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28 念願の野菜料理と、はじめてのワガママ。

 ミニトマトを口に入れたルーナが、初めての味に驚いたのかびっくりとした顔をする。その様子をハラハラと見守っていたら、ルーナの顔がふいに綻んだ。


「すっぱい、ちたら、あまくなった……! ミニトマトしゃん、おいちい!」


「っ、まぁ、本当……!?」


 私は嬉しくて、思わず椅子から腰を浮かしてしまう。するとルーナがうんうんとニコニコ笑顔で頷いてくれた。可愛い。


 そんなルーナに、ハンスもミアもほっとしたように目を細め温かな笑顔を浮かべた。


「ミニトマトしゃん、あかくてきれいね。ほうせきみたいだねぇ」


 ルーナが嬉しそうに次のミニトマトを頬張る。そしてまた次の一口。それからミニトマト以外の生野菜に、かぼちゃのポタージュ、ポテトグラタン――。すべての野菜料理を興味津々な表情で、驚きつつ、でも美味しそうに平らげていく。


「ルーナ、そんなに急いで食べなくても大丈夫よ? のどに詰まってしまうから、ゆっくり食べましょうね?」


「……だってぜんぶ、おいちいもん! ルーナ、おやさい、はじめてだから、はやくぜんぶたべたいっ!」


 ルーナの頬がぷくっと膨らむ。まぁっ! とっても欲張りさんで最高に可愛すぎるわ!!


 ルーナが私にワガママを言ってくれる日が来るなんて。感動でじーんとしてしまう。


 たどたどしくも、ルーナは一生懸命に自分の気持ちを私へ伝えようとしてくれているのだろう。それが愛おしくて、ルーナのワガママは何でも受け入れて甘やかしてしまいたい気持ちになった。きっと今の私の顔はデレデレに溶けているに違いない。


「ふふ、ルーナは野菜料理が気に入ったのねぇ。とってもおりこうさんだわ! お肉もお野菜もこれからたくさん食べて、うーんと大きくなりましょうね?」


「うんっ! おかーしゃまも! おくちあけて、あーん!」


「まあ……! うふふ」


 ルーナがミニトマトをフォークで刺して私へと差し出す。愛娘にこんなことをされて、頬が緩まない親が居るだろうか、いや、居ない。私は満面の笑みでミニトマトをパクリと頬張った。


 口の中でミニトマトがプチッと弾けて、酸味が広がる。思わずルーナと同じように、初めて味わう刺激的な味にびっくりしてしまう。だが食べていくうちに自然な甘さが口の中に広がって、つまるところ――。 


「おいちい?」


「えぇ、とっても美味しいわ! ありがとうルーナ」


「えへへ」


 ルーナが照れたように笑う。私は傍に座っているフォルンへウインクを送り、小声で「あなたのお陰よ。ありがとうね、フォルン」と呟いた。するとフォルンは嬉しそうに尻尾を振った。


(こんな温かい時間が……ずっと続けばいいのに)


 そんなことを思いながら、私はルーナたちと楽しいひと時を過ごしたのだった。





【魔王SIDE】



「何!? 宰相カミラが消えただと!?」


 魔王城――玉座の間。


 黒い大理石の床と壁に囲まれたそこは、冷たく重苦しい雰囲気を放っている。その最奥。金の装飾を施された玉座に、魔王サータンは腰をかけ気だるげに赤ワインを揺らしていた。


 だが、側近からの報告を耳にした途端──サータンは跳ねるように玉座から立ち上がった。床に落ちたワイングラスがパリン! と乾いた音を立て砕け散る。


「どういうことだ! 始祖の魔王が建造した『封印の間』からは、何人たりとも逃げることは叶わぬはず……! 本当に逃げたのか!? どこかに隠れているとか――」


 サータンに詰め寄られた側近の上級悪魔が焦りで視線をさまよわせる。


「そ、それが……。部屋の隅々まで探させたのですが、宰相閣下のお姿はどこにも見当たりませんでした」


「くそ、何ということだ……っ。消えたのは今日か!?」


「い、いいえ陛下。どうやら宰相閣下が居なくなられたのは、ずいぶん前のようです。閣下に()()()()()()()書類が滞ったことで、やっと我々もご不在に気がついた次第でございます。なにとぞご容赦くださいませ、封印の間は立ち入りが禁じられておりますゆえ……」


「……っ!」


 サータンは怒りのあまり閉口した。


 確かに、封印の間は封じられているからこそ『封印の間』なのだ。そのためカミラの不在に気づくのが遅れたことに関しては、誰も責めることができない仕方のないことと言えた。だがサータンは内から湧き出る怒りを抑えきれず、目の前の側近を怒鳴りつけた。


「この無能が! 今すぐカミラを連れ戻せ!」


 側近がビクリと肩を揺らし、身を縮ませる。


「はは……っ。現在、総出で宰相閣下を探すよう命令しております。どうぞしばしの間ご辛抱を。――ところで、陛下。こんな時で大変心苦しいのですが、急ぎ目を通していただきたい、オーガ族からの書簡がございまして……」


「オーガ族からの書簡だと……? チッ、こんなときに面倒な!」


 サータンは苛立ちつつも、差し出された書簡を側近の手から乱暴に奪い取った。

  

 オーガ族は血の気が多く、ずっと魔王の統治に盾突いてきた厄介な種族である。彼らは統治下に入ることをずっと拒否してきたが、ここ数年間手紙のやり取りを交わし、やっとのことで和平協定が結ばれようとしていた。


 ちなみに手紙のやり取りをしてきたのはカミラであるが、それはさておき。


 サータンは不機嫌ながら渋々書簡に目を通すことにした。


 書簡を開く傍、部下が内容の説明をしだす。


「報告によると、書簡は和平協定について書かれているもののようです」


「ふん……あんな野蛮な種族と和平を結ぶのは遺憾だが、争いごとはもうこりごりだ」


 オーガ族との長きにわたる戦いのせいで、魔王側の兵士は甚大な被害を受けてきた。つまりこの和平協定はサータンの宿願とも言えた。


 サータンが書簡を開き内容に目を通す。――すると、彼の表情が厳しいものへと一変した。


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