第4章森の影の案内人
夜の森は、暗く、重かった。
枝葉が月明かりを遮り、わずかな光も地面まで届かない。
カイは息を殺し、木々の間を縫うように走る。
背後では、松明の橙色の光が点々と揺れ、男たちの怒声が風に乗って追ってきていた。
――あと少しで、見失える。
そう思った瞬間、前方の茂みがガサリと揺れた。
カイは反射的に腰の短剣を抜く。
「……誰だ」
茂みから現れたのは、一人の少女だった。
年はカイより少し上か。背中まで伸びた黒髪は泥にまみれ、肩には弓を背負っている。
その瞳は月光を映し、冷たく光っていた。
「こっちだ、急げ」
少女は短く言うと、背を向けて走り出した。
カイは一瞬迷う。
――罠かもしれない。
だが、背後から迫る松明の光が答えを急がせた。
彼は少女の後を追い、枝をくぐり、根を飛び越える。
やがて二人は、苔むした巨木の根元に辿り着いた。
少女は迷いなくその幹の影へと身を滑り込ませる。
そこには小さな洞穴が口を開けていた。
「入れ。奴らはここまでは来ない」
息を荒げたカイは、なおも少女の顔を探る。
「……あんた、何者だ」
少女は口の端だけで笑った。
「助けたいと思った奴に、理由は必要?」
背後で、松明の光が遠のいていく。
森の奥、黒牙団の影はまだ消えてはいなかった。