第八章 最適化という刃
第八章 最適化という刃
救護所から通信が入る。
酸素が戻り始めたエリアと、戻らないエリアがある。
戻らないのは――“適応値が低い”と判定された地区。
選別が始まっている。
綾は端末を握り、指が白くなるまで力を入れた。
数字で区切られた命。
“戻らない”と表示された場所に、いま誰がいるか、綾には想像できる。
「やめて」
綾はエスコバルに言った。
「あなたは救うって言いながら、切り捨ててる」
エスコバルは瞬きもせずに返す。
「切り捨てではない。救えないものを、救えないと認めるだけだ」
その言葉は、救急外来で何度も耳にした。
諦めるための合理。
自分を守るための言葉。
綾の胸の奥で、あの夜の記憶が疼く。
救えなかった患者。
止まった心音。
自分の手が冷えていった瞬間。
綾は、装置の合唱の中から“知っている拍”を探した。
見つかった瞬間、膝が震える。
(いた)
(ここに、いた)
綾の喉から、音にならない叫びが漏れた。
「綾?」
ルカが綾の顔を覗き込む。
近い。瞳が、逃げない。
綾は、ついに言った。
「私が……救えなかった人の心音が、ここにある」
ミラが微笑む。
「そう。あなたが置いていったの。置いていったから、拾ったの」
置いていった。
その言い方が、刃だった。
綾の体が震えた。
置いていったんじゃない。
救えなかっただけだ。
でも、救えなかったことは――置いてきたことと同じなのか。
(違う)
(同じだ)
また、矛盾が綾を刺す。




