3人
「おはよ〜……ふあぁ」
アンの護衛を兼ねた共同生活が始まって、1週間が経過した。夜遅くまでアンと共に魔法の制御訓練をしたフォリアは、ぐっすり眠れたようでかなりの疲れが取れていた。
「大きめのあくびだな、フォリア」
「起きるの早くない……?」
「いや、アンの方が早起きだぞ。ほら」
フォリアがリビングに目を見やると、スプーンとフォークを両手に握って、料理をこれでもかと待ちわびているアンが居る。
「ご飯まだ……?」
「ん、丁度できたとこだよ。フォリアもどうぞ」
「…ありがと、ルミナさん」
「……ルミナも元気だよね。昨日わたしより遅く寝てたでしょ……?アンちゃんの魔法の訓練に付き合って、わたしとアンちゃんが気絶した後のこともやってくれたんだよね?」
「固有魔法使えば短時間で長く寝れるから……」
「……そっか」
穏やかな顔をしながらルミナの手料理を食べるフォリアと、美味しい美味しいと、誰も取りはしないというのにご飯を口いっぱいに頬張るアン。2人を見て思わず、ルミナの顔も緩んでしまう。
「……ルミナ、無理はしないでよ?」
「してないよ。出来るだけ寝るようにもしてる」
「にしたって、魔法も魔力も使いすぎだし危険だよ!」
「……いや別に……魔力量は多いから」
魔法を短時間(フォリアの体感時間)に何度も使い、魔力の枯渇を危惧するフォリアとは真逆にルミナは落ち着いていた。常人より魔力量が多く、それなりに無茶な運用をしても自己補完の範疇に収まるからだ。
だが、それをフォリアとアンが許すはずもない。
「……アンちゃん、蛇攻撃開始」
「ぎょい」
「え?だから疲れてなんかないって──っうわ!?」
「ルミナはそこで休んでて。今日はわたしたちが全部やるから」
「ええ……?わかった、任せるよ。ただし俺の洗濯物とかは自分で──」
「だめ」
「うぐ……わかりました。任せますよ」
「よろしい!」
─────
そうして昼食から10時間が経過して、夕食も訓練も入浴も全てが終了した。ただ、3人分の食事の用意と入浴を2人で、そして訓練の全てをフォリア自らがこなした。ルミナは傷の回復程度で、2人の行く末を見守るだけだった。
そんなことをして、フォリアの体力が無事であるわけはなく、そこには2つの屍が出来上がっていた。
「大丈夫か?」
「うう……魔力もすごく消費しちゃうね、これ……」
「つ、つかれた……お水飲まなきゃ……」
アンは特別だ。身体のほうではなく、魔法が、だ。地上の生物を使役する魔法という、人魚にとってこれ以上無いハンデを背負わされたアン。その魔力は齢10歳の時点で成人女性の平均ほどの総量であり、さらには魔法陣を球体に覆うという、他とは全く仕様の異なる固有魔法になっている。
故に、魔力の減りも相応に早い。
「……まあ、一日お疲れ様。アンは戦闘センスも相当のものだし、水術大会に出てもかなりの成績を残せるほどにはなってるよ。フォリアも使い減らした体力でアンの物量を相手に、今までと異なる魔法の運用法を考えてた。今日一日でかなり成長できたな」
「……ほんと?」
「そっか……はは、ルミナの魔力量どうなってるの……?」
「さあね。なにぶん測ったことがないから知らないや」
「ええ……」
「……今日、凄く助かった。正直精神面じゃかなり疲れてた自覚があったから」
何気なく言葉を零すルミナの顔は心なしか口角が下がっており、気疲れしていたようだ。
「だから、ありがとう。これからは適度に頼ることにするよ」
「……うん。わたしたちも手伝いまくるから覚悟してね!」
「ん!」
「ああ、頼りにしてる」
─────
更に2週間後。魔力の運用や魔法の精度もそれなりに仕上がったアンは、既にフォリアとの模擬戦でもかなり戦えるようになった。
「あー、ずっと負け続きだよ!」
「フォリアは今年は一回戦で負けたとはいえ、優勝候補どうしのぶつかり合いだった。それも手の内をかなり知ってる幼馴染だし、仕方ない」
「わたしとしては勝ちたかったんだけどなあ」
「……わたしが大人になったら、フォリアちゃんに勝てる?」
「……勝てるよ」
「ふふ、わたしも強くなってるぞー?」
「じゃあそれ以上に強くなって勝つ!」
2人のライバル関係に、ルミナはひとつ物思いにふける。自らの人生に於いて、固有魔法が強かったこと。戦闘訓練の相手が使用人や腕の立つ魔道士だったこと。訓練に明け暮れ同年代の仲のいい相手がいなかったこともあって、ライバルはおろか友もいなかった。
だから、フォリアとの出会いは確実にルミナの何かを変えていた。
「頑張れよ2人とも。俺はもっと遠いからな」
「もっちろん!ルミナにもいつか勝つからね!」
「わたしもー!」
「……受けて立つよ」




