その少女ら
水術大会。16人の男女が集い競う、一種の見世物でありオークション。優勝者は五芒家のうち1つの護衛として起用される。この国の王族はあまり表に出てこないことを考慮すると、あるいは王族の警護…近衛兵となるよりも名誉なことかもしれない。
盛り上がる客席とは遠く、闘技場にて2人の人魚が向かい合っていた。
「……ねえ、イグニ」
「なあに?」
「…一緒だね」
「ええ、そうね。……貴女と一緒に居ることが…ほんの少しだけ淋しく感じるわ」
「そう?わたしは嬉しいけどな」
「あら、珍しいわね。貴女が私の元を離れたくせに」
「あはは。…こうしてさ、戦えるんだもん。ねえイグニ」
改めてフォリアがイグニに向き直る。
彼女らの目は見開かれ、静寂の中で構えをとる。
このとき2人に共通していたものは1つ。
「……勝たせてもらうわよ、フォリア」
「こっちの台詞だよ…イグニ!!」
金の鐘が開始を告げる。相応しい実力を見せてみろと、観客の鼓動の高鳴りを後押しするように。
「水術──〈蕩流〉」
イグニの掌から優しい流れが放たれ、フォリアの放ったつるごと、ぎゅるりと巻き取られる。汎用魔法の中でも相手を拘束する魔法として便利とはいえ、この精度と練度はイグニ自身の努力の結晶そのものだ。
「この程度で止めたつもり?水術、〈寒鳴肌〉!!」
頭上の水が氷り、鮫が象られる。創られた氷の牙は、そのままイグニへと突き進んでゆく。
けれどその氷は、紅き血にあてがわれ蒸発し、消え去った。
「おいおい、レベルが高いな…」
「そりゃそうだろ、2人とも優勝候補だぞ?そこらの人魚よりも腕が立つってもんだ」
「でも、最初で当たってほしくは無かったかも。もっと後に見たかったわ」
「確かになー。まあでもこれはこれでいいかもな!」
目を皿にして見守る観客と、闘技場を悠々と泳ぎ回り魔法を次々と放つ2人の人魚。
イグニの動きが若干鈍ったのを見逃さずに、拘束をしようとハエトリグサを放つ。
「やられた!!あの時よりも精度が高まってるわね…!」
「当たり前じゃん、成長するのはイグニだけじゃないんだよ?」
「それもそうね。……《熱解》」
「あっ!?」
「お返しするわ。水術〈蕩流〉」
「あっっっっっつ!?!?」
ドロリと融けたハエトリグサは魔法に乗せられ、フォリアのもとに帰って行く。指先に火傷を負うもすぐさま避けたフォリアも負けじと〈蕩流〉を放ち、とろけた熱は拮抗する。
「あら、汎用魔法の威力上がった?押し返しづらいのだけど」
「そりゃあ鍛えてましたよ…!イグニこそ、固有魔法どうなってるのさ。昔はそんなに熱くなかったよ?」
「私を舐めないでほしいわね、フォリア。”紅き血”なのだから当然でしょう?お転婆な姫様とは違うのよ」
「それもそっか。イグニは強いもんね。昔からわたしとずっと一緒で、お転婆なわたしの手を引いて一緒に遊んでくれたっけ。……ふふ、懐かしいなあ」
「……」
思いを馳せる彼女とは真逆に、その目に未来を宿らせるイグニ。酷く固く結ばれた1つのつながりは、真逆に向かうお互いを引き合い、現実へと引き戻す。
「…あ、試合だったね。ごめんごめん」
「まったく、貴女何してるのよほんと…でも、ちょっとだけ頭がすっきりしたかも」
「え?」
「なんでもないわ」
彼女の胸中で何があったのか、それを知る術はない。今あるのは試合をしているという事実で、お互いが向かい合うべきものということだけ。
「……《燃え盛る血の玉》」
「《穿雷》」
炎と雷のぶつかり合い。観客の大声すら届かぬ轟音の中、彼女たちは笑っていた。
「ああああ〜〜〜っっらぁ!!」
「おおおああああああああああ!!!」
瞬間音が消え、粉塵が舞う。力と力の衝突が終わりその煙を開けば、そこにはより強かったほうが立っている。
『勝者、イグニ・ファワリス!』




