32 アレクシスが打ち明ける気持ち。
感謝。アレクシスの口から思いもよらぬ言葉が飛び出してきたので、私は目を見張る。
「貴方が村々を回り、炊き出しを行ってくれていることは聞いている。……本来なら、領主である俺がすべきことだった。だが多忙で手が回らなかった部分を、貴方が支えてくれているおかげで助かっている。俺一人では、こうはいかなかっただろう。……ありがとう」
そう真っ直ぐ感謝を告げられ、どこか落ち着かない気分になりソワソワしてしまう。
「い、いえ、そんな……! 旦那様が瘴気を払った功績には遠く及びませんわ! 私はただ、旦那様の雄姿を領民の皆様にお伝えしているだけでございます!」
「俺の功績……か。実のところ、かねてから国王陛下には領地経営の傾きについて厳しく叱責されていてな。呼び出しを受けるたび胃痛に悩まされていたのだが……最近ではそれもなくなった。それもこれも、君がムーア村での一件を俺の成果として広めてくれているおかげだ。ともあれ、あれが本当に俺の実力だったのかは……いや、なんでもない」
アレクシスは少しだけ遠い目をした後、転がっているフォルンのお腹をもふもふ撫で回しているルーナへ視線を向けた。ルーナの無邪気な笑顔が目に眩しい。
「ルーナのこともだ。貴方のお陰で、最近では良く笑うようになったと思う。昔はあんな風に自分の感情を素直に表現する子ではなかった。俺がもっとルーナにかまってやるべきだったのに、しなかった。向き合うのが怖かったんだ。だから任務で忙しいからと目を逸らしてしまっていた」
「……」
「でも、貴方のお陰でルーナの笑顔を見た時、初めて気づいたんだ。あの子の笑顔が――あんなにも可愛らしいってことに」
「っ!」
アレクシスは静かに目を伏せ、そして柔らかさを含んだ声でこう言った。
「それに気づかせてくれたのは他でもない貴方――カミラのお陰だ。本当に、ありがとう」
ふわりと彼が笑う。
(笑うと……目元がルーナにそっくり)
――この時私は初めて、アレクシスという人間の心に触れたような気がした。
この人は、ずっと苦しかったのだろう。
若くして公爵家当主という立場に突然置かれ、兄夫婦の子供を引き取り、さらには領地の経営不振で国王に睨まれ――。さらに領民を守るため、魔物退治までしなければならなかったのだから。
とどめに、自分のことを金で買ったような女性と無理やり結婚させられるなんて、不憫にもほどがある。
自分のキャパシティーを超え、常に何かに追い立てられる状況というのは、驚くほどにその者の精神を蝕む。
私はそれを嫌というほど身近で実感してきた。けれどルーナと出会ったことで、私の運命は変わった。
「私こそ旦那様にお礼申し上げます。あなた様がいてくださるからこそ、私はルーナとこうして健やかな日々を送ることができているのです。ですからどうか、ご無理なさならないでくださいね。お辛いときはいつでもおっしゃってください。支え合うことが、その――家族、というものなのですから」
「……! あ、あぁ……」
胸に手を当て微笑むと、アレクシスは目を大きく見開いた。今まで誰かに労わられることがなかったのだろうか? 耳の先がほんのり赤く染まっている。それが微笑ましくてニコニコ笑っていると、ふっと視線を逸らされた。
私とアレクシスの間を、どこか春の木漏れ日のような温かい空気が包む。
するとふいに、私のドレスの裾をくいっと引く小さな手があった。見れば、そこには可愛らしい私の天使ルーナの姿。その手にはいつの間にか3本の美しい橙色の薔薇があった。
「あらっ、どうしたのルーナ? そのお花は?」
声が甘くなる。ルーナの上目遣いに胸がきゅんきゅん高鳴り、顔がだらしなく溶けていくのがわかった。するとルーナがおずおずと語りだした。
「あのね、おかーしゃま。ルーナ、きれいなおはな、みっつ、もらったの。おかーしゃまとおとーしゃまに、あげるね」
ルーナが私とアレクシスにそれぞれ薔薇を差し出してくれる。アレクシスはまさか自分までもらえるとは思っていなかったのか、驚きつつもルーナにありがとうと告げていた。
橙色の薔薇の花言葉は、『絆』――。私は嬉しくて胸がいっぱいになる。
「ありがとう、ルーナ。このお花、大切に飾るわね」
「うんっ!」
三人で顔を見合わせて微笑んでいると、ふいにアレクシスの元へ部下らしき騎士が駆け寄ってきた。騎士はこちらへ一礼すると、彼へ何事かを耳打ちしだす。
するとアレクシスの緩んでいた表情が、真剣なものへと切り替わった。
(お仕事の連絡かしら? せっかくの園遊会なのに)
騎士を下がらせると、アレクシスは眉尻を下げつつ困ったように私たちへ向き直った。
「……すまない、カミラ。国王陛下から呼び出された」
「陛下から、でございますか?」
ついさっき、最近では呼び出しも減ってきたという話をしたばかりなのに……。
「あぁ。庭園の奥に教会が見えるだろう? あちらで、今から行われる、園遊会でのスピーチの準備をされているらしい。それで……スピーチの前に、陛下は『たまにはそなたの娘の顔が見たい』と仰せでな」
アレクシスははぁ、と大きなため息を吐きつつルーナへ視線を向けた。
「ルーナには突然のことで悪いが、俺と共に来てくれるか? 陛下への挨拶だけだ」
「う、うん」
ルーナは少し戸惑いつつも、アレクシスと一緒なら平気だと思ったのか、こくりと頷いた。
「カミラはここで少し待っていてくれ。公式な呼び出しではないから、世間話を少し交わすだけだろう。すぐに戻る」
「はい、承知いたしました。行ってらっしゃいませ」
そう言ってアレクシスはルーナの手を引くと、騎士に先導されて教会の方へと歩き出してしまった。
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その継母、最強につき。~義娘を虐げる継母に憑依した最強悪魔ですが、呪われた義娘が可愛すぎたので助けて溺愛することにしました~
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