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嘘の世界1

戻る配置

作者: ハル
掲載日:2026/02/14

毎日同じ配置に戻される場所があった。


広いわけでも狭いわけでもない部屋で、机と椅子と道具が置かれている。

夜になると、誰も触れていないのに、すべてが元の位置に戻る。


少しずれても、倒れても、翌朝には同じ間隔、同じ向きになっていた。


戻す役目のものはいない。

戻る、という出来事だけがある。



そこでは、人が一人、作業をしていた。

作業の内容は決まっていない。

決まっていないが、手はいつも同じ動きをしていた。


切るでもなく、組み立てるでもなく、ただ触れて、置いて、離す。

出来上がるものはない。

失敗も成功も残らない。


彼はそれを自分の才能だと思っていた日もあった。

思っていなかった日もあった。


どちらの日も、手は同じように動いた。

才能があるかないかで、動きは変わらない。



ある日、隣の机に、見覚えのない道具が置かれていた。

形は簡単で、使い方も分かる気がした。


彼はそれに触れた。

すると、いつもの動きが少しだけ速くなる。

速くなったことに意味はなかったけれど。


ただ、速くなった。


次の日、その道具はなかった。代わりに、別の場所に、同じ道具が置かれていた。

彼ではない誰かが使っているようだ。


使っているというより、動いているだけだったが、動きは彼よりも正確だった。

正確さが良いのかどうかは、ここでは決まっていない。


彼は自分の手を見た。

前より遅くなっていた。

遅くなったことに理由はない。


才能が移った、と思ったが、その考えはすぐに形を失った。

移るという言葉が、この部屋に合わないからだ。



昼と夜の区別は曖昧だったが、配置は必ず戻った。

彼の手が止まっていても、道具が増えていても、減っていても、朝には同じ並びになる。


ただ一つ、手だけは戻らなかった。

置き場が決まっていないから。


途中で、部屋のルールが一度だけ壊れた。

夜が来たのに、配置が戻らなかった。

机は斜めのまま、椅子は倒れたまま、道具は散らばっていた。


彼は待った。

待つ以外のことが思いつかなかった。


しばらくして、突然すべてが元に戻った。

戻り方は、いつもより丁寧だった。


隙間がなく、揃いすぎていた。完璧に見えたが、どこかが過剰だった。



彼は道具を一つ、手に取った。

才能かどうかは分からない。

使えば動きは出る。

使わなければ何も起きない。


彼は置こうとした。置く直前で、手が止まった。


部屋はすでに元の配置だった。

戻るべき場所も、戻った後の形も、すべて揃っていた。

彼の手だけが、離す直前の姿勢のまま、そこに残っていた。


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