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25 首無し騎士を説得(強制)します。

「カミラ、ルーナと共に馬車へ戻れ! ルイス、お前は部下を引き連れて馬車を護衛しろ!」


「ハッ、承知しました! さぁ奥様とお嬢様は私のお傍へ、こちらです!」


「え、えぇ」


 ルイスと呼ばれた騎士が私とルーナを馬車へと誘導してくれるのでそれについていく。不安そうにしているルーナを安心させるため、私は『大丈夫よ』と微笑んだ。そして近くの騎士へ声をかける。


「あなた、村の子供たちをもう一台の馬車へ避難させてくださる?」


「えっ、よろしいので? 馬車が泥だらけになってしまいますよ」


「この緊急時に何を言っているの。ほら早くなさい」


「か、かしこまりました」

 

 私の命令で騎士が走っていく。馬車へ乗り込む折、アレクシスが首無しの騎士と対峙している姿が見えた。


(首無しの騎士……魔物というよりかは、闇精霊の一種よね。かなり位の高い精霊だと思うけれど、人間であるアレクシスが敵う相手なのかしら……?)


 という一抹の不安が私の胸をよぎる。


 いくら聖騎士団長といえど、普段相手にしているのは知能のない魔物。精霊には知性があり、その上膨大な魔力を有している。よほど怒らせない限り、人間を襲ったりすることはないはずなのだが――。


 闇の上位精霊がこんな小さな村で暴れたら、たとえ退けれたとしてもあたりは壊滅状態になってしまうだろう。


 ――先ほど私たちに花冠をくれた子供たちの笑顔が思い浮かぶ。


 それに、ルーナの父親であるアレクシスの身が気がかりだ。彼に何かあったらルーナはひどく悲しむだろう。


(さて……どうしたものかしら)


 本来の姿をさらけ出すのは気が引けるが――。


(ここは、私が一肌脱ぐしかないようね)



首無しの騎士(デュラハン) SIDE】


 

 長い間、悪い夢を見ていた気がする。


 ある時、想像を絶するほどの膨大な瘴気がこの森を襲った。この地に住んでいた我は、逃げる間もなく瘴気の奔流に呑まれ、身動きすら叶わぬまま深い眠りへと沈んでしまう。


 ――そして次に目を覚ました時。


 目の前に広がる景色は、我の知る『美しい森』ではなくなってしまっていた。


 一面が灰色の世界。


 青々と茂っていた木々は枯れ果て、可憐に咲いていた花々は見る影もない。我の肩で羽休めをしていた小鳥たちのさえずりさえ聞こえない。


 朝露に濡れきらめいた葉も、深い霧に煙っていた幻想の森も――すべてすべてすべて、跡形もなく消え失せてしまっていたのだ。


(どういうことだ!? 我が眠りについている間に、一体何が起こったというのだ!?)


 我はひどく混乱した。


(まさか、人間のせいなのか!? 奴らはすぐに争いたがる、戦のためこの美しい森を焼いたのだろう! おのれ憎き人間どもめ……!)


 怒りの矛先は人間へと向かう。そして報復のため、人里を見つけ襲おうとした時、我の前に一人の騎士が現れた。人間にしては中々に良い剣さばき。以前であればひとつ稽古をつけてやってもよいとも思えたのだろうが――。


(フン! 忌々しい若造めが! この剣の錆になるがよい!)


 激しい憎悪の炎が燃え上がり、それ以外何も考えられなくなる。


 愚かな人間が我の美しい森を奪ったのだ! 


 許さぬ、許さぬ、許さぬ――。


 と、怒りに任せ人間の騎士に剣を打ち付け続けていると、彼の手から剣が弾け飛んだ。騎士の顔がこわばる。これで仕舞いだ。


 目の前の首に剣先を突き付けたその時――。


 深い、夜のように静かな声がした。


『やめなさい』


 その声がしたと同時に、剣が止まる。我の意思で止めたのではない、身動きが取れなくなったのだ。


(な、なんだこの、膨大すぎる魔力は……! 我を封印した瘴気どころの騒ぎではない、これでは、息さえできぬ……!)

 

 すると、膝をつく騎士の背後から、何者かの影がゆらりと揺らめいた。


 我は目を見開く。

 

 そこには、夜を体現したかのような一人の女性が佇んでいた。頭からすっぽりと黒い薄衣を覆い被ったような不気味な様相。体の形は隠されているというのに、なぜか女性であるとわかってしまう。理解わからされてしまう。


 ――怖い。


 その感情が胸に燻った次の瞬間、その女性は我の目の前にいた。そして我の、ないはずの頭部を細指で抱き、唇を寄せこう語りかけてきた。


『悪いのだけれど、怒りを収めてくださらない? 今からあなたの森が無くなった理由を、わたくしが責任をもってちゃんと説明いたしますので』


 返事をする前に頭の中に彼女の指がずぷりと沈み込む。


『あああああっ』


 脳裏に映像が流れ込んでくる。そして我は彼女によって、森が消えた原因が人間のせいではなかったことを『責任をもってちゃんと説明された』のだった。

 

『はぁ、はぁ、はぁ……。わかり、ました。もう落ち着きました、ので、どうか、頭から指を抜いてください……!』


『まぁ! わかっていただけたようで、私とっても安心いたしましたわ!』


 彼女の指が抜かれ、緊張が解かれたことで思わず片膝をついてしまう。すると目の前の騎士が目を見開いた。今まで自分の命を奪おうとしていた相手が突然膝をついたのだ。驚いて当然だろう。


(この恐ろしいお方が視えぬとは、なんとも幸せなやつよ……)


 すると彼女が我と騎士を見比べ、『良いことを思いついた』とばかりに拳を掌へ打ち付けた。


 嫌な予感が過る。


『首無しの騎士さま。あなた様さえよろしければ、今からあること(・・・・)について私に協力していただきたいのですが。……いかがかしら?』


 頭をかき乱すようなおどろおどろしい声。だが仕草や口調はまるで無垢な少女そのものだ。その不釣り合いさがむしろ、一層我の恐怖を掻き立てる。こちらに選択肢があるような口ぶりではあるものの、『断る』という選択肢はあってないようなものだ。


 この偉大なる存在のご気分を、決して損ねてはいけない。この純真無垢な物言いの『演技』は余裕の表れ。歯向かえばきっと想像を絶する恐怖が我に襲い掛かることだろう。


『か、かしこまりました。我は、何をすればよろしいので?』


『協力していただけるのね!? 嬉しいわぁ! 心よりお礼申し上げます! では首無しの騎士様には――』


 彼女が嬉しそうに両手を揃え、小首を傾げる。


『今から、お化け役を演じていただきますわね』


『騎士とお化け』のはじまりはじまり!

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