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第1章続き
焚き火の明かりはすでに消え、夜露の匂いが森を満たしていた。
あの夜の惨劇を思い返すたび、カイの胸の奥に鈍い痛みが走る。妹の笑顔、温もり、最後の声――すべてが脳裏に焼きついて離れない。
セラは少し離れた切り株の上で、矢羽根を一本一本丁寧に整えていた。指先の動きは落ち着いて見えるが、耳は常に森の奥の気配を探っている。
「……聞こえるか?」
カイが囁く。
セラは顔を上げ、目を細めた。「聞こえる。獣じゃない……軽い足音だ」
その瞬間、森の奥で枝が折れる乾いた音が響いた。二人は同時に腰を低くし、影の中へ溶け込む。
足音は徐々に近づき、やがて月明かりの下に現れたのは、黒牙団の装備を身に着けた男――だが、その瞳は人間のものではなかった。
カイは息を呑む。あの、擬態する魔物。
だが今回は戦闘を仕掛けず、ただ二人を見下ろし、低く囁いた。
「……森はもうすぐ血に染まる。止められるのは――お前だけだ」
そう告げると、影は闇に溶けるように消えた。
残された静寂は、言葉以上の不吉さを放っていた。




