「シャル! 何があったの? 怪我はない?」

 やさしい言葉をかけられ、疲れがどっと押し寄せて来る。

 ようやく俺はかなりの緊張状態にあったことに気付いた。

「はい。大丈夫です。心配かけてすみません。それより今回の報酬をもらいたいんですが」

 魔石と採取した材料を渡しながら答える。

 ずっと心配そうな顔をしていたが、今の言葉で俺が大丈夫だと判断したのだろう、仕事を始めてくれた。

「お疲れさま。今確認するわね。……シャル、オーガを倒したの!?」

 オーガは初級冒険者が倒せるような相手じゃない。ベテランの冒険者が数人で倒すような相手だ。

「ええ、まぁ。無我夢中であまりどうやって倒したのか覚えてないんですけどね」

 本当に覚えていない為、ぼかして答えた。

「そう……、でもシャルが無事ならよかったわ。はい、今回とれた魔石とアイテムを合わせて……十二万エルになります。すごいわね! これなら装備を新調できるわね」

 自分でもびっくりだ。初めての仕事で報酬を得たこともすごくうれしいけれど、提示された金額は駆け出しの冒険者が獲得するには破格の報酬だ。

 なにせこれだけあれば普通の人なら半年くらいならそれなりに遊んで暮らせる金額だ。

「じゃあ、シャル。お疲れ様。あとは森の宿でお祝いをする予定よね?」

「そうですね。そうだ、シャリーさん。実はリタに何かプレゼントを買おうかと思うんですが、何かいいアドバイスありませんか?」

 自慢じゃないが俺は女の子にプレゼントなんて全くしたことがない。大人の女性ならきっといいアドバイスをもらえるはずだ。

「シャルが一生懸命選んだものなら、何でも喜んでくれるんじゃないかしら? でも一般論で言えばきれいなアクセサリーかしらね」

 どこかシャリーさんがにやにやしている気がするのは気のせいだろうか。

「うーん、わかりました。とにかく一生懸命選んでみます。シャリーさん、ありがとうございました。今日はこれで失礼します」

「お疲れ様。頑張ってね」

 ひらひらと手を振っているシャリーさんに別れを告げ、大通りへと向かった。


 大通りに出ると日が傾きかけているせいか、出店が昼間よりも減っていた。

 道を歩いていると、おしゃれなアクセサリーを広げている店を見つけた。

「いらっしゃい! お、シャルじゃないか。今日から冒険者ギルドに登録したんだろ? お祝いに何か買ったらどうだい?」

「こんにちは。実は自分のじゃなくて女の子へのプレゼント探してるんですよ。いいのないですかね?」

「お、プレゼントか。いい女でも見つけたか? じゃあ気合い入れて選ばないとな!」

 並んでいるアクセサリーを見てみる。どれもきれいだけど、リタが喜んでくれるかが分からない。

 そこで商人が声を上げた。

「これなんかどうだ? 小さいがルビーがついたイヤリングだ。シャルもそんなお金持ってないだろうし安くしとくよ!」

 うん、確かに赤いルビーはリタの赤味がかかった髪と眼に合いそうだ。

「じゃあ、それにします! ありがとうございました」

 安くしてくれたと言うには少々高かったプレゼントを買うと、森の宿へ向かった。


 森の宿に入るとリタが駆け寄ってきた。

「シャル、どうしたの、その恰好! 怪我はない!?」

 すごく心配そうな顔をしている。

 しまった。どうせなら装備も新しくしておけばよかった。

 俺は笑いながら、答える。

「見かけはぼろぼろだけど、怪我とかはないよ。軽い怪我はしたけど魔法で直したし、ほら、こんなに元気!」

 そう言って、力こぶを作ってみせた。

「……無事ならいいんだけど。あと少ししたらシャルのお祝いするから着替えてきてね!」

「待ってリタ。リタにプレゼントがあるんだ」

 調理場へ引き返そうとしているリタを引き留め、俺は後ろに隠してあったリイヤリングを差し出した。

「いつもありがとう。これは俺の初めての報酬で買ったものだから大事にしてくれよ」

「あ、ありがとう。えっと、大事にするね」

 リタは驚いた顔をして、嬉しそうにほほ笑んだ。この笑顔を見れただけでも、奮発したかいがあったかな。

 ぼんやりと考えながら自分の部屋へ向かった。


 着替えて少し休んでから食堂に降りると、

「シャル、冒険者デビューおめでとう!」

 食堂に集まった人たちからお祝いの言葉をもらった。

 といっても、みんなこれを口実に飲みたいだけみたいだからすでに酔っぱらっている人がちらほらと見られる。せめて俺が来るまで飲むのは待とうよ……。

 そんなことを考えているとアーロンさんが座っている席を見つけた。

「シャル、今日はどうだった?」

 アーロンさんが今日の様子を聞いてくる。

「はい、結果的には大成功です。ただ少し気になる点が」

 俺はアーロンさんに、普段よりもモンスターが多く出現したこと、さらには森に通常出ないはずのオーガが出たことを説明した。

 アーロンさんは難しい顔をしながら、俺に注意を促した。

「私にも最近モンスターが活発化している感覚がある。何かの兆候かもしれんな……」

 アーロンさんも最近のモンスターについて何か思うことがあるようだ。難しい顔で考え事をしている。

「……ふむ、丁度よかったのかもしれん。シャル、冒険者になった祝いの品だ。受け取りなさい」

 そう言ってアーロンさんはきれいな剣を俺に渡してくれた。渡された剣は派手な装飾とかはないけれど、とても手に馴染んだ。

「その剣は魔力を帯びやすい金属で作られている。魔力の高いお前が使えば効果的だろう」

「ありがとうございます。すごくうれしいです!」

 よし、これでどんどんモンスターをやっつけてセロンを守ろう! 剣を見ながらそう考えていると、ガコン! 頭に何かをたたきつけられた。

 振り向くとトレーを持ったリタがいた。

「調子に乗らないの。今日ぼろぼろになって帰ってきたこと、忘れたの? 単純なんだから……、それと、これは私からのプレゼント!」

 そう言って後ろに隠していた包みを俺にくれた。

「ありがとう! あ、旅のお守りだ。ひょっとしてリタ作ってくれたの?」

「べ、別にいいじゃない。冒険者になった人にはお守りをあげるって聞いたから、それだけなんだから! と、とにかくおめでとう!」

 そうだけ言うと、調理場へ行ってしまった。

 そういえば今一瞬だけ耳元にプレゼントしたイヤリングが見えた気がしたな。


 それからは代わる代わる先輩冒険者からアドバイスと祝いの言葉をもらった。

 その都度酒を勧められてしまい、いつの間にか俺は意識を失ってしまっていた。

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