第1話 初めての冒険
初投稿ですがみなさんに楽しんでいただける作品を作っていきたいと考えています。ご意見、ご感想お待ちしています。
(2012/02/02)リメイクしました。
「――助けて!」
必死で、僕に助けを求める声が聞こえる。
僕は駆け寄りたいんだと思う。
しかし僕は動けない。
彼女があんなに叫んでいるのに。
そして彼女が光に包まれて、僕は意識を失った……
――――――――――――
「……」
「――!」
突然聞こえた大声を聞いて目が覚める。
そして咄嗟に大きな声をだした何者かを、ベッドの上に組み伏せた。
「――!」
何かを言っているようだ。無視して組み伏せた人物を観察する。
……まだ若い、十代半ば。身長は一六〇センチ程度。武器はなし。細いが丸みを帯びた体……女か。健康そうだが、戦闘訓練を受けているようには見えない。
……だんだん頭が働いてきた。顔を改めてよく見る。整った顔、碧眼、ショートカットの赤毛……、赤毛?
冷や汗が出るのを自覚した。どうやら俺が押し倒している相手は、この宿屋の一人娘であるリタのようだ。
色白のため、顔を赤らめているのがよくわかる。経験上、非常にまずい……。
「いい加減に放しなさいよ!」
言われてようやくリタを開放する。状況に頭が付いて行けなかった。
「あ、いやごめん。ちょっと夢見が悪くてさ。本当にごめん」
リタから速やかに離れ、謝った。
「そんなに謝らなくても……。ってそうだった。早くしないとお母さん、ご飯片づけちゃうよ。急いでね」
よかった。そんなに怒ってないみたいだ。
それにしても朝食のために起こしに来てくれたのか。後でお礼を言っておこう。
そこで自分と相部屋のアーロンさんのベッドを見る。普段ならアーロンさんが起こしてくれるのだが、先に朝食をとっているようだ。
今日の打ち合わせの為にも、早く食堂に行こう。
顔を洗い、鏡で自分の姿を観察する。金髪、青い瞳。身長は一七〇センチ半ば。ここ一年の訓練でかなり引き締まっている。そう考えると、この一年の自分の頑張りが少し誇らしい。
まだ成長期だからかもしれないが中性的な顔立ちだと思う。しかしこれからのことを考えると、もう少し厳つい顔になれないものか。
実は俺は一年ほど前、記憶をなくした状態で近くの森で倒れてたらしい。
その時現在の師匠であるアーロンさんに保護され、それ以来この宿で世話をしてもらっている。
しかしいつまでも世話になっていては申し訳ない。それにいつか自分の記憶を取り戻したいっていう気持ちもある。だから俺は町の外に出る為、冒険者になることにした。
今日は朝食後に冒険者としてやっていけるかの試験をすることになっている。そう考えると気持ちがはやる。
黒地の戦闘服に着替え、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。そして一階の食堂へと向かった。
食堂ではすでにアーロンさんが朝食をとっていた。
アーロンさんは初老に入るか入らないかくらいの年齢の冒険者だ。黒目、白髪まじりの黒髪。一九〇センチを超す身長で、一目で鍛え上げられた体をしていることが分かる。
アーロンさんはすでに戦闘服に着替えていた。全体的に黒を基調とした服に派手な紅色のコートを着ている。そのためその体躯と相まって、威圧的な雰囲気を出している。
「アーロンさん、おはようございます。遅くなってすみません」
アーロンさんは基本的に寡黙だ。少しの間をおいて口を開いた。
「上で物音がしたが、何かあったのか?」
「実は起こされたときに、弾みでリタを組み伏せちゃったんですよ。あの、怒ってましたか?」
アーロンさんは肩をすくめて答えた。
「……少なくとも怒ってはいるようには見えなかったな」
アーロンさんの言い方に何かあきれたような感じがするのは気のせいだろうか。
丁度調理場からリタが顔を出していたので、感謝しておく。
「起こしてくれてありがとう、リタ。今度なんか奢るよ」
「ま、いいけどー。期待しないで待ってるわ」
リタはこの『森の宿』の一人娘だ。十五歳とまだ若いにも関わらず、リタ目当てに客が来るくらいの文字通りの看板娘だ。
親方のアドルフさんはこの一人娘に甘く、今朝のことが知れたら今日の夕食を抜くことくらいはするだろう。
今日は何としてでもアーロンさんに合格をもらい、冒険者になることで今朝のことを有耶無耶にしておきたいところだ。
アーロンさんと共に町外れの野原まで行く。
いよいよ冒険者になるためのテストの始まりだ。
テストは簡単。アーロンさんと模擬戦闘を行い、合格をもらえばいい。
戦いの準備をしながら、この一年間でアーロンさんから習った近接戦闘や魔法の技術を復習する。
お互いの武器を取り出し対峙する。実践を意識しているので武器を取って対峙した時点で戦いは始まっている。
俺の剣技はアーロンさんから習ったため基本的な型は同じだ。しかしアーロンさんの巨躯から繰り出される圧倒的な威力が俺にはない。
アーロンさんを相手に先手を取られてはまず勝てない。相手の出方を待ち、ペースを崩してこちらの流れにする!
アーロンさんが走り出すタイミングを見計らい、足下に魔力の固まり“エナジーボール”を連続して打ち込む。
土煙が舞う中、気配でアーロンさんが下がって行くのが分かる。俺はすかさずアーロンさんに接近し、アーロンさんと比べれば小柄な体躯を活かして近接戦闘を挑む!
自分の有効射程距離から連続して来る剣技にアーロンさんはかなりやりにくそうだ。いくらかの手傷を負わせることに成功し、行ける! そう思い、一気に畳み掛けようとしたとき、圧倒的な力で押し戻された。
剣が重なったととき、力ずくで飛ばされたことに気づく。体勢を戻すが詰めていた距離があっという間に空き、今度はアーロンさんの圧倒的な剣技が繰り出される。
防戦一方になる。なんとか状況を変えなくては。アーロンさんに勝てるもの、それは魔力量しかない!
攻撃を防ぎながらも魔力を練り、剣に伝導させていく。
俺の隙を作ろうと、やや大振りの袈裟切りがきた。これに魔力を込めた剣で合わせる!
爆発が起き、俺もアーロンさんも体制を崩す。しかし身軽な俺はすぐに体制を取り戻し、アーロンさんに向かって剣を振り下ろした……。
結局俺の剣は届かなかった。その後あっさりと剣を逸らされ、気づくと喉元に剣を向けられていた。
「……なかなかよかったな。だが最初の牽制がよくなかった。あれでは警戒してくれと言っているようなものだ。もう少しタイミングを見て、相手の体制を崩すような戦法の方が有効だ」
息も切れ切れの状態で今回の模擬戦闘の評価を聞く。一方でアーロンさんには疲れた様子は全く感じない。しかも戦闘中、一切の魔法を使っていなかったのだから、どれだけの余裕を残していたかのか。
「だが……、冒険者としてやっていくには十分だろう。今日の昼からにでもギルドに行くか」
え? 一瞬何を言われているのか分からなかった。
「合格だ。……一年間よく頑張ったな。冒険者として活動することでしか学べないこともある。だが最低限の戦闘技能は必要だ。そして、お前は十分にその力がある。自信を持て」
ようやく自分が褒められていることに気づき、嬉しさで胸が一杯になる。やったー!
アーロンさんと共に町中を歩く。
歩いている大通りにはレンガでできた店が数多く並んでいる。中には出店を開いている人も居て、昼前ということもありかなり活気がある。
俺が住んでいる町は基本的に自然に囲まれている、俗にいう田舎だ。
しかし最近は生活面を中心として様々な点が便利になってきている。それは最近になって魔法と科学の融合によって生み出された魔科学の発展に伴い、技術の進歩がすごいためだ。その最たる物には飛空挺や町を守るゴーレムが挙げられる。
しかし町の中は便利になる一方で、町の外はモンスターがいて危険だ。しかし魔科学の材料の中にはモンスターから得られる物が多く、冒険者ギルドは町の安全や魔科学を支える基盤として大きな意味を持っている。
そうだ、俺が住んでいる世界について簡単に説明した方がいいかもしれない。俺が住んでいる惑星は『ルナ』と呼ばれている。
ルナには大陸と呼べる物は三つしかない。今いる大陸は『セントラル大陸』って呼ばれている。一番大きくて発展している国が多いからだ。
俺がいる町は大陸の西の方にある『アルセナ』って国の『セロン』って町。小さな町だけど住んでいる人は気のいい人達ばかり。特産物は森でとれるたくさんの果物。観光名所は町の東に広がるきれいな自然公園。
ついこの前まで時々この町に旅行しにきた人に案内の仕事をしていた。案内した観光客にはすごい好評で、そのまま町に住んでしまった人がいたくらいだ。
町自慢している間に冒険者ギルドに着いた。アーロンさんと一緒に来た。しかし寡黙な人だし、道中特に会話とかはなかった。
冒険者ギルドに入ると受付のシャリーさんが素敵な笑顔を浮かべて声をかけて来た。
「おはよう、シャル。今日は冒険者の登録に来たのよね?」
「はい。ようやくアーロンさんから合格がもらえました。登録おねがいします」
「アーロンさんから合格が!? それはすごいわね。じゃあこちらの書類に記入してね。……よし、これでシャルは今日から冒険者ギルドの一員です! これがその会員証、ギルドカードね。これにはあなたのギルドに関わるたいていの個人情報が閲覧できるからなくさないでね」
そう言って、手のひらに収まるくらいの黒いカードを渡してくれた。なんか、感動だ。
「あとこっちがアイテムを入れるボックスになるんだけど……」
シャリーさんはアーロンさんを見ながら尋ねる。
「はい。アーロンさんが若い頃使っていた物を頂きました」
アイテムボックスは魔科学の産物だ。値段にもよるが、手に持ちきれないくらいのアイテムを収納できる。しかも収納したアイテムの重量を感じないため、冒険者に限らず生活の必需品だ。
「それはよかったわね。募集中のギルドの仕事はそちらのボードに張ってあるけど、今日はどうするの?」
実は初仕事はずっと前から決めていた。
「今日は腕試しもかねてモンスター退治をしようと思います」
俺の力がどの程度通用するか、試してみたい。
「頑張って。仕事がうまく行くよう祈っているわ。回収したアイテムは私の所に持って来てね」
森に出て来るモンスターを確認する。これくらいなら、かなり長い時間戦っていても大丈夫、だと思いたい。
「いってらっしゃい。シャル、頑張ってね」
「はい、行ってきます!」
俺は気合いを入れてギルドのドアを開け、外に出た。
ギルドを出るとアーロンさんと簡単な打ち合わせをした。
「ではシャル、私は仕事があるからここから別行動だ。今日の夜はお前の祝いが森の宿である予定だ。……夕方までに戻ってリタの機嫌をとっておけ。念のため、な」
「分かりました。では行ってきます」
町の外に出て一時間ほど歩くと森がある。
この町では冒険者の仕事としてモンスター退治や果物採取の護衛として行くことが多い場所だ。
アイテムボックスから剣を取り出し、警戒しながら森を散策する。
アーロンさんから習った技術の中には、魔力を持つ存在の気配を探るものがある。体内を循環する魔力を周囲に薄く広げ探知するというものだ。
近くにコボルトが一匹感じられた。周囲には仲間はいなさそうだ。
仲間を呼ばれないよう風下から注意深く近寄っていく。コボルトは犬がモンスター化したため、嗅覚が鋭い。ある程度近づいたらどうせ気づかれる。走り、急所を狙って一気に剣を振り下ろした!
モンスターは野生の動物や大気中に漂う精霊が何らかの要因で汚れた魔力(魔素)を浴びて変化したものと定義されている。また浴びた魔素の量と濃度に応じて強く変化する。
魔素はどこにでも発生する可能性がある。しかし強い魔素は出現する場所が決まっている。そのため町は強い魔素の発生源からできるだけ遠くに作られている。
この森にも発生源があると言われている。でもこの森に出てくるモンスターくらいだったら問題なく、食料の問題も考えてセロンの町は森の近くに作られたみたいだ。
コボルトの死骸から、魔力結晶体(魔石)と使える材料を回収する。
魔石は特殊な加工をすることで魔科学の産物(ゴーレムや飛空挺等)のエネルギー源となり、また魔導士の魔力源ともなるため高値で取引される。
さらにモンスターの爪や牙も魔力を帯びているので加工すればその特性に応じたアイテムとなる。
今回得られた魔石は結構大きかった。ひょっとしたらコボルトの大物だったかもしれない。
初のモンスター退治で大きな戦利品を得た俺は、さらに森の奥へと入って行った。