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第十章 診断名:未来過剰固定症
第十章 診断名:未来過剰固定症
酸素網が戻り始めた。
だが今回は、選別ではなく“均し”として戻る。
戻り方が、意志を持った救いに変わっている。
救護所の少年の唇が赤く戻る。
綾は聴診器を当て、胸の中で拍が強くなるのを聴いた。
(助かる)
その確信が、胸を熱くする。
遅れて戻ってきたルカは、足元がふらついていた。
綾は脈を取る。乱れている。危うい。
「ばか」
綾は言った。
怒りではない。怖さだ。
ルカは笑おうとして咳き込み、それでも言った。
「君の“ばか”は、救命処置みたいに効く」
エスコバルが報告を受け取りに来た。
数字が並ぶ端末を見て、彼の眉が僅かに動く。
「救命率が上がっている……?」
綾は頷いた。
「数は、あなたの言うとおり大事。でも、数のために人を消すと、結局“数”も減る」
エスコバルは黙り、そして小さく言った。
「管理しにくいな。揺れる未来は」
綾は答えた。
「だから、聴くんです」
「……聴く?」
「人の鼓動を。沈黙を。遺跡の歌を」
エスコバルは去り際、視線だけを残した。
それは初めての“迷い”だった。




