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復讐者シャルと聖女イリス  作者: 大桜乱
第1章 シャルの記憶
12/28

第12話 復讐の誓い

 丘を越えるとセロンが見えた。なんだか本当に長いこと旅に出ていた気がする。いや、俺の記憶はこの一年間しかない。だから一週間という短い時間でも、そう思ってしまっても当然かなと思う。

「やっと着いたって感じだな。旅は慣れているつもりだったけど、今回は少し疲れた」

 オーランドさんも緊張の糸が切れて来たようだ。メイルでの出来事を考えると、当事者でなくとも相当疲れただろう。

「オーランド、まだ護衛中だぞ」

 ガストンさんがオーランドさんをたしなめる。しかし、すぐに顔を緩めた。

「とはいえ今回は私も少々疲れた。後でうまい酒でも飲みに行くか?」

「お、いいですね。ご相伴にあずからせていただきます」

 そうだ! ぜひ皆に森の宿を紹介したい。

「それなら俺が泊まっている宿に食べに来て下さいよ。すごくおいしいんですから!」

「あら、もちろん行かせてもらうわ。前に言ってたリタって子もいるのよね? ぜひ会いたいわ。ね、イリス?」

「エ、エイラさん! ……そうですね。シャル、夕方あたりに行きますね」

「あ、ああ。歓迎するよ」

 な、なんか怖いな。提案としては間違っていないはずなのに、何かのスイッチを押してしまったような……。


 そんなことを言っているといつの間にかセロンに着いた。残念ながらダニエルさんはこちら側の門にはいないようだ。

 大通りを通ると、セロンに帰って来たな、と改めて思う。

 ギルドに着くと、いつも通りシャリーさんが笑顔で挨拶してくれた。

「おかえりなさい! シャル」

「ただいま、シャリーさん。無事、仕事を終えました」

「本当にお疲れさま。……なんか男として一皮むけたった感じね」

 俺をじっと見つめながら、シャリーさんは言った。お世辞だと分かっていても、大人の女性から褒められると照れる。

「そうだ、アーロンさんが戻って来てるわよ! 今森の宿にいると思うわ」

「本当ですか!?」

 アーロンさんには話したいことがたくさんある。イリス達とご飯を食べる前に話しておきたい。

「アーロンさんって、シャルの面倒を見てくれている人よね。後で紹介してね」

 イリスもアーロンさんが気になるようだ。探していた幼なじみの恩人なら、気にもなるのだろう。

 それからはシャリーさんに今回あったことの報告を終え(といっても言える範囲だけど)、イリス達とは一時別行動をした。


 森の宿に着く。なんか疲れが急に来た気がする反面、気持ちが楽にもなってくる。勢いよく扉を開けた。

「ただいま!」

 昼食の後片付けをしていたのだろうか、丁度食堂にリタがいた。持っていた皿を落とした。そしてリタは、目に涙を浮かべた。

「シャル……、よかったぁ」

 やばい、なんか俺も泣きたくなってきた。

「ただいま、リタ。無事に帰って来たよ。お守り、効きました」

 親方のアドルフさんがニヤニヤしているのは気になったけれど、俺は抱きついて来たリタに驚いたり、泣いている女の子をどう扱ったらよいかわからなかったり。でも、なんかほっとした。


 なんとかリタを宥めて自分の部屋に戻ると、アーロンさんがいた。

「お久しぶりです。アーロンさん」

「久しぶり? そうか。色々と、あったようだな」

 それから俺は今回の旅で分かったことをアーロンさんに聞いてもらった。

「アーロンさん。一年前、俺は森で倒れてたって言ってましたよね?」

 アーロンさんは俺をじっと見た後、答えた。

「お前を見つけたのは、メイルの研究施設跡だ」

「アーロンさんは……」

 俺の言葉を遮ってアーロンさんは答える。

「お前はまだ記憶が戻っていない。そうだな?」

「はい……」

「記憶を、取り戻したいか?」

「正直、分かりません」

「ならば、今は何も言えん。ただ、俺はあの研究所とは関係がないとだけ言っておく。……それで、いいか?」

「はい、十分です!」

 アーロンさんとは一年間も一緒にいた。今更疑う余地はない。でもいつか、記憶が戻った時にもう一度聞いてみよう。


 それからはイリス達が森の宿にやって来て、とにかく楽しんだ。イリスとリタが何故かにらみ合っていたり、アーロンさんとガストンさんが妙に気が合ったり、オーランドさんが二人につき合わされたり、ドニさんがエイラさんに一目惚れしてプロポーズしたけどふられたり、とにかく騒がしくも楽しかった。


 次の日、イリス達はレアへ帰って行った。イリスは、俺がレアに来たら自分に会えるようにと、ペンダントと書状を渡してくれた。きっといつか会いに行くからと、約束して別れた。


 森の宿に帰ると、何やら騒がしい。中に入るとリタがアドルフさんと言い争いをしていた。

「ど、どうしたんですか、二人とも?」

 リタはこっちを見ようとしない。アドルフさんは俺を見るなり睨んできた。でも俺に怒っている訳でもなさそうだ、どこに感情をぶつけたらいいか分からない、そんな表情。

「……リタがな、お前が近いうちに旅に出るから、一緒に付いてくって言ってるんだ」

「リタ、何で!?」

 驚いてリタを見る。誰にも言ってないのに。リタは泣きながら俺を見た。

「分かるよ! 昨日も、今日も、シャルはどこか遠くを見てるんだもん! だからあたしは……」

「リタ!」

 リタは宿を出て行く。アドルフさんは動かなかった。

 俺はとにかくリタを追いかけた。


 町外れの野原まで来た。もう夕暮れだ。

「リタ……」

 リタは息を整え、夕日を背にしてこちらに振り返った。

「シャル。行っちゃうんでしょ?」

「いつか、町を出ようとは思ってた。今回の旅で、少し自分が分かって……」

 リタは黙って俺の言うことを聞いている。

「でも、すぐにってわけじゃない! まだ先の話だ。だから」

「だから、何よ? 行っちゃうんでしょ。だからあたしも付いて行く!」

「落ち着いてくれよ。きっと俺と一緒に来てもいいことなんてない」

 だからセロンで幸せに暮らしてくれ。そう言おうとした。

「好きなの! わかってよ。一緒にいたいの」

 頭が真っ白になる。リタが俺に抱きついてきた。

 俺にとってリタは……。


 俺は答えの代わりに、リタを抱きしめた。

「一緒に、アドルフさんを説得しようか」

「うん」

「旅って結構大変だよ」

「うん」

「俺って結構抜けている所あるから……」

 言い切る前に、リタは俺の唇にそっと自分の唇を重ねた。


 しばらくリタと抱き合っていると、夕日に陰が差した。……陰?

 大きな陰……、飛空挺! こちらへ飛んで来る。それにはレア王家の紋章が描かれている。

 突然、聞いたこともない大きな音が連続して響く。飛空挺から何かが弾き出されているようだった。

 何が起こったか分からなかった。

 ただ、たった今まで抱き合っていたリタから、力が抜けていた……。

 目の前で起きたことに理解ができない。

 こうしている間にも飛空挺が俺達のすぐ近くに着陸してきている。

 リタは、動かない。

 自分の手を見る。赤く染まっている。

 これが何か、理解できない。

 分からない。理解できない。

 だけど、以前、こんなことが……。


 ――フラッシュバックする。


 俺の村が焼かれる記憶が。

 父さんと母さんが倒れたことが。

 俺が奴らにされたことが。


 ――痛い! 声にならない音を叫びながら、俺はただ啼く。


 飛空挺から黒い服を着た連中が降りて来る。

 中には白い服を着たのもいる。中にはゴーレムも数体いるようだった。

 思い出した。俺の村を襲った奴らだ。メイルで俺を研究していた奴らだ。

 黒服達が俺達を囲む。何か言っている。

 でも、今はどうでもいい……。

 ただ、リタが。


 死んだ?


 ……許せない!

 周辺の魔力を吸い上げ、連中にただぶつけた。

 辺りは火の海と化した。奴らの叫び声も聞こえた。

 飛空挺もゴーレムも何もかもが壊れる様も見えた。

 それでも俺は、ただ啼いていた。

 

 ……アーロンさんがやって来た。

 リタを守れなかった俺の方へと。

 俺は視線を合わせられない。

 ただ、リタを見て泣いていた……。


「救いたいか?」


 アーロンさんは俺に尋ねる。

「答えろ!」

 俺はわけも分からず、アーロンさんを見上げる。

 アーロンさんは俺の胸ぐらを掴んで叫ぶ!

「惚けるな。ただ願え! お前の力はそのためにある!」

 わけが分からない。

 だけど、それでもリタを救えるなら!

 俺はただひたすら願った。リタを救いたい!


 俺とリタが赤い光に包まれた。

 暖かい光。膨大な魔力で形成される、現実世界を作り替える光。


「シャル。泣いているの?」


 リタの声が聞こえた!

 リタが目を開けた!

 俺は、リタを抱きしめた。


「よかった、リタ」

 本当によかった。

「シャル、痛いよ」


 俺はリタを放し、立ち上がった。

 そしてアーロンさんの方へ振り返った。

「思い出しました。全部」

「……そうか」

 アーロンさんはそれ以上何も言わない。

 俺の答えを待っている。


「俺は、赦しません」

「誰をだ?」

「この国を。だから、俺はこの国を壊します」


 ふと、優しい顔をした幼なじみの顔が浮かぶ。

 ごめん、イリス……。


 この日、俺の復讐は始まった。


これで「復讐者シャルと聖女イリス」の第一章は終わりです。


明るいエピローグを期待されていた読者の皆様、本当にごめんなさい。これでも登場人物達に愛着が湧いて、当初のプロットと比較すると大筋は変えないにしろ、かなり柔かくなっています。


第一章は大きな物語の中のプロローグに相当します。なので、次章からは普通の(?)ファンタジーのように明るい雰囲気でいきたいと考えています。いや、どうやって? と気になる方はぜひ次章を読んで下さい。いえ、読んで下さい、お願いします。


大変な終わり方になってしまいましたが、どうか今後ともお付き合いのほどよろしくお願いします。

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