私は神だった
私は神であった
可哀想な人間がいたら助ける。行動で人々を救う。言葉で寄り添い、自分をすり減らしてでも奉仕する。そして救済こそ私の使命であると、幼く愚かな私はそう思っていた
この結果はこのザマだ
「君のそれは救済ではなく洗脳だ」
ただでさえ人相の悪い顔が、顰められた事でより威圧感を与える。握りしめられた左手は怒りで震えているようにみえた。
頬を張られた衝撃と突き刺さる言葉と非難に私は地面に座りこんでいたが、思わずその姿を仰ぎみた。
私との対話で私の愚かさに呆れ、それでも気が付かない私は彼に完全に見限られたのだろうと思っていた。
しかし、意外にもその瞳には怒り以外にも後悔や哀しみ、動揺が絵の具のようにごちゃ混ぜになっていて
張られた頬の痛みよりその瞳を見ている方が、見限られたなら仕方ないと諦めていた時より、余程心が絞られるような思いがした
奉仕を自ら掲げておきながら、結局1人の大切な人間を傷つけた。勝手に頑張ってすり減って限界になって彼女に当たった
今まで傷つけられてきたんだという傲慢な考えで、彼女は涙を見せない、私の言葉は今回も伝わらずに空回りするのだろうと思っていた
『許してください…っ、ひっく、責めないでくださいぃ、私がぜんぶ全部わるかったです』
彼女の声が未だに聞こえる
もう限界だった。私だって傷ついていた。そんなものは言い訳にならない。こんなことなら我慢するべきだったのにと後悔して、その後必死に謝った
でももう彼女は戻ってこない
私が壊した、私が傷つけた
『これじゃあ、まるで幼少期のいじめっ子と同じではないか』
気持ち悪かった。地面が揺れて、頭をガツンと殴られたようで、痛くて吐きそうでどう立てばいいのか分からなかったら。
ーーー結局私は他人を利用して過去の自分を救いたいだけの、自己中な人間だったのだ
彼はそれを最初からわかっていた。
私はまっすぐな目で見られる度に、何故か後ろ暗いことをしているような気持ちになったのは、心のどこかで気がついていたからだろう
私は神様になりたかった。
誰かを救う神様に、そして、小さなあの頃の傷だらけの私を抱き締めて守りたかった
幼少期から傷を負い続けると、その後の人生は過去の自分の救済作業にしかならない
その事実から目を逸らし続けていた。現実逃避のために他人のために尽くして優しい自分に浸っていた。
そんなどうしようもない私を、意地汚く自分を騙して生きている私に彼は怒っていた
手を挙げる人じゃない。彼の体格だと私はビンダだけで吹っ飛ばされている。
明らかに加減された1発だった
「…っ、………すまない、立てるか…?」
はっと我に帰ったように身体をビクッとさせた後、感情全てを逃がすように長く息を吐いて、それから長い長い沈黙の後に彼はそれでも手を差し伸べてくれた
「…私に、そんな…そんな風にしてもらう資格は無いよ」
自己嫌悪に苛まれた。同情を誘うような言葉が無意識に滑り落ちた。
その言葉に無言で彼は私を優しく立たせて近くのベンチに座らせてくれた
私が傷つけた人は友達に近かったと思う
最初に会ったのは彼といる事が多い私に話しかけてきた時だ。あの時の緊張に潤む瞳と震える手、それでいて決意の決まった目を思い出す。
それから彼に近づきたくてと後ろめたそうに私に話しかけた理由を明かした。利用されてする事。それは人間関係ではよくある事だ。
彼と私は異性だ。
彼が揶揄されているのを見たことがある。付き合ってるの?と顔見知り程度の人に興味本位に聞かれることも多かった
私も彼女の話を聞いた時、ギブアンドテイクだと思った。彼が彼女といる事が増えたら、そういう揶揄も減ると思ったから。
私はあくまで彼を人間として尊敬していて、肩の力が抜けて、自然体で笑えた。ただただ彼の隣は居心地が良かった。時々、本質を見透かすような瞳や言葉に虫の居所が悪い思いをする事もあったが、誰よりも人間らしく自分らしくいられる居場所だった。
最初は私の後ろで緊張していた彼女も、段々と慣れてきて彼と大学で会う度に1人でも話せるようになってきた。彼はなんだか苦虫を噛み潰したような、それでいてよく分からない不思議な顔をしていたように思う。
私たちへの揶揄は減った。
もうひとつ変わったのは、彼女の私への態度だ。
何となく少しもやっとするような言葉が増えた。最初は気のせいだと思った。でも時間とともに徐々にエスカレートして嫌味っぽい言葉が増え、最終的には『彼のことが好きなんじゃないの?結局わたしの事を嘲笑ってたんでしょ』といわれのない事を言われた。…他でもない彼女に
それで私の糸がプツッと切れた
元々彼女から持ちかけてきたことで、それを忠実にこなした事、彼女が気づかずにどんどん傲慢になっている事、そんな人間でいる限り彼は貴方を好きにならない、それどころか他の人間に好かれないのは当たり前だ、とまくし立てるように言った
彼女が傷つくことをわざと選んだ、今までのお返しとばかりに
呆然としていた彼女だが、顔から血の気が引いていった。彼女はおそらく傲慢になっていたことに、気がついていなかった。自分に自信がなく、傷つけるより傷つく方がいいと言うような優しい人間だったから。
恋は人を変えるとは言うが恐ろしいものだ。…私を格下だと無意識下で思っていったのは、彼女に言われた事に文句を言わずにしたがっていた私の責任もあるのかもしれない。
それから彼が彼女と話すより私と話す機会が多かった事も
この後の3000字が全て消えました
本当に絶望したので一旦終わります




