プロローグ 再会
彼との再会は実に三年振りだと思う。
長いようで短いお別れだった。ボク自身、再会するなど夢にも思っていなかったので、クラス発表をされた時に、同じクラスに彼の名前があってとても驚いたものだ。
今日からボクは高校生だ。
悠橋学園の入学式は、体育館にてとても厳格な空気の中で執り行われる。質より量を目指した質素なパイプ椅子に腰掛けているボクは足が震えるを必死に堪えていた。
しかし予想よりも、新しい学校生活への不安は感じない。今日まで抱いていた不安感が彼の存在によって少し和らいでいたからだ。
彼はとても優秀な人間だった。付き合いがあったのは小学校までだが、その当時の事を思い返すだけで、彼がどれだけ凄い人間だったのかすぐに理解できた。
頭の回転が速く、よく教師を驚かしていた。卓越した運動能力、そしてカリスマ的な指揮能力を持ってして、彼は所属するクラスを運動に関するイベントではいつも勝利へと導いていた。巧緻な話術は、小学生とは思えないほどの弁論を展開させ、教師に舌を巻かせていた。集会などで生徒代表として彼が語った後、校長が話をする機会が何度かあったのだが、そのたびに校長は自分と彼を比較したじろいでいた。
といっても、そんな彼のハイスペックな能力を理解できるようになったのは、最近の事なのだが……。それと同時に、髪薄い、幸薄い当時の小学校の校長の不憫さを嘆き哀れんだりしてみた。だが、よく考えてみると、神童とまで呼ばれた彼が在籍していたのだから、学校の宣伝にはなっていたのだ。そう思うと、校長の苦労はまあ妥当なものかな、と簡単に残酷になれた。
そんな微妙に懐かしい思い出に浸っている間にも式は着々と進行していた。在校生からの歓迎の言葉をもらい、それに答えるための感謝の言葉を述べる新入生代表の名が呼ばれた。そう、代表生徒は間違いなく彼だ。彼――黒澤頼斗だ。
頼斗は、式の進行役である教頭先生に名を呼ばれ、
「はいっ!」
と昔と変わらない――いや、少し大人っぽくなって凛々しい響きを感じる声で返事をし、椅子から立ち上がった。
頼斗は、長めに切り揃えられた漆黒の髪を弛ませ壇上に上がって行く。スラリと長い手足が目を引いた。再会して一番に思ったのは、身長が驚くべきほどに伸びていた事だ。小学校時代は同じくらいだったはずなのに今となっては大きな隔たりができてしまっている。ボクもそれなりに身長がある方だが、彼はおそらく180センチはある。
壇上へと上がり切り、後もう少しという所まで来た頼斗だが、ボクはその姿を見て、思わず笑い声を上げてしまった。周囲の者に睨まれたが、そんな事は気にしない。
遅れて気付き出した同級生たちは、ボクみたく声は出さなかったが、確実に笑いを堪えている様子だった。もちろんそんな彼らを責める気は無い。笑って当然なのだ。
ボクは場の空気が乱れたのを察知し、チャンスだと思い周りの様子を窺ってみた。
更に遅れて、教師や保護者たちも異変に気付き出した。教師も比較的笑いを堪える傾向にあったが、中には憤慨し、今にも怒鳴りつけそうな勢いの教師も居た。保護者に関してはとても個性的な反応が見れた。疑問符を浮かべ首を傾げたり、扇子で口元を優雅に隠したり、隣の奥様とヒソヒソ話を始めたり、顔を真っ赤にし体育館から出て行ってしまったり――出て行ったのは頼斗の母親だろう。なんとなく姿が記憶に残っている。
一通り周りの反応を確認してから、ボクはまた壇上の頼斗を見上げた。まだぎこちない歩行を続けていた。
何がそんなに笑えるかって、それはもちろん、頼斗が同じ方の手と足を同時に出して、それはもう真剣な顔で歩いていた事だ。
流石に頼斗が演説ポジションに到達する頃には式の参加者はみんな真面目な顔に戻っていた。いや、そうさせられたのかもしれない。
みんな頼斗の姿に見入っていた。
眩しいぐらいの照明を浴びて危なげな魅力を放つ黒髪。確固たる信念を持ち一目で人々を引き込む魔性を秘めた闇色の双眸。凛々しく端整な作りをした顔立ち。悠橋学園の制服である紺のブレザーに包まれたモデル並みに整った体躯。
どれもが人目を引く要因だった。そして、何よりもその圧倒的な存在感とも呼べる、輝くオーラのような体内から溢れ出る生気が目を引いた。第六感を持ち合わせないはずのボクでも、その未知の感覚によって知った。
――次元が違う。
ボクと関わらなかった三年の間に頼斗の身に一体何があったのか、まるで想像が及ばない。
同じ方の手と足を同時に出す奇妙なロボット歩きで掴みが完璧な頼斗が、そんなギャグテイストな雰囲気を一蹴するシリアスな表情を浮かべた。そして、右手で拳を作り上げ、マイクが乗せられた台を強く叩いた。
その音を受けて僅かに広がり出す潮騒のようなざわめきに何も反応せず中庸な表情を浮かべた頼斗は、教頭の『礼』の指示を無視し、叫ぶように、訴えるように言葉を紡いだ。
「ただの既存属性に興味は無いっ!」
時が止まったような気がした。違うな、ボクが、本能を持ってして現実を拒否したのだ。どうやらそんな思いを抱くのはボクだけではなく、他の人たちも同じようだ。
うん、聞き間違いだよ。昨日はとても緊張して眠れなかったからきっと疲れが溜まっているんだ。
一縷の望みってあるよね? ボクはそれを信じたんだ。
でもさ、この時に学んだんだ、現実はとっても非情だって。
ボクの僅かな逡巡は通り過ぎ、刹那の沈黙は消え、頼斗の声が体育館に木霊した。
「ツンデレ、ヤンデレ、クーデレ、不思議系、姉系、妹系、電波系、ロリ系、数々の偉大な属性様方には、正直、飽き飽きとしている! だから俺は、新ジャンル、新属性を求めているのだ! この中に我こそはという者は俺のところに来てくれ! 以上だ」
続けて叫ぶ頼斗の言葉に、かつての頼斗の面影など微塵も感じられなかった。
某ライトノベルの某女子高生の某セリフに似ていたのはさることながら、入学式でそれも新入生代表として、ぶっ飛んだ挨拶をかましたのは、それはもう様々な方面への宣戦布告とも取れる迷惑極まりない、随分な出過ぎた真似であった。
ボクは絶望による沈痛な面持ちで、頼斗を見上げた。
頼斗は、皆様方の色々な意味での心配を余所に、実に満足気な様子で降壇していった。
以前私が書いた完全に趣味に走った小説です。なので既に書き終わっています。
ちなみに、最初から最後までこのよくわからないテンションで物語は展開されます。
平常な人は多少電波に毒されるので、覚悟をしてから読んでください。著者はこの作品より受ける影響を一切関知致しません。(すみません、ただ言いたかっただけです)
告知が遅いのは私が確信は(ry
電波ゆんゆんがどうした? どんとこい! という猛者な方。
これくらいで電波? はっ! 余裕だぜ! という勇者な方。
電波マジ大好物なんですけど~! うは! という手遅れな方。
やべぇwキーが止まらん! wwwwww という通な方。
上記に該当する方は間違いなくこの作品程度では悪影響を受けないので、安心して続きをお読みください。