表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
石段は、あなたの心音を覚えている――マチュピチュ2237  作者: 百花繚乱


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/12

第六章 コカ茶の苦味、沈黙の甘さ

第六章 コカ茶の苦味、沈黙の甘さ


救護所へ一度戻り、最低限の処置を指示した綾は、再び遺跡へ引き返した。

ルカの提案で、途中の休憩所に立ち寄る。


木の椅子。薄い毛布。コカ茶の湯気。

綾が口をつけると、苦味が舌にまとわりついた。

苦いのに、喉が楽になる。

生きるって、こういう矛盾だ、と綾は思う。


「綾」

ルカが言う。

「君、あの装置の合唱の中で……何かを聴いた?」


綾は答えられなかった。

“救えなかった夜”の記憶が、喉の奥を塞ぐ。


ルカは追及しない。

代わりに、コカ茶をもう一杯注いだ。

湯気が、二人の間の沈黙を柔らかくする。


「俺は」

ルカがぽつりと言う。

「遺跡を守りたい。守りたいから……嘘をつく」


綾はルカの指を見た。

石に触れる指。

血の匂いのしない指。

でも、その指は震えている。


「嘘は、誰かを守ることもある」

綾は言った。

「でも、嘘は……誰かを孤独にする」


ルカの喉が動いた。

「孤独にしたくない」

その言葉が、ふいに甘く聞こえた。コカ茶の苦味の奥から。


綾は目を逸らし、息を吸う。

薄い空気が肺を刺す。

それでも、胸の外の心音は静かに寄り添っていた。


(まだ、聴かせない)

綾は思った。

自分の過去の名前を、まだ言えない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
コカ茶の苦味と沈黙の甘さという対比が絶妙。恋の温度が静かに上がる。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ