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27 アレクシスの変化。

「ルーナ、カミラ、無事か……!?」


 扉から顔をのぞかせたのは、焦った表情を浮かべたアレクシスだった。私は驚いて思わず目を瞬かせてしまう。どうやら彼はあの後、一目散に私たちの居る馬車へと駆けてきたらしい。わずかに額に汗が滲んでいる。


 普段はルーナに興味すらないというような顔でつんと澄ましているが、彼なりにルーナのことを大事に思っているようだ。


「は、はい。このとおり私たちは無事ですわ。旦那様も、お怪我はございませんか?」


「そうか……。俺の方は問題ない」


 私たちに怪我がないことを確認すると、アレクシスはいつもの無表情へと戻った。しばしの沈黙が流れる。すると彼はばつが悪そうに顔を背けながら、こう語りだした。


「――すまなかった。貴方の忠告を聞かず、二人のことを危険にさらしてしまった」


(えええっ!? ア、アレクシスが私に謝った!?)


 驚いて声が出ない。あんなに毛嫌いしていたカミラに謝るだなんて。なんて声をかけようと慌てふためくうち、隣にいるルーナが鶴の一声を発した。


「おとーしゃま、かっこいかった、よ! ルーナとおかーしゃま、まもってくれて、ありやとう」


「! ルーナ……」


 ルーナの言葉にアレクシスが弾かれたよう顔を上げた。その顔には複雑そうな表情が浮かんでいる。驚いているような、悲しみに打ちひしがれているような。それでいてなにかを悔やんでいるような――。


 その傍で私はルーナの無垢な言葉にじーんと胸を打たれていた。


 ルーナは充分な愛情の中で育てられてきたとは決して言えない境遇にある。それでもこうして、アレクシス相手に素直な感謝を伝えられる子に育った。その清らかさはきっと、生まれもった彼女自身の強さだ。


(本当に……すごい子だわ、ルーナは)


 胸の奥から、ルーナへの尊敬の気持ちが沸き上がる。


(私もルーナを見習わなくちゃね)


 アレクシスのことは、彼が聖騎士団長ということもあり正直なところ苦手だ。悪魔の天敵なので当然ではある。だが彼はルーナの養父であり私の夫なのだ。いつまでも逃げずに、彼へちゃんと向き合わなければ。


 私は胸に手を当て、アレクシスへと微笑みかけた。


「――旦那様。何も謝ることなどございません。むしろ私たちのことを守ってくださり、本当にありがとうございました」


 そう告げると、アレクシスは今にも泣き出しそうな表情を浮かべ俯いてしまった。


(どうして、笑ってほしかったのに。人間って難しいわね……?)


 またもや重い沈黙が流れ戸惑ってしまう。するとアレクシスがふいに顔を上げた。その表情は今まで見たこともないほどの穏やかなもので。


「……ありがとう、ルーナ、カミラ。二人が無事で良かった」


 そして、アレクシスはふわりと笑った。


(ア、アレクシスが、笑った……!?!?!?)


 だがその笑みは一瞬のもの。またすぐに人形めいた鉄仮面へと様変わりした。今見た笑顔がまるで幻だったかのようだ。私とルーナは思わず顔を見合わせる。『今の見た?』という同じ思いを共にして。


 するとアレクシスが気恥ずかしそうに咳ばらいした。


「では、そろそろ屋敷へと戻るぞ」


「は……はい」


「うん……」


 扉が閉められ、馬車には私とルーナとフォルンだけが残される。アレクシスが去ると、私たちはふふっと誰からともなく微笑み合った。アレクシスにも案外可愛いところがあったのだ。


(ハプニングもあったけれど、少しだけ家族の絆が深まったような気がするわ)


 なんてことを密かに思いながら。私は膝枕で寝ているルーナとフォルンの頭をそっと撫でつつ、帰りの馬車に揺られたのだった。



「奥様ご覧ください!! こちらがこの俺、ハンスが腕に寄りをかけて作った野菜料理の数々です!!」


「まああああっ!! 凄いわハンス!! どれも本当に美味しそうっ!!」


 ムーア村で起きた一連の騒動の後から、しばしの時が経った。


 フォルンが豊穣の魔法をかけてくれたおかげで、ムーア村では様々な農作物を育てるようになったらしい。ちなみにハンスはムーア村の出身だったらしく、今回の件をかなり喜んでいた。そして彼は村で採れた野菜をさっそく調理してくれることとなり――。


 こうして、私とルーナの目の前に様々な野菜料理を並べてくれたのだった。


(念願の野菜料理よおおお!!)


 かぼちゃのポタージュに、生野菜サラダ。チーズたっぷりのポテトグラタンにほうれん草のキッシュ。鶏肉の煮込みはトマトソースで鮮やかな赤色に仕上がっている。


(見ているだけで美味しいわ……! いつもの食卓より格段に華やかね。それに不足していた栄養も補えるし、言うことなし!)


 だが聞くところによると、世間一般的には子どもは野菜を苦手とする傾向にあるらしい。こんなに綺麗で美味しそうなのに、不思議な話ではあるけれど――。


(……ルーナは、気に入ってくれるかしら?)


 胸の奥に小さな不安がよぎる。


「いただきます。さぁ、ルーナも食べてみて?」


「う、うん……。いただき、ましゅ……」


 初めて見る色とりどりの野菜料理に、ルーナは緊張した面持ちで固まっている。

 それでも、意を決したように生野菜サラダへ小さな手を伸ばし、ミニトマトをそっとスプーンですくった。


 そして――ぱくり、と口に運ぶ。


ミニトマトは可愛いので選びたくなる!

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