閑話 フレディ
ブラントン伯爵からタウンゼントへ向かうように命じられ、知らない技術が見られると喜んで行ったは良いが、それは最初の数日だけだった。
三角測量の方法や三角関数を座学で学び、実技で測った結果を図に落として地図となったものを見ると、今まで地図と考えていたものがただのお絵描きだったと知った驚きは筆舌に尽くしがたい。
シンジ・タウンゼント様に当面執事の指示に従うよう命じられたとき、驚きと失望で返事ができなかった。この事は父であるヴィアーズ伯爵の思惑とも異なっている筈だ。ブラントン家にはヴィアーズの駐在員のような位置付けで在籍していたため、いずれはタウンゼント家での駐在員、技術修得窓口と考えていただろう。
執事配下として働くようになり、時にはメイドと同じ仕事を命じられると、文官として持っていたプライドが傷ついたと考えるのは仕方がない事だと思う。
せめてもの救いは、メイドにバーバラがいたことだ。ヴィアーズには娘が1人しか居なかったため、バーバラは王家のメイドになるために10歳の頃ヴィアーズの養女になっている。王家に上がるために必要な礼儀作法やメイドとしての心得は男爵家では難しい。と言うより無理だ。
バーバラは私たち兄弟付きのメイド(見習)として、私がブラントン家に出仕するまでの3年間一緒に生活していた。兄たちがバーバラに無茶な仕打ちをし、私があとで慰めると言う3年間だった。自分がいなくなってから王家に出仕するまでは2年ほどあったはずだ。
『バーバラ、久しぶりだね。5年ぶりかな。』
『そうですね、5年と言うより6年に近いと思います。』
『私がいなくなってから、兄たちの世話は大変だっただろう。心配していたよ。』
『いえ、フレディ兄さまが出仕された後はリチャード兄さまが慰めてくれるようになったのです。それで、あれは私を鍛えていたのだと知りました。王家では理不尽なことばかりで、兄さまたちの試練を経験してなければ耐えられなかったと思います。』
そうだったのか…いや、違う。兄たちは私にも結構無茶なことを言っていた。私がいなくなり、無茶の矛先が次兄に向かうようになったのだろう。それで次兄が優しくなったに違いない。
『でも、王家の別宅に異動してからは、年に2回以外は上位の方々が不在で、楽をさせて頂きました。タウンゼント様が見えてからは、お二人ともとても優しくて、忙しいですが楽しく過ごしております。』
しばらく時が過ぎたある日、サユリ様からお話があった。
そこには各地からやって来た文官も同席している。
『皆様、この地に来てくれてありがとう。この地がおおよそ落ち着くまでは力を貸して貰います。いずれは領地へ帰れるように致します。』
領地に帰っても居場所がある訳でもない。帰るとすればブラントンだ、と考えていると、
『ここの各集落には代官がいません。集落の長しかおらず、緩い管理しかできていません。皆様の中から代官を務めて下さる方がいてくれたらと思います。
それにはこの地に骨を埋める覚悟とそれぞれのご領主の認可が必要になりますが、いらしたなら男爵として遇じたいと思います。』
男爵!今まで考えてもいなかった厚遇だ。絶対なってやる。骨を埋めるには家族が欲しい。バーバラだ。バーバラを妻に迎え、男爵家を興してやる。何としてもバーバラを口説かねば。
慎二くんの思惑通り。
フレディ・ヴィアーズ :ヴィアーズ伯爵の三男
バーバラ・ヴィアーズ :メイド
リチャード・ヴィアーズ :ヴィアーズ伯爵の次男(今のところ今後の出番予定なし)
鷹司 小百合 (サユリ・タカツカサ・タウンゼント):タウンゼント領主
鷹司 慎二 (シンジ・タカツカサ・タウンゼント):領主の夫




