8.中期目標
あまりにも慎二くんの考えがわからないので、ちゃんと聞く機会を作って貰った。
プロポーズの時に、“一緒に平和でのんきに暮しましょう”と言われているので、長期目標はこれだろう。看護師はやりたいなら続ければいいし、嫌になったらいつ辞めてもいいよとも言われていたし。
短期目標は、きっとたくさんあるだろうから、今回は聞かない方が良いと思う。私が処理しきれないからね。
聞くのは中期目標だ。3年から5年。
「ただ生きていくだけなら、特に何もしなくても指示するだけでやっていけると思っている。想像していたより皆まともだったからね。だけど、このままだと、数年後に君が使っている携帯用おしり洗浄機は使えなくなるよ。」
それは困る。でも、どうして?
「持ってきている機材のバッテリーは、甘目に見て5年が限界だ。バッテリーが死ねば機材はただのゴミだよ。動かない。」
「だからまずは発電機を作ろうと思っている。モーターからだね。モーターは一番わかりやすい発電機なんだよ。でも、モーターを作る前に、例えば銅線がない。材料から作らないとできない。」
「水鉄砲のおしり洗浄版ってのはできないのかな。」
「そこだけに絞ればできるだろうね。でも今は俺の中期目標を聞きたいんじゃなかったっけ。そのひとつは“電気を作る”だよ。短期目標はそれを実現するために必要なことだね。魔力が電力の替わりになるかも知れないけど、バッテリーが壊れてもあきらめがつく時の最後の手段として考えたい。」
「ひとつって、他にもあるの?」
「法律を作って、法治国家としての体裁を整えることも中期目標だよ。そのために戸籍を整備する。集落間の道を整備する。住所を作る。測量する。地図を作る…」
「ちょっと待って。やることが一杯あるじゃない。できるの?」
「俺たちだけじゃ無理だな。まずはブラントン伯爵を巻き込みたい。そのためにはレオナルドを含めたブラントン子息を完全に味方につけなくてはね。」
あれ、そう言えば次期伯爵のレオナルドって、来るとき一緒だったけど、まだ帰ってないわね。何しているのかしら。
「レオナルドくんは何をしているの?」
「手押しポンプの開発を手伝ってくれているよ。図面と仕組みを見せたら、画期的で、ブラントンに導入したいってさ。」
「いつ見せたの?」
「文官たちが来る前日にね。本当は文官の護衛騎士と一緒に帰る予定だったけど、これで当分残るんじゃないかな。居させて欲しいって、多分2~3日中にでも言ってくる予想をしているんだけどね。手紙出していたみたいだから。」
伯爵に滞在延長の連絡をしたのね。あれ、ご子息全員いるんじゃない。
「気付いたみたいだね。ゆるい拘束の人質を取っているから、今すぐにはブラントン伯爵が敵対することはない。この間に俺たちの味方をした方が利益があると思わせたい。」
「ブラントン伯爵は味方だって言ってなかった?」
「今はね。王家のやり方に不満があって、こちらに同情的さ。でも将来はわからない。」
慎二くんは急に真剣な表情で私を見た。
「今、王家がここに攻め込んだら、まず負ける。少数なら小百合の威圧で対処できるけど、物量に任せて攻められたらどうしようもない。ここには騎士は20人もいないんだ。元々王家の騎士だから、いざと言う時寝返らないとも限らない。ブラントン伯爵には当面盾になって貰わないと。」
「攻め込んでくるの?」
「あの王ではすぐにはないだろうけど、周りの人間は利があれば攻め込みたい奴はいくらでもいるだろうからね。どんな奴がいるのか、今は分からない。ブラントン伯爵は知っているだろうから、頼りにするしかないね。」




