第1章焚き火の始まり
短編です。
山を越えた先に、その村はあった。
石垣は低く、家々は木と藁で組まれ、煤けた屋根が夕日に照らされている。畑からは土の匂いが立ち、遠くで牛の鳴き声が聞こえた。
カイは背負った荷を下ろし、隣を歩く妹のリナに微笑みかける。
「ほら、言ったろ。人が住んでる場所だ」
リナは安堵の息をもらし、小さく笑ったが、その表情にはまだ不安の影があった。
「……でも、知らない人ばっかりだよ」
「すぐ慣れるさ」
そう言った瞬間だった。
村の中央の道を進む二人の前に、一人の少年が立ちはだかった。年はカイと同じくらい、乱れた茶髪に鋭い目つき。
「おい、見ない顔だな。部外者は立ち入り禁止だ」
「そんな決まり、どこにもないだろ」
カイが眉をひそめると、少年はニヤリと笑い、拳を構えた。
「決まりは俺が作るんだよ」
次の瞬間、拳が飛んできた。
カイは咄嗟に身を引き、逆に相手の腹へ軽く拳を入れる。鈍い息が漏れ、少年は膝をついた。
「兄さん! やめて!」
リナの悲鳴に我に返る。
少年は鼻血を拭きながら、悔しそうに顔を上げた。
「……強ぇな。名前は?」
「カイだ。こっちはリナ」
「俺はレオ。悪かったな、からかっただけだ」
互いに苦笑し、ぎこちなく握手を交わした。
夕暮れ、三人は村はずれで焚き火を囲んだ。薪が爆ぜ、橙色の光が顔を照らす。
笑い声が広がった、その時だった。
――ドンッ!
地の底から響くような爆発音が夜を裂き、地面が大きく揺れた。
焚き火の炎が暴れ、リナが悲鳴を上げて反対側へと走る。
「リナ!」
叫んだ瞬間、足元の地面が崩れ落ちた。
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