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水の国の交流譚  作者:
一杯目・五芒家編
11/11

アリファ・アル・ファルカダイン伯爵

「……」

「そこまで固くなる必要は無い。だらけてしまってもいいぞ?現に私はだらけている」


(いやできねえよ!!!)


心のなかで叫んでも、現状が変わることはない。いくら五芒家の当主に──ソファに寝転がり小難しい本を呆れながら読んでいる貴族にだらけろと言われても、そこに在るだけで威圧感が凄まじいのだ。


「……緊張が酷いな」

「う……すみません伯爵様」

「謝ることはない。私が他の者に圧を与えているのは理解しているからな。……こればかりはどうしようもない」

「はい……」

「……改めて、ファルカダイン伯爵家当主、アリファ・アル・ファルカダインだ。歳は26。これからよろしく頼む。お前の仕事についてだが……」


漸くソファから起きてルミナと向かい合ったアリファは、ルミナにとって予想を超えた依頼を申し込んだ。


「私の年の離れた妹の身辺警護をしてもらいたい」

「……妹?」


─────


「アンワルと言うのだが……今はすっかり引きこもってしまってな。地上の生物を使役する固有魔法を持って、私と血縁ではあるが……それ故に、使用人や他の五芒家から疎まれている」

「……!」


ルミナはエライ家──水上都市テラに古くから続く家の出であり、海にはそれなりに詳しかった。それでも知らなかった。五芒家があること。その五芒家に、地上に関する固有魔法を持つ人魚がいた事。


「つまり……その地上にいた俺ならもしかしたら?」

「ああ……だが、固有魔法故にお前達人間を強く恨んでいる。……だが、お前しかいない。私の固有魔法……それもあって、水術大会を優勝していた優秀な人魚たちは軒並み他の五芒家に行ってしまった。だから……どうか、妹を頼みたい。私は……幼少の頃遊んだ庭で見た妹の……アンの笑顔が見たい」

「……」


少し、時間を要した。伯爵()が妹に向ける想いの尊さを理解することが、だ。


(人魚は……勝ち気で力強い生物だと聞いていた。……蓋を開けてみれば、人間と同じだな)


「俺で良ければ喜んで」

「……!!本当か!」

「はい。妹さんは俺が助けます」

「……恩に着る」


震えた声で、伯爵は強くルミナの手を握った。


「まだ早いですって」

「それもそうだな。……よし」

「?」


次の話題だ、とアリファは机に置かれていた紅茶を一口飲み、一息つく。


「ここからは砕けた話し方で構わない。先程の会話と、水術大会でお前という人間を見たからな。繕っても意味がない」

「……じゃ、そうさせてもらいます」

「やはり……お前はそっちのほうがいいな。魔力も安定している」

「……見えるんですか?」

「ああ。私は他の人魚(ひと)よりも目が良くてな……《央眼(アイン)》という固有魔法のお陰だ」

「……固有魔法?」

「ああ。私の固有魔法はこれだぞ。そして、私は固有魔法を使わずともこの家で一番強い」


驚愕、絶句。まるで死体がひとりでに家事をし始める様に、実力主義である五芒家で固有魔法を使わずに当主になれることが、ルミナは信じられなかったのだ。


「……信じられないか?」

「ああ……。五芒家の当主が攻撃性の固有魔法を持たないなんてありえない」

「だが、現に私が当主になっている」

「……見せてくれ」

「何?」

「伯爵の汎用魔法を見せてくれ。……頼む」

「…………はは、そこまでするか?」

「海は差別意識が根強いということは知っていた。でも……俺の認識は甘かった。使用人さんから聞いた。俺が人間だからと、水術大会の優勝を取り消されかけたと」

「……そうだな。私が睨みをきかせたらすぐ言うことを聞いてくれたが」

「あんたが睨んだらそうなるだろうな……」


ほんの少しの呆れを顔に出しながら、人間は軽く体制を整える。


「お前の固有魔法を扱うことは、傷を治す以外は禁じよう。……準備はいいか?」

「ああ」

「では──始めようか」


─────


「……っ、はぁ、はぁ……!」

「……どうした、人間。それで終わりか?」

「あ……ああ、もう大丈夫だ」

「固有魔法を使うことを許可しよう。治していいぞ」

「──っ、はぁ……本当に汎用魔法か……?威力も精度も魔力量も……魔法陣も何もかもが違う」

「汎用魔法だよ。ただし……”進化した”汎用魔法だ」

「……進、化……?」

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