第2章崩れ落ちる夜
轟音と共に、大地が大きくうねった。
足元の土が波のように盛り上がり、次の瞬間には裂ける。
「兄さん!」
リナの声が、闇と炎にかき消されていく。彼女は崩れた地面の向こう側に立ち、必死に手を伸ばしていた。
「動くな! 今行く!」
カイは駆け出そうとした――だが遅かった。
地鳴りが一際大きく響き、地面が裂け、リナの足元が沈む。
彼女の小さな身体が炎の光を反射しながら、闇の中へと吸い込まれていった。
「リナァァッ!」
カイも反射的に飛び込む。
真下は深い谷――いや、断層の裂け目だった。暗闇の中、何かが高速で迫ってくる。
岩だ。次の瞬間、鋭い岩角がカイの肩をかすめる。激痛が走るが、かろうじて避ける。
だが、前方のリナは違った。
ごつごつとした岩壁、折れた木の枝、突き出た石柱――その全てが彼女の体を打ち据えていく。
落下の終わりは突然だった。
カイは柔らかな草の塊に叩きつけられ、息を詰まらせながらも生きていた。
痛みをこらえて立ち上がり、必死に辺りを探す。
「……リナ?」
闇の中、倒れた妹を見つける。
小さな体はぐったりとし、衣服は裂け、血が滴っていた。
カイは膝をつき、その顔を覗き込む。
「しっかりしろ、リナ! もう大丈夫だ……!」
だが返事はない。
かすかに動く唇が、「……にい、さん……」と形を作った次の瞬間――その瞳は静かに閉じられた。
胸の奥が、何かに引き裂かれるように痛んだ。
地上からは、まだ爆発音と悲鳴が響いていた。