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31 嵐の前の園遊会。

 ――サンクティア王国、王宮に面する大庭園。現在ここでは、国王が主催する華やかな園遊会が催されている。


 夜に開かれる舞踏会とは違い、園遊会は花を愛でるため基本的に昼の時間帯に催される。ゆえに招待状には『ぜひご家族全員でご参加ください』と書かれていた。陛下直々のご招待と言うことで断るわけにもいかず、本日はローゼンナイト公爵家総出でこの王宮にはせ参じているというわけだ。


 ルーナはフォルンと共に、ピンクの薔薇に顔を寄せ花の香りを楽しんでいる。とても可愛いらしい。花の妖精かしら? あまりに可愛すぎてルーナの背に妖精の羽が生えているような幻覚が見える。


 と、愛娘に癒されている一方――。私は色とりどりの薔薇が咲き誇るこの美しい場所で、扇で口元を隠しつつ周囲を警戒していた。


(……はぁ。以前のカミラがとんでもない悪女だったせいで、こういう社交の場に姿を現すのは気が滅入るわね。遠巻きにヒソヒソと悪口を言われてるのがルーナに聞こえたら、悲しい思いをさせてしまうだろうし)


 という不安があり、私はできるだけ人目のつかない隅っこで目立たないようやり過ごしていた。だがそんな私の努力むなしく。


「――あら、ローゼンライト公爵夫人ではございませんこと?」


 不意に、背後から見知らぬ声。


 振り返ると、派手な扇を持った夫人たちが、微笑みながら数人でこちらへ歩み寄ってくるのが見えた。


(うっ)


 私は瞬時に身構える。先ほど遠まきに見えた、アレクシスに群がっていた夫人たち一行だ。おそらく彼のファンなのだろう。ならばアレクシスとの結婚を金の力で斡旋してもらったカミラには、何かしら思うところがあるはずだ。嫌味の一つでも飛んでくるかもしれない。


(さて……どうやってこの場を切り抜けようかしら)


 ルーナが傍にいる手前、嫌みの応酬合戦は避けたい。私は優雅に彼女たちへ微笑み返した。


「ごきげんよう、皆様。本日はよい天気で――」


「ごきげんようカミラ様! お会いしとうございましたわ!」


(……えっ?)


 予想していた嫌味は飛んでこず、虚を突かれ私は驚く。すると夫人は私の手を取り、目を潤ませてこう力説し始めた。


「わたくし、とても感動いたしましたの! 先日、カミラ様が孤児院へ大量のお野菜を寄付されたとうかがいましたわ。しかもそれだけではなく、貧しい村々に直接足を運ばれて、野菜料理を振る舞っておられるんですって!?」


「は、はぁ……」


 生返事をしつつ私は記憶を手繰り寄せた。確かに最近は、大量の野菜を孤児院に送りつけたり、ムーア村だけではなく領地の様々な村に訪問し、炊き出しなどを行っている。


 というのも、アレクシスから『自分たち貴族だけ野菜料理を独占するなんて』と叱責されることを恐れているからだ。ルーナには、なんの後ろめたさもなくお腹いっぱい野菜料理を楽しんでほしい。――貴族としての責務を全うするため、というよりかは、すべて愛娘のためという割と不純な動機で慈善活動に力を入れているのだ。


 しかし、貴族婦人自ら領地の村へ足を運ぶというのはほとんどないようで。


 だがフォルンに畑へ豊穣魔法をかけてもらうには、私が現地まで足を運ぶ必要があった。ゆえに慈善活動の一環として炊き出しを行い、ひっそりと畑に魔法をかけてもらっている。

 

 それに――。アレクシスが首無し騎士(デュラハン)と戦い打ち勝ったことで、領地の呪いが解かれたという話も広めなければならない。


 話が広まれば、今まで野菜を育てることをあきらめていた領民たちも農業に着手してくれるようになるはず。


 という地道な努力の甲斐もあって、最近では領地の野菜不足は解消されつつあり、領地経営も持ち直してきている。


 すると私の手を握りしめる夫人の手にさらに力がこもった。


「……実のところ、カミラ様のことを誤解なさっている方はおられます。けれどわたくしは、今のカミラ様のことを応援しておりますわ。何よりアレクシス様の、カミラ様を見つめるあのお優しい瞳。愛を秘めた温かい眼差しが全てを物語って――あら、噂をすればなんとやらですわね! では私はこれで、公爵夫人」


「は、はい。ありがとうございました……!」


 するりと手が離され彼女を見送っていると、すれ違いでとある人物が私の元へと歩み寄るのが見えた。


「――旦那様」


「カミラ、園遊会は楽しめているか?」


 漆黒の軍服に身を包むアレクシスは、彼こそが一輪の黒薔薇かと見まごうほど麗しい。


「は、はい、とても。美しい庭園ですわね。このような場所へご同行をお許しくださったこと、旦那様には改めて感謝申し上げます。ルーナもとても楽しそうですわ」


「何を言う、貴方は俺の妻なのだから連れてくるのは当然だ」


 でも馬車も一緒でしたし。前は絶対に別の馬車で、こうして催しの途中で話しかけられるなんてことも絶対になかった。じっとアレクシスを見つめていると、ふいに彼の耳が赤くなっているのに気づく。


「……貴方には、感謝している」


「えっ……?」



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