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第8章廃村の囁き
森を抜けた先に、朽ち果てた村があった。屋根は落ち、壁は苔むし、静寂の中に風の音だけが響く。
セラは慎重に足を踏み入れ、倒れた柱をどけた。そこに、黒ずんだ人骨が二体、寄り添うように転がっていた。
「……ここも奴らにやられたのか?」
カイの問いに、セラは首を横に振る。
「違う。これはもっと昔……」
奥の建物に入ると、壁一面に褪せた絵が描かれていた。
人間の姿をした女が、やがて獣の形に変わり、村を踏み荒らす光景。
その足元には、血の川と燃える家々。
机の上には、半ば崩れた古文書が残っていた。
『森ノ奥ニ住マウ者、ヒトノ姿ヲ借リテ人ヲ惑ワス』
その横には、黒牙団の紋章が押された羊皮紙が散らばっている。
地図には赤い印がいくつも描かれ、まるで何かを追跡しているかのようだった。
セラは地図を握りしめ、低く呟く。
「やっぱり……黒牙団は村を潰すためじゃなく、”あれ”を探していたんだ」
廃墟の外で、風が唸った。まるで遠くで誰かが笑っているかのように――。