水術大会
『さあさあさあ、漸くでございます!!五芒家、ひいては王族までも観に来る水術大会!!今回は始まって以来初めての「人間」の出場ということで、大盛りあがりすることになりそうです!!みなさん、準備はいいでしょうかーー!?』
わっ、と歓声が上がる。……わけもなく。会場──その観客席は静まり返っていた。
『っと…そうですね、今回の優勝候補を見ていきましょう!!今回は”紅き血”イグニ・ファワリス!!そして変幻自在のパズルマン、メラク・スクリボ!!さらには近衛のフリーダム・プリンセス!フォリア・アルフィルクまでも出場!!さて、今年の優勝は誰の手に入るのか!?』
すぐさま、歓声。というより、振動が伝わる。男女分けられた控室にはあまり情報が入ってこない。防音もしっかりしているため、この震えが唯一の情報源というわけだ。
『そして、今年観覧に来た五芒家は……ファルカダイン伯爵家!!その若き当主、アリファ・アル・ファルカダイン伯爵がいらっしゃいました!!』
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「ファルカダイン…!?生きてる中で初めてよ、ファルカダイン伯爵家は」
「……うん、わたしも。ねえイグニ、お母さんから連絡来たんだけどさ…わたしたち優勝候補らしいよ」
「え、ほんと?まあ私達は同世代、ひいてはマーレでも練度高いからね。そりゃ入るか。……で、ルミナは?」
「事前情報が無いから、見世物って感覚。お母さんも本当に大丈夫なの?って心配してたよ」
「そう…ていうか貴女勘当されてるんじゃなかった?」
「う…今回は無理を言ってると言いますか、陛下の護衛といいますか」
「そんなことだろうと思ったわ。……ん?」
「どうしたの?」
「いえ、あの女性……」
2人が見たのは、手を組み祈るように…いや、祈っている人魚。美しい黒色の髪に、白い肌。傍目に見ても美しいとわかるその絵に描いたような見目は終わりを告げ、その双眸を開いた。
「……神よ。視ていてください。愚かな隷者に、獄の雷よりも生き難い引導を渡して差し上げましょう…」
「…信者か」
「そうだね。邪魔しないでおこうか」
この国…いや惑星では、宗教というものは強大な力を持っている。一万年前の戦争が未だに尾を引くほどに、神……聖典の影響力は強かった。故に、邪魔をしようものなら直ぐに魔法で制圧される。
「……決勝に行けるといいね」
「ええ、そのためにも……まずは一回戦を突破しましょう」
「うん!」
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男子控室にて。
「……大丈夫なのかい、人間くん」
…先程祈祷をしていた人魚か…。絵に描いたような赤と紫のグラデーションだな……異彩を放つ真っ白な目がとても綺麗だ。
「…貴方は」
「俺はメラク・スクリボだ。いやまさか、隷者が出るなんて思いもしなくてなぁ、よろしく頼むよ」
「よろしく。握手でもするか?」
「……ああ、丁度緊張していたところだしな。よろしく、ルミナ・エライよ」
「…?名乗った覚えはないぞ」
「有史以来初めてなんだよ。水術大会に人間が出場するのは。大抵のやつが君の名前を知ってるさ」
「そうか…」
確かに唯一の人間だ。有名な家の出なら知っていても疑問はないか。
「お、君次じゃん。行ってきな」
「ああ。俺は強いぞ、メラク」
「ははっ!決勝で会えることを祈るよ」
「ふふ、俺もだ」
……メラク、か。会場に立てば、俺と相手は敵同士…。あまり話すべきじゃ無かったかな?
「ま、なんとかなるか」
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『……し、勝者、ルミナ・エライ!!』
先程よりも静かな空間。観客の歓声が俺を包むわけもなく、その誰もが食い入るように、いや時が止まったように俺を…正確にはその相手である男の人魚を見つめていた。




