23 夫も一緒に村へ行くなんて聞いてません。
「ルーナも、いっしょ、いく!」
「えっ!? ルーナも一緒に行きたいの!?」
「うんっ!!」
とっても元気のいいお返事! 可愛いわ! でも――。
(うーん、困ったわねぇ)
ルーナを屋敷の外に連れ出すのは気がかりだ。もちろんまったく外出をさせないというわけにもいかないが、今回は街中ではなく郊外にある村。しかしルーナは期待に胸を膨らませた様子で、瞳をキラキラと輝かせている。困りに困った私は、苦し紛れにこう提案してみせた。
「じゃ、じゃあ。ルーナのお父様に聞いてみるわね? それでお許しがもらえたら、一緒に村へ行ってもいいわよ」
「えっ、おとーしゃま、に?」
ルーナが目を丸くし、少し怯んだ様子で眉尻を下げる。
(ちょっとずるい方法だけれど、これでルーナも諦めてくれるでしょう。アレクシスはおそらく許可しないだろうし)
と一息ついたその時だった。ルーナが決心した様子で、真っ直ぐに私を見つめこう言ったのだ。
「わかった! おとーしゃま、きいてくる! ミア、いっしょいこ!」
「えっ!? は、はい! かしこまりました、お嬢様。申し訳ございませんが奥様、少しお傍を離れます!」
ミアが私とルーナをで交互に見つめ、駆けていくルーナを必死に追いかけていく。
「待っ――」
て。という私の言葉が届く前に、ルーナの姿はあっという間に見えなくなってしまった。後には手を伸ばした私とハラハラした様子のフォルンだけが残される。
(え、えーー! まさかルーナが自分から進んで聞きに行くなんて!?)
普段、まったく交流のないアレクシスを訪ねるとは……。ルーナはよっぽど私たちと一緒に村へ行きたかったようだ。
(悪いことをしてしまったわね……)
とフォルンと一緒にしばらく庭をウロウロしていると、やがて遠目に二人の姿が映り込んだ。どうやら、アレクシスとの話はもう済んだらしい。私は、こちらへ向かってきている二人の表情を見て思わずドキリとした。
二人ともがこの世の終わりとでもいうくらい、どよんとした青ざめた表情を浮かべてるのだ。
(あぁ、やっぱりアレクシスは外出を許可してくれなかったのね)
罪悪感で胸がいっぱいになる。後でルーナに心から謝ろうと胸に決めたその時――。
二人に続いて現れた人物の姿に、私はぎょっと目を見開いた。
(アアア、アレクシス!? なんでこんなところにっ!?)
以前、散財についてお叱りを受けた以降まったく顔を合わせていなかったアレクシスが、なんと私たちのほうへ向かってきているのである。
(無表情だけど相変わらず綺麗な顔立ち――じゃなくて! いったい何の用があって来たの!? まさか、またお叱り!? もし離縁を切り出されたらどうしましょう……!)
あわわわ、と口に手を当て冷や汗を垂らしているうちに、三人が目の前で立ち止まった。
私はルーナとミアを一瞥した後、覚悟を決めアレクシスへ淑女の礼を執ってみせた。
「だ、旦那様におかれましてはご機嫌麗しゅう。本日は誠に良いお天気で――」
「村へは俺も同行することにした」
「――実に散歩日和ですわね、ってえええっ!?」
開いた口が塞がらない。
自分が淑女であることも忘れポカンと口を開けていると、アレクシスが言葉を続けた。
「最近は魔物の活動も少ない。それに近くの村――ムーア村であれば屋敷からそう遠くない場所だ。視察がてら、第一騎士団を率いてルーナを護衛させれば安全には問題ないだろう」
(そ、それは確かに、騎士団に護衛させれば安全すぎるくらいでしょうけれど)
まさか、アレクシスをだしにルーナを諦めさせようとしたことが、こんな大事になってしまうだなんて。
アレクシスには秘密でこっそり野菜不足を解消しようと考えていたが、これでは動きにくくなってしまう。
「ですが旦那様。いくら騎士団が同行してくださるとはいえど、ルーナを郊外に連れ出すのはいささか心配で……」
食い下がった私に、アレクシスはわずかに目を細めた。
「ルーナはローゼンライト公爵家の嫡女。いずれはこの領地を背負って立つ身になる。今のうちから村の実情を知るのは、決して悪いことではないだろう」
有無を言わせない頑なさを含んだ声色。
「今回の外出は、あの子にとって良い経験になるはずだ」
「そ、そうでございます、ね……?」
意外にもアレクシスは村への外出にかなり乗り気の様子だ。説得はどうやら難しそうである。それに、私は先ほどルーナに『お父様の許可が下りたら一緒に行こう』と約束した。破ってはルーナの信用を失ってしまう。
「では……わかりました。どうぞ、よろしくお願いいたします……」
私が折れると、ルーナはパッと表情を明るくした。同時に、私の返事を聞きアレクシスが颯爽と去っていく。やれやれと苦笑しつつ、私は近くの東屋へルーナとミアを呼び寄せた。
そしてヒソヒソ声であることを囁く。
次回、カミラさん村へ行く!




