表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/38

26 『騎士とお化け』の再演です。

 ――首無しの騎士(デュラハン)とアレクシスが、剣をぶつけ激しく打ち合っている。お互い一歩も引かぬといった緊張感漂う激闘だ。


 その戦いを私は止めるでもなく平然と見守っている。なぜなら――。


 首無しの騎士には、『アレクシスが変に思わない程度の強さで戦ってほしい。ただし傷はつけないように』とお願いしてあるからだ。


 そう。私はある目的を達成するすべく、首無しの騎士に悪役ヴィラン()()をお願いしていた。


 まさに、かつて私とミアが演じた『騎士とお化け』の再演である。


 主人公役はアレクシスで悪役は首無しの騎士。観客は村人たち。そして演出はこの私カミラと――神獣フェンリルであるフォルンだ。


 首無しの騎士が、アレクシスと剣を交えながらじりじりと畑の方へと移動していく。バレないよう自然にことを運ぶのが中々に上手だ。


(その調子よ、頑張って!)


 と心の中で拍手しつつ応援エールを送っていると、やがて首無しの騎士の誘導により、二人は村の畑へと移動を完了した。ここが劇のラストステージとなる。だがその間にも剣同士がぶつかる金属音が止むことはない。すると首無しの騎士が、ここぞとばかりに口を開いた。


『くっ、まさか上位精霊であるこの我が、人間にここまでしてやられるとはー!』


 ……うん。ものすごく棒読みだけれど、大丈夫! アレクシスには(多分)バレていなさそうなので問題ないわ!


 私はその台詞を聞き、馬車に居るフォルンへ遠隔で語りかけた。フォルンは従魔なので、遠く離れていても会話ができるのだ。


(フォルン、お願いよ! 首無しの騎士が倒れた瞬間に、畑に豊穣の魔法をかけてほしいの!)


(了解! カミラさま、合図をお願いね!)


(わかったわ! 3、2、……)


 首無しの騎士が畑の中心で膝をつく。アレクシスの動きが止まり、彼の目が大きく見開かれた。


 そして――。


(1、今よ、フォルン!)


(……『緑よ芽吹け、豊穣の大地(ファティリティ)!』)

 

 フォルンが豊穣の魔法を発動させる。その瞬間、首無しの騎士を中心として、春を思わせる温風が吹き抜けた。そしてみるみるうちに畑に様々な農作物が芽生え育っていく。ニンジンやかぼちゃ、キャベツにジャガイモ。季節関係なくそれらは育ち、殺風景だった村には色とりどりの花が咲き誇った。


 まるで理想郷を体現したかのような光景。


 村人もアレクシスも、そして悪役である首無しの騎士さえも、誰もが息を呑むのがわかった。


 首無しの騎士が剣を手から離し、信じられないとばかりに立ち尽くす。


『おぉ、おぉ……! この景色は、かつて我が愛していたあの景色だ……!』


 彼は演技を忘れ、感極まった様子で村の景色に見惚れている。私はすかさず首無しの騎士へ語りかけた。


『騎士さま! 最後の決め台詞をお願いいたします!』


『ハッ! ゴ、ゴホン! ……そこなる人間の騎士よ、褒めて遣わそう! 我はこの地を守護する上位精霊デュラハン! そなたとの戦いにより我は正気を取り戻し、この地にはびこっていた瘴気は見事払われた。ゆえにこの地は『呪われた地』ではなくなり、このとおり緑が復活した! これよりこの地には呪いではなく、豊穣の祝福がもたらされるであろう』


「なんだと……!?」


 アレクシスが剣を下ろし、首無しの騎士の言葉に目を大きく見開く。台詞は少し棒読み気味で、この話もやっつけで考えた作り話。そのためアレクシスが信じてくれるかどうかは怪しいが――この緑に溢れた景色が、話の説得力を大きく増している。


(し、信じてくれるかしら……!?)


 ハラハラ成り行きを見守っていると、首無しの騎士が劇の結びの言葉を唱えた。


『さらばだ人間の騎士よ! よき戦いであったぞー!』


 その台詞を最後に、デュラハンはサラサラと粒子になり村から消え去っていった。とても良い感じにフィナーレを飾ってくれて感謝しかない。畑の中心には、ただアレクシスだけが残される。


 すると、彼へ向かいワアッと歓声が上がった。


「領主さまがこの地の呪いを解いてくださった!」


「私たちの村を救ってくださり、ありがとうございます!」


 そんなアレクシスを称賛する言葉が次々に彼へ降りかかる。この様子からするに劇は大成功といっていいだろう。首無しの騎士に悪役を演じてもらったことで、アレクシスを村を救った正義のヒーローに仕立て上げることに成功した。


 これならフォルンの力を秘密にしつつ、アレクシスの領主としての株を上げることができる。まさに一石二鳥だ。


 だがアレクシスは腑に落ちないところがあるのか、少し戸惑った表情を浮かべている。


 村人たちの称賛を浴びる彼をしっかりと目に焼き付けたところで、私は馬車で眠っているカミラの肉体へと戻ることにした。


 ハッとカミラの体に宿り目を覚ますと、目の前には心配そうな表情をしたルーナとフォルンの姿があった。


「おかーしゃま、おきた!」


「カミラさま、大丈夫?」


「あ……えぇ、大丈夫よ! ごめんなさいルーナ、フォルン。心配をかけてしまったわね」


「おかーしゃまっ!」


 ルーナが泣きそうな表情で、私の胸に飛び込んでくる。抱き着かれたのは初めてのことで、私は驚いで言葉を失った。だがすぐに、ルーナの華奢な背中に腕を回し包みこむ。――あたたかい。するとルーナが顔を上げてこう言った。


「ルーナ、すごくしんぱいしたよ。おかーしゃま、どこにもいかないで」


「ルーナ……」


 胸がぎゅっと締め付けられる。もしかしたらルーナは私が死んでしまったと思ったのだろうか? 彼女の父親と母親は、ルーナが赤ん坊の時に亡くなってしまっている。だから身近な者の死に敏感になるのは当然のこと。私はルーナを安心させるよう、白くて丸い頬をそっと両手で包み込んだ。


「どこにもいかないわ。ずっとルーナの傍にいて、なにがあってもあなたを守る。だって私は……あなたのお母さまだから」


 彼女の綺麗な紫水晶の瞳が涙に揺れている。守らなければならない尊くて小さい私の光。


「ほんとう……?」


「えぇ、本当よ」


 ルーナが泣き笑いの表情を浮かべ、再び私に抱き着いた。壊れそうで怖かったが、私も先ほどより強く抱きしめ返す。愛おしい、愛おしくてたまらない。この命がたとえ失われようとも、ルーナのためなら喜んでこの魂を投げうつだろう。


 そう胸に決めていると、突然馬車の扉が開かれた。



デュラハンさん頑張った!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ