11.ブラントン伯爵来訪
意外な訪問者がやってきた。
いや、ブラントン伯爵は意外じゃない。むしろ当然来るだろうと思っていたし、事前に前触があったから待ち人きたるだけど。
ブラントン伯爵と一緒に来たのはドロシー・パピオン。迎賓館で襲撃者の手引きをして逃亡した王配付きだったメイドだ。どういうことなの?
ドロシーはブラントン伯爵家配下のパピオン子爵の次女で、逃亡先のパピオン子爵家で拘束され、詮議の結果ブラントン伯爵家預かりになったんだって。
自分の家に逃げればすぐに捕まるよね。でも他に逃げる場所はないか、貴族の子だから下町に潜むなんて頭にもないだろうし、無理そうだ。
慎二くんが
『手引きしたメイドは騎士に強制されたと考えている。罪ではあるが配慮せよ。』
って言ってあったから、ブラントン伯爵家預かり程度で済んだんだそう。
パピオン子爵はもちろんの事、ブラントン伯爵も関係者から重罪人を出さずに済んだ訳だから、思わぬところで貸しができたんじゃないかな。
ブラントン伯爵との挨拶に続いて、ドロシーの謝罪を受け入れ、手押しポンプの現場を確認して貰った後、本題の図面取引契約の打ち合わせが始まった。
最初に、私から一言、
『この図面は、金銭で譲るつもりはありません。』
と言って、微笑む。これで今日の私の仕事は終了。後はお願いします。
ブラントン伯爵が私を見つめる。いくら見られても、もう私からはなにも出ませんよ。
私の微笑みが引きつりそうになる直前、慎二くんから一言。
『以前申し入れた案件の確約を頂きたい。』
視線が慎二くんに移動した。よかった、間に合った。引きつった顔は見られなかったね。
『領地間の道路の整備と、有事におけるブラントン領軍によるタウンゼント警備です。』
『有事での協力は当然致します。道路の整備とは、どのようなものでしょうか。』
『こことブラントン領都間を、馬車が2台並んで走れる程度には広げたいと考えています。もちろんタウンゼント領内はこちらで実施しますが、ブラントン領内をお願いしたい。』
前もって聞いてはいたけど、領都間の距離って300~400km位あって、その2/3がブラントン領内だから、相当な距離だね。何年かかるのかしら。
『わかりました。そのように致しましょう。手押しポンプが齎す利益を考えれば、その程度であるのはありがたいことです。』
経路と分担の打ち合わせに入り、合意して慎二くんとブラントン伯爵が握手を交わした後、ブラントン伯爵が語り始めた。
『ドロシー・パピオンですが、あらためてメイドとして使っては頂けないか。タカツカサ家に仕えることができれば、罪が限りなく無かったことに見られ、パピオン家が救われます。』
確かに被害を受けた方が気にせず雇えばそうみえるわよねー。と思っていたら、慎二くんが私を見ていることに気が付いた。
私が答えるの?仕事は終了だったよね。でもこれは仕方ない。
『わかりました。当初のように、王配、いえ配偶者付きとして雇用しましょう。』
これで良かったよね。と慎二くんを見ると、
『交渉事はここまでにしましょう。
少しお尋ねしたいことがあります。男同士で飲みながら話しませんか?』
『ありがたい、のどが渇きました。ぜひご相伴させて頂きたい。』
あれ?私はお邪魔なの?お酒はあまり好きじゃないから良いけれど。何を話したかは後で教えてね。と考えながら慎二くんを見ていた。彼もこちらを見たから、きっと鑑定で私の考えが分かったに違いないね。
登場人物
ヘンリー・ブラントン :ブラントン伯爵
ドロシー・パピオン :メイド




