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10 ルーナと仲良くなろう大作戦。

「もっと仲良くなりたいのに、これじゃあ永遠に距離を縮めらる気がしないわ……!」


 そんな私を心配そうに見つめる人物が一人。侍女のミアだ。今はアフタヌーン・ティーの時間で、空のカップに紅茶をそそいでくれている。


「ルーナお嬢様は、ちょっぴり恥ずかしがりやなところがございますからね。ですがあれから少しずつ奥様と朝食をご一緒される機会も増えておられますし、決して嫌われているわけではないと思いますよ」


「そうだといいのだけれど……」


「そうですよ! ですが何かきっかけがあれば、もっとお嬢様と打ち解けられるかもしれませんね!」


「きっかけ……」


 首をひねってうーん考え込む。ふと視線を下げると、目の前には美味しそうにクッキー。それを見ているとあることを思いついた。


「ねぇミア、ルーナの好物をご存じない? なんでもいいのよ、たとえば食べ物とかおもちゃとか……」


 するとミアは少し考えて、あっと声を上げた。


「ルーナお嬢様はご本がお好きですよ! 以前少しの間お嬢様に仕えていたのですが、その時よく『騎士とおばけ』という絵本を読み聞かせて差し上げた覚えがあります」


「まぁ、そうなのね! 教えてくれてどうもありがとう。『騎士とおばけ』――。それってどこかで読めたりするかしら?」


「えぇ、図書室にございますよ! よければ今からご案内いたしましょうか?」


「ありがとうミア、とっても助かるわ!」


 ということで、私はミアの案内で図書室へと足を運ぶことにしたのだった。



 しばらく歩くと、私たちは目的の図書室にたどり着いた。


「うわぁ……なんて広いの! いったい何冊の本があるのかしら」


 目の前に広がる光景に思わず目を輝かさずにはいられない。


 図書室はまるで大聖堂のように荘厳で、無数の本が書棚に所狭しとぎっしり並んでいた。その量は、人間の寿命ではとうてい読み尽くせそうにないほどのもの。


(本当に美しい場所、本好きにはたまらないわ! 魔王城で長い間幽閉されていた時、私の心を唯一支えてくれたのが本だったわね……)


 ふとと脳裏に辛い記憶が蘇る。


 あれは魔王城の一室に閉じ込められて少し経った頃。私は部屋からなんとか脱出しようと、隠し扉がないかと壁を叩いたり床を這う日々を過ごしていた。そしてとうとうある日、ついに秘密の地下室を発見する。


 階段を降りると、なんとそこには巨大な秘密書庫が広がっていた――。


(結局脱出はできなかった。でも本を読むことができたから、長年閉じ込められても正気を保ってこられたのよね)


 秘密書庫には膨大な種類の本があった。


 初心者向けの魔導指南書、薬草図鑑、モンスター料理のレシピ集、黒魔術の禁書まで。


(あの時は特に魔導書を読みふけっていて、いろんな魔法を使って試したっけ……誰かに披露する機会もないっていうのに)


 しょっぱい過去を思い出しながら図書室に見惚れていると、先を行っていたミアの遠い声が聞こえた。


「奥様、絵本はこちらですよ~!」


「あ……! 今いくわ!」


 気を取り直し急いで彼女の後を追うと、図書室の奥、隅にある小さな書棚の前でミアは足を止めた。


「こちらの絵本です、さぁどうぞ」


 絵本を受け取ると、表紙には『騎士とおばけ』という題名が書かれていた。題名の通り、剣を持った少年と白い布に顔を描いたようなおばけの絵が描かれている。


「ありがとう、ミア。まぁ……この絵本、ずいぶんボロボロね?」


 絵本は端っこが擦り切れていて、中のページはいたるところに細かい皴があった。


「文字通り、擦り切れるほどお読みになったという証でしょう」


「そんなにルーナはこの絵本が好きなのね。早速読んでみようかしら」


 私は席について、絵本を読むことにした。


 ――ストーリーはとてもシンプルなもの。


 正義の味方である主人公の騎士が、村の人々に悪さをするおばけを退治するという内容である。


 悪さとはいっても、子供向けの内容なのでせいぜい、ご飯の盗み食いをしたとかその程度のものだ。そしてこてんぱんにされたおばけは森に逃げ、騎士は村の皆に称えられる。


「ルーナはこの騎士の少年が好きなのかしら……?」


 騎士のイラストを指でなぞる。幼い子供が正義の騎士に憧れる、というのは自然なことだ。


(この絵本の力を借りて、仲良くなれるきっかけを――。でも読み聞かせは傍に寄らないといけないし、ルーナを緊張させちゃうかもしれない。……そうだわ!)


 ふとあることを思いつき、ぽんと拳で手のひらを叩く。



ほのぼのです!

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