第3章黒い牙の影
リナの体は温もりを失い始めていた。
カイは唇を噛み、血が滲むのも構わず、妹をそっと抱き上げる。
「……ごめん、リナ。守れなかった」
声は震え、喉が痛むほどに押し殺した。
上空では、まだ爆発音が響き続けている。
赤い閃光が木々の合間を照らし、風に乗って焦げた匂いが流れてきた。
そのとき――かすかな足音がした。
乾いた葉を踏みしめる音。複数人、それも重い靴の音だ。
カイは反射的に身を低くし、妹の亡骸を近くの茂みに隠す。
草と落ち葉をかぶせ、最後に自分の上着をそっと掛けた。
「この辺りだ! 村の生き残りを探せ!」
聞こえてきたのは、低く荒い声。
松明の明かりに浮かび上がったのは、黒い牙の紋章を肩に刻んだ男たち。
彼らは手に長い銃を構え、顔を布で覆っていた。
「村の奴らは皆殺しだ。証拠は残すな」
――全滅。
その言葉に、カイの胸が冷たく凍りついた。
黒い牙の紋章――それは旅の途中で噂に聞いた、凶悪な傭兵集団《黒牙団》の印。
金で雇われ、町や村を無差別に壊す、死神の群れ。
カイは息を殺し、背を向けて森の奥へと足を運び始めた。
背後で、妹の眠る場所を振り返ることはできなかった。