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第十一章 揺れを守るメス
第十一章 揺れを守るメス
最後の課題は、遺跡の心臓をどう扱うか。
破壊すれば固定は防げるが、酸素インフラが失われ、未来の命が削られる。
保存すれば、また誰かが固定を企む。
綾は制御室に戻り、石に触れた。
合唱の中に、あの夜の患者の拍がある。
だが今は、それだけが突出していない。
他の拍と並び、和音として鳴っている。
(あなたは“ここで”生き直せる)
綾は胸の内側で、その心音の主に語りかけた。
名前を呼べないままでも、聴き直すことはできる。
ルカが提案する。
「心臓を公開しよう。秘密にすると奪われる。共有すれば見張れる」
エスコバルが頷く。
「監視ではなく、合意か」
綾は頷き、条件を作る。
アクセス権を分散。緊急時の手順は透明化。監査は多国籍。
完璧ではない。
だからこそ、生きている仕組み。
ミラが微笑んだ。
輪郭が揺れている。
でも、消えていない。
「揺れるの、ちょっと好き」
ミラが言う。
「痛いけど、あったかい」
綾は笑った。
「それが生きてるってこと」




