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水の国の交流譚  作者:
一杯目・五芒家編
13/15

幼子の声

「来ないで!!」

「ア、アンワルちゃん……!止められないの!?」

「ごめんなさい……!止め方が、わからなくって……!」

「そんな……!」


無数の羽根を旋回させながら怒りと心配の色に顔を染めたアンワル……伯爵の妹は、ルミナとフォリアを扉の前に留めていた。


─────


数十分ほど前。


「よかったなフォリア。伯爵様に許可を貰えたからいいものの……」

「あははー……そろそろ、貯金が底をつきそうで」

「え」

「その……最近働いてた店の収益が見込めなくて、泣く泣く解雇に……」

「郊外の悪い面が出たか。仕方ないところではあるけど」

「それに、おじさんも体調が悪いみたいで」

「……病気か?」

「ううん、多分老化。わたしも時々見舞いに行ってたんだけど……明日から入院だって聞いた」

「そうか……」


(フォリアは人脈がある。イグニの伝手で都市部の情報も入ってくるし、これから伯爵家での仕事で、マーレの内情もかなり知ることができる筈だ。……本当に、見れば見るほど人間と同じだ)


その事実は、ルミナにとってかなり大きな衝撃を与えた。人間社会の中で恐れられ、忌避されてきた人魚。水者(人魚)が嫌いで嫌いで堪らないとされていた隷者(人間)。それがあまりにも似通っていたから。


「伯爵様が言うには、アンワルちゃんの固有魔法が地上の生物を使役するから忌避されてるんだっけ?」

「ああ。だから俺の存在自体が、妹の壁を壊すきっかけになるかもしれない」

「なるほど。じゃあ、ルミナはたくさん頑張らないとだね!」

「……そうだな」


─────


「止め方がわからない、か……」

「恐らく、今まで気絶して乗り切ってきたんだろう」

「え?」

「首のあたり、蛇の噛み跡が大量についてる」

「蛇……?」

「地上に居る細長い生物でな。鋭い牙やよく開く顎を使って自身より大きな生物を丸呑みしたり、毒を分泌させて殺してくる。俺らでもたったの一滴で死ぬ毒を持つ蛇も居るほどだ」

「一滴……!?」

「死んでないなら、毒は持ってないんだろ。……俺の固有魔法で時を戻す」

「それなら……!」


ルミナが相手に触れずに時を戻せる理由。単純に、空間──範囲を指定して、その中の時間を戻しているだけ。それを実現するためにどれほどの時間を要したか、彼の知るところではない。


「《逆流(レトログラード)》」

「戻った……!!」

「ふぅ。……あー、お邪魔してますアンワルさん。俺達は貴女の護衛に──っと」

「隷者はいらない」

「ちょっ……」

「このお姉ちゃんだけでいい。あなたはいらない」

「お、お姉ちゃん?アハハ……」

「……おいフォリア、絆されるなよ?」

「わかってるよ。ルミナの言葉が鍵になるかもしれないんだし」

「……お姉ちゃん、わたしの味方じゃないの?」

「え?」


アンワルは目に涙を滲ませて、震えた声でフォリアに訴えかけた。


「ひとりぼっち、さみしいよ……」

「ごめんルミナ。わたしアンワルちゃんのお母さんになる」

「馬鹿かお前は」


前途多難である。

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