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第6章包囲の夜
夜風が、湿った土と枯葉の匂いを運んでくる。
カイとセラは洞穴を出て、音を殺しながら北の尾根へ向かった。そこを越えれば、森を抜けられるはずだった。
しかし――。
「……止まれ」
セラの手がカイの胸を押さえる。前方の暗がり、樹の間に赤い光が揺れていた。
松明だ。それも一つや二つではない。
闇に慣れた目が捉える。松明の影は、半円を描くように広がっていた。
「包囲網か……」
カイが息を呑むと、セラは矢をつがえ、低く囁いた。
「数は十……いや、もっとだ。走り抜けるしかない」
背後からも、乾いた枝を踏む音が迫る。
逃げ場は前しかない。
「行くぞ!」
セラの声と同時に矢が放たれ、最前列の男が喉を押さえて崩れ落ちた。
カイも短剣を抜き、脇をすり抜けようとする敵の腕を切り裂く。
だが数の差は歴然だった。四方から刃が迫り、松明の炎が二人を包む。
その瞬間――森の奥から、低い咆哮が響いた。
黒牙団の男たちが、一斉に動きを止める。
次の瞬間、闇から何か巨大な影が飛び出した。