戻る配置
毎日同じ配置に戻される場所があった。
広いわけでも狭いわけでもない部屋で、机と椅子と道具が置かれている。
夜になると、誰も触れていないのに、すべてが元の位置に戻る。
少しずれても、倒れても、翌朝には同じ間隔、同じ向きになっていた。
戻す役目のものはいない。
戻る、という出来事だけがある。
そこでは、人が一人、作業をしていた。
作業の内容は決まっていない。
決まっていないが、手はいつも同じ動きをしていた。
切るでもなく、組み立てるでもなく、ただ触れて、置いて、離す。
出来上がるものはない。
失敗も成功も残らない。
彼はそれを自分の才能だと思っていた日もあった。
思っていなかった日もあった。
どちらの日も、手は同じように動いた。
才能があるかないかで、動きは変わらない。
ある日、隣の机に、見覚えのない道具が置かれていた。
形は簡単で、使い方も分かる気がした。
彼はそれに触れた。
すると、いつもの動きが少しだけ速くなる。
速くなったことに意味はなかったけれど。
ただ、速くなった。
次の日、その道具はなかった。代わりに、別の場所に、同じ道具が置かれていた。
彼ではない誰かが使っているようだ。
使っているというより、動いているだけだったが、動きは彼よりも正確だった。
正確さが良いのかどうかは、ここでは決まっていない。
彼は自分の手を見た。
前より遅くなっていた。
遅くなったことに理由はない。
才能が移った、と思ったが、その考えはすぐに形を失った。
移るという言葉が、この部屋に合わないからだ。
昼と夜の区別は曖昧だったが、配置は必ず戻った。
彼の手が止まっていても、道具が増えていても、減っていても、朝には同じ並びになる。
ただ一つ、手だけは戻らなかった。
置き場が決まっていないから。
途中で、部屋のルールが一度だけ壊れた。
夜が来たのに、配置が戻らなかった。
机は斜めのまま、椅子は倒れたまま、道具は散らばっていた。
彼は待った。
待つ以外のことが思いつかなかった。
しばらくして、突然すべてが元に戻った。
戻り方は、いつもより丁寧だった。
隙間がなく、揃いすぎていた。完璧に見えたが、どこかが過剰だった。
彼は道具を一つ、手に取った。
才能かどうかは分からない。
使えば動きは出る。
使わなければ何も起きない。
彼は置こうとした。置く直前で、手が止まった。
部屋はすでに元の配置だった。
戻るべき場所も、戻った後の形も、すべて揃っていた。
彼の手だけが、離す直前の姿勢のまま、そこに残っていた。




