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第7章仮面の下の牙
低い咆哮とともに、闇の中から人影が現れた。
それは白い外套を纏った、背の高い女だった。
黒牙団の男たちも、カイも、思わず武器を下げる。
「……誰だ?」
女は答えず、ゆっくりと歩を進めた。松明の光が顔を照らす。
その顔は驚くほど整っていて、無表情なのに目を離せない奇妙な魅力があった。
だが次の瞬間――女の足元がぶれた。
影が歪む。
白い外套の裾から伸びたのは、しなやかな獣の尾だった。
「化け物か!」黒牙団の一人が叫び、剣を振るう。
女の口元が、わずかに吊り上がる。
「……お前たち、人間の血は嫌いじゃない」
その声は甘く、そして冷たい。
刹那、彼女の皮膚が割れ、下から黒い鱗と黄金色の瞳が覗いた。
腕は異様に伸び、男の首を掴むと、軽々と宙に持ち上げる。骨が砕ける音が夜に響いた。
黒牙団は一斉に後退し、カイとセラは互いに目を合わせた。
「……今だ、抜けるぞ」
セラが低く言い、二人は混乱する包囲の隙を縫って駆け出す。
背後では、人間の形を捨てた獣が炎と血の中で暴れ回っていた。
その金色の瞳だけが、夜の闇に浮かび上がっていた――。