28 私の家族。
すると突然、国王が満面の笑みでこちらへ眩い視線を向けてきた。
(ルーナはともかく、私は聖女じゃないのだけれど!?)
和やかな空気が一転。私は彼の誤解を解くため慌てて口を開く。
「へ、陛下、恐れながら申し上げます。ルーナは確かに聖女としての素質がありますが、私は聖女では――」
「やったぁ! おかーしゃまとパーティー!」
「え」
聖女ではない、と陛下に伝えようとしたのだが、ルーナのはしゃいだ声で遮られてしまう。戸惑う私に、ルーナがぶつかる勢いで抱き着いてくる。そして上目遣いでうるうると視線を送られた。
えっ!? か、可愛い。可愛すぎるわ!?!?
「ルーナ、おかーしゃまとパーティーしたい、だめ?」
「ダ、ダメじゃないです!!」
破壊的な愛らしい仕草に思わず敬語になってしまう。もう、聖女だって勘違いされてしまったままでもいいわ。だってルーナが可愛すぎるんだもの。それ以外のことはどうだっていい! 私はルーナを抱きかかえるとその場でくるくると回転した。
ルーナの綺麗な銀髪が、教会のステンドグラスの光をキラキラと浴びて光る。私だけの天使が、きゃっと嬉しそうな笑い声を上げた。その笑顔に胸がきゅんと高鳴る。
「ルーナ、め、まわった!」
「ご、ごめんなさいルーナ。つい嬉しくって」
慌ててルーナを床におろすと、彼女は私に向かってビシッと人差し指を立てて見せた。
「も、いっかい!」
「あらまぁ」
そんな私たちのやり取りに、アレクシスがフフッと笑い声を漏らす。その様子をフォルンと陛下が温かい目で見守ってくれていて――。
こうして私たち一家は、訪れた最大の危機を家族の絆によって乗り越えたのだった。
*
「奥様、お嬢様! こちらはムーア村で朝採れたばかりのかぼちゃで作ったタルトでございます、どうぞお召し上がりください!」
料理長ハンスが満面の笑みで銀の蓋を開ける。同時に、皿の上に置かれている焼きたてのかぼちゃタルトから、湯気と共に香ばしい匂いが漂ってきた。
「まぁハンス! わざわざありがとう! なんていい香りなの……!」
――教会での事件から数日後。私たち一家はいつもの平穏を取り戻していた。
ここはローゼンライト公爵邸の庭にある東屋。天気もいいので、庭に咲いている薔薇を愛でながらアフタヌーンティーを楽しんでいる最中だ。
隣にはもちろん、愛娘であるルーナが居る。
「たると、つやつやでおいしそう! ありやとう、コックしゃん!」
「へへ、もったいないお言葉ですお嬢様」
目をキラキラさせながらお礼を言うルーナに、ハンスが照れたように鼻の下を指でさすった。その様子をフォルンと侍女であるミアが優しいまなざしで見守ってくれている。
ちなみに魔界では魔王亡き後、私の件もあり『働き方改革』が断行されたらしい。残業禁止に有給消化の義務化……。実は、新たな魔王として君臨してほしいと魔王の元側近から熱烈な打診もあった。けれど――。
「ではいただきましょうか、ルーナ」
「うんっ!」
今の私にはルーナが居る。魔王として魔界に君臨するより、ルーナの母親でいたい。元側近にはそう告げて、自分たちで新しい魔界を築き上げてほしいと打診を断った。
とそんなことを思いながら、出来立てのかぼちゃタルトに手を付けようとしたその時である。
「俺も一緒にいいだろうか?」
「旦那様」
思いがけない人物の登場に、私は思わず目を瞬かせた。現れたのは夫であるアレクシス。いつもこの時間は書類仕事をするために執務室にこもっているはずのなのに、どういう風の吹き回しだろう。そんな私の疑問を感じ取ったのか、アレクシスはわずかに微笑みながら口を開いた。
「心配しなくても仕事は終わらせてきた。二人と一緒に過ごしたかったから」
彼の素直な物言いに、心がソワソワと落ち着かなくなる。
「そ、そうだったのですね。いつもお仕事お疲れさまでございます」
「ありがとう、カミラ」
そういってアレクシスがふわりと微笑む。その美貌に思わず頬が熱くなるのを感じた。
以前では考えられない柔らかい表情と態度に、ルーナもミアもハンスも、そして私も息を呑む。しん、と辺りが水を打ったように静まり返った。すると隣のルーナがふいにその沈黙を破った。
「おとーしゃま、ルーナのとなり、すわる?」
「! あぁ、ぜひそうさせてもらおう」
ルーナの勧めでアレクシスが席に着く。ルーナは少しだけ恥ずかしそうにしながらも、アレクシスと見つめ合ってえへへと照れたように声を漏らした。そんなルーナの頭を、アレクシスがそっと撫でる。
ミアがアレクシスの分の紅茶をカップに注いでくれて、優雅なアフタヌーンティーが始まった。
(あぁ、なんて幸せなんだろう)
大好きな人たちに囲まれて、何気ない会話を交わすことのできる幸福。
ずっと一人ぼっちだった私。けれど今は『家族』が傍に居てくれる――。
暖かく爽やかな風が吹き髪を抑えていると、突然目の前にフォークが差し出された。その上には一口サイズのかぼちゃタルトが載っている。
「おかーしゃま、あーん」
「まぁ……! ふふっ」
ルーナが期待に満ちた目でこちらを見つめている。私は一瞬目を丸くしたものの、観念してぱくりとかぼちゃタルトを口に含んだ。
その味は、この世のありとあらゆる幸せをぎゅっと凝縮したような、甘くて温かな味がした――。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
今後は、シークレットベビー企画の短編を投稿予定です。あともう一つ、異世界恋愛モノでヤンデレ属性ヒーローが出てくる長編を書いておりますので、もしよろしければお読みいただければ嬉しいです(*'▽')




