表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
石段は、あなたの心音を覚えている――マチュピチュ2237  作者: 百花繚乱


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/12

第五章 ミラ――固定された未来の優しさ

第五章 ミラ――固定された未来の優しさ


制御盤へ向かう通路は、観光ルートにはない。

ルカの指紋と虹彩で開く扉。

中は冷たい。空気が澄みすぎている。消毒された手術室みたいに。


白い光。無音。

足音だけが、硬く響く。


壁面に古い記録が投影される。

酸素適応研究。遺伝子編集。倫理審査の停止命令。

そして――心音保存構造体。


綾の喉が鳴った。

心音を、保存する。

そんなことが、できるのか。


「ここはね」

ミラが前を歩きながら言う。

「悲しまないための場所。泣かないための装置」


綾は、その言い方に寒気を覚えた。

悲しまないことは、救いなのか。

泣けない世界は、生きているのか。


通路の先に巨大な円形装置があった。中心に石が浮かび、光が呼吸するように明滅する。

石なのに脈打つ。

石なのに、心臓みたいだ。


綾が耳を澄ます。

――とくん。

――とくん。

数百、数千の拍が重なった合唱。


その中に、ひとつ。

綾の背骨を真っ直ぐ貫くリズムがあった。


(……知ってる)

知っている拍。

あの夜、止まったはずの拍。


綾は思わず聴診器を握りしめた。

銀色の金具が、掌の汗で冷たく光る。


「ミラ」

綾は言った。

「その心音……誰の?」


ミラは微笑む。

「名前はね、いらないの。固定すれば、全部同じになるから」


綾の胃が沈む。

固定。

同じ。

それは、救いではなく――“消去”だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
心音保存構造体の設定が物語を一段引き上げる。過去と未来が物理的に繋がる瞬間が鳥肌もの。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ