前編
皆さんは、いきものや地面を除いた何もかもがガラスでできた都市をご存じだろうか? そう、富山市である。富山県の県庁所在地、富山市である。
それは西暦何年のことだったか、現在のほとんどの人は覚えていない。富山市では、もう何十年も前からカレンダーに硝子暦が導入されていて、独自の時間を生きているからだ。今年は、硝子暦三十年。かっきり三十年前に、富山市はガラスの街として生まれ変わったのだ。
家も学校もお店も全部ガラス仕立て。(窓は普通のガラス、壁や床や柱は、ハンマーで叩いても火が燃え移っても壊れたり溶けたりすることのない、金属やダイヤモンドの素を混ぜた強化ガラスだ。しっかりと染料を混ぜ込んでいるので、お風呂に入るところやトイレに行った時に丸見えで恥ずかしい……なんてことは、ない)
車も電車も飛行機も、ガラス。本やノートは、まだ軟らかいガラスを素早く、すごく薄く削った「ガラス紙」を使っている。触ってみるといい、本物の紙よりも滑らかだから。iPhoneも、パソコンだってガラス。道路は、砕いた色ガラスを土に混ぜて固めた色とりどりのガラスの道で、日が当たると七色にきらきら輝いた。お父さんお母さんが毎日通う会社のビルは総ガラス張りで、雨の日は、雨粒がぴちゃんぴちゃんと天井や壁に素敵な模様を描くし、晴れた日には青々とした立山をいつでも眺めることができる。そして、みんなが着る洋服も、絹みたいに柔らかいガラス繊維で織ったガラス服である。
学校でも、「ガラス学」は小学一年生から毎週習う。富山市のたいていの子は、小学六年生にもなると、ガラスのたねを溶かして、好きな形に固めることができるようになる。
このお話の主人公たち、小学五年生のユキノとアヤネも、そんなガラスの富山市に住んでいた。
ユキノは活発で、好奇心旺盛な女の子だ。男子にも負けない覇気と腕っぷしの持ち主だけど、誰に対しても思いやりのある子で、男子女子問わず誰からも好かれている。アヤネはおしとやかで、あまり目立たないけれど、その場にいるだけで空気が和むような子だった。面白いものに目がなくて、いつだって冒険したくてうずうずしているのはユキノの方。だけどアヤネも、ユキノに負けないくらい、未知のものへの好奇心は旺盛だ。
さらに、ユキノとアヤネは、小学一年生の時から無二の親友である。入学式で、初めてお互いを知った時、二人はビー玉がぶつかったような小気味よい音を聞いた気がした。二年生の時は、こっそり二人きりで山王さんに遊びに行って、屋台のガラス飴(ガラスみたいな飴だよ。ほんとのガラスじゃない)を買って食べた。三年生で、授業で作ったとんぼ玉を交換し、ストラップやネックレスにして今でも大事に持っている。四年生の時、巨大なスノードームを小学校に作る大がかりないたずらが、地元の中学生のアイデアで決行された。当然、ユキノとアヤネも参加して、後で先生から大目玉を喰らった。とても見事なスノードームが完成したけれど、校舎をドームの中に閉じ込めてしまったからだ。
アヤネのお父さんはガラスの市役所の公務員で、お母さんはガラス美術館の中の図書館で司書をしていた。お母さんがいる図書館にユキノと遊びに行って、それぞれが読みたい本を借りるのが二人の毎日の日課だった。
ユキノのお父さんお母さんは、ガラス細工職人だ。二人とも、ガラス工芸研究所で、ガラス細工の先生をしている。この富山市で、ガラス細工職人はとても多い。何をするにしてもガラスを使う技術が必要だからだ。いまや大人たちの半分がガラス細工職人である。ユキノのお父さんお母さんは、ガラス美術館や市役所にもお手伝いに行っていた。だから、ユキノとアヤネの家族はお互いのことを昔からよく知っているし、仲もとても良い。お互いの家に子どもたちが遊びに行くこともしょっちゅうあった。
ある土曜日、ユキノとアヤネは、富山キラリの図書館に行った帰りに、冨山城に寄った。透き通るガラスの富山城は、太陽の照り返しを受けて燦然と光り輝いている。ユキノとアヤネは、買い食いしたソフトクリームを持って、広場のベンチに腰掛けた。ユキノが焦がしキャラメルアーモンド、アヤネがブルーベリーベリー。甘いソフトクリームをなめながら、冨山城に昇る人々をのんびりと眺めていた。
「あ、鴨」
アヤネが、城を囲む堀を指差した。十羽くらいの鴨が、一列になって堀を泳いでいた。
ユキノは叫ぶ。
「おい鴨、ソフトクリーム分けてやろうか!」
「ダメだよ、ユキノ」
「分かってるって」
ユキノは豪快に口を開けて、小さくなったワッフルコーンを一口にほおばった。
「あーあ、動物飼いたいなあ」
アヤネもうなずいた。二人とも、親が日中働いているから、動物は飼わないと言いつけられていた。その上アヤネのお母さんは、動物アレルギーだった。
「ペットだったら、何飼いたい?」
アヤネが聞くと、ユキノは即答した。
「パンダ!」
「無理だよぉ」
「じゃ、アヤネは?」
「うーん、ペガサスかなあ」
「もっと無理じゃん」
アヤネは最近、ペガサスや妖精が出てくるお話にはまっているのだ。
「じゃあ、鳥がいいな。空飛べるの」
鴨を見ながら、アヤネは呟いた。大事に食べていたソフトクリームはあと少しだ。
だけどその時、
「あっ!」
とユキノが叫んだ。そして、アヤネのそばをサッと風が吹き抜けた。
「あっ!」
今度大声を上げたのは、アヤネだった。手に持っていたソフトクリームが、跡形もなく消え失せていたのだ。
見上げると、鷹のような鳥が、羽を広げて青空に昇っていくところだった。
「とんびだ……」
アヤネは歯がみした。ソフトクリームはもうほとんど食べ終わっていたけど、とんびにさらわれたとなっては余計に悔しかった。
腹を立てるアヤネの肩を、ユキノがつついた。
「ねえ、見て!」
ユキノは、地面に落ちていた白い紙片を拾い上げていた。さっきまではなかったものだ。
「あのとんびが、落としたのかなあ?」
見ると、広場に同じような紙が点々と落ちていた。歩いていた大人もそれを拾い上げ、びっくりしている。
その紙は、二つに折りたたまれていた。ユキノが紙をなでる。
「変なの。ごわごわしてる。いつもの紙と、全然違う」
アヤネも触ってみた。
「これ、和紙だよ」
「ワシ?」
「昔の紙。ガラスを使ってないの」
二人は紙を開いた。中に、手書きの文字が書かれている。
「『何もかもがガラスの、まがい物の街に、本物の宝石はふさわしくない。『海の神秘』は、わたくし、怪盗カレイドスコープがいただく。六月四日、午後十二時、ガラス美術館キラリにて』……」
二人はあんまりびっくりして、声を揃えて叫んだ。
「予告状だ!」
『海の神秘』は、富山県の名士、立山純三氏が富山市に贈った、青く美しいサファイヤである。その大きさは、赤ちゃんの手のひらと同じくらい。この宝石を買おうと思ったら、十億円は下らない。普段は市役所の金庫で厳重に守られている。だけど今は、富山市だけの大型連休、グラスウィークだから、特別に富山キラリの五階に展示されていて、連日観光客の注目を集めている。
アヤネもユキノも、もちろんこの宝石のことは知っていた。アヤネのお父さんはサファイヤを守る責任者だし、お母さんはキラリで働いている。ユキノのお母さんは、サファイヤをはめこむ美しい台を作ったのだ。
「海の神秘を盗むだなんて、ひどい!」
アヤネは珍しく、本気で怒っていた。お父さんにこの予告状のことを知らせると、市役所は大騒ぎになった。警察にも通報し、急きょ、この怪盗ファンタスマゴリアなる者の捜査班と宝石の警備班が立ち上げられた。
「参ったな……」
アヤネのお父さんは、部下たちに指示を出しながら、頭をかいていた。
「こういった脅迫状は、前にも何度か届いていたんだ。大抵は、口先だけのいたずらなんだけどね。こんなに大がかりに手紙をばらまかれたとなっては、ちょっと真剣に対応しなきゃいけないな」
あの時、城址公園には沢山の観光客がいた。アヤネたちと同じように予告状を開いた人たちから、電話が殺到しているのだそうだ。
「でもさ、カレイドスコープって、なに?」
「カレーでしょ。食いしん坊なのかなあ」
ユキノとアヤネが首をひねっていると、お父さんが教えてくれる。
「万華鏡って意味だよ。のぞき込むと、模様がくるくる変わるおもちゃさ。アヤネたちも、授業で見たことはあるだろう?」
そう言われて、アヤネは思い出した。ビーズや折り紙の欠片を筒の中に入れて、手作りの万華鏡を作ったっけ。
「一体、どんな奴なんだろう?」
ユキノは呟いた。
「きっと、とんでもない悪党に決まってる!」
かっかするアヤネの側で、ユキノは前に本で呼んだ怪盗のことを思い出した。フランスのお話で、美女のために悪者と戦う義賊だ。
「わたしたちも、戦おうよ」
アヤネが鼻息も荒くユキノに言った。その時、アヤネのお父さんが、二人の肩を叩いた。
「アヤネ、お家に帰るんだ。お前は何も心配しなくていい」
「えーっ、だって……」
「私たち、お手伝いしたいです」
お父さんは、ユキノにも笑いかけた。
「ありがとう。だが、手は足りているよ。君たちは安全な所で、応援してくれればいい」
そんなの、つまんない。
言われるままに市役所を出ながらも、二人はこっそり誓い合った。__わたしたちで、不届き者を捕まえようね。
さて、ゆっくり作戦を練る暇もない。なぜなら、六月四日は、今日なのである!
アヤネとユキノは、家に帰るようにという言いつけを破って、富山キラリに向かった。三階の子ども図書館に行くと、カウンターにアヤネのお母さんがいた。
図書館の中の人はまばらだった。本を選んでいる子どもが何人かと、その親たち。あと、一人の男の人が椅子に座って、小説を読んでいた。
「お母さん」
アヤネがカウンターで呼びかけると、お母さんはにこりとした。
「あら、どうしたの?」
ユキノもカウンターに身を乗り出した。
「怪盗がサファイヤを盗みに来るんだって!」
お母さんは、また、にこりとした。
「お父さんから聞いたわよ」
お母さんは図書館司書だけど、美術館の職員でもある。
「海の神秘は、今どこにあるの?」
ユキノが囁くと、お母さんも小声で答えた。
「ないしょ」
「なんだ、つまんないの」
ユキノは、周りを見回した。本棚、エスカレーター、ガラスの展示。それから、鏡とガラスが組み合わさった芸術的な壁と窓。エスカレーターを昇って、どやどやと人があふれ出した。制服の警察官たちに混じって大きなカメラを抱えた人や興奮して騒いでる若者もいる。
「何だか、うるさくなりそう」
「ふふふ、そうね。あなたたちは早く帰るのよ」
図書館からも追い出されそうだったので、その前に本を借りることにした。アヤネが日本人作家の「あ行」の棚で選んでいると、後ろで誰かがパタンと本を閉じた。思わず振り返ると、男の人が江戸川乱歩の本を手に微笑んでいた。
「こんにちは」
あいさつをされたので、アヤネもつられて「こんにちは」と言った。
「何やら、騒がしいね」
男の人は、エスカレーターの方に顔を向けて言った。アヤネの、四十歳のお父さんよりちょっと年上に見える、すっきりとした顔のおじさんだ。冬だからか、分厚いコートを着込んでいる。声はまるでおじいさんのようにしわがれていた。首から、美術館の社員証を下げていたから、アヤネは、お母さんの同僚だと思った。
エレベーターからも、警察のおじさんが何人も降り立った。十人、二十人、三十人。
「『海の神秘』が、そんなに惜しいか?」
男の人が、呟いた。アヤネは、はっとして振り返る。男の人は、椅子から立ち上がっていた。
「今、なんて言いました?」
男の人は本を掲げてみせた。江戸川乱歩の『鏡地獄』だ。アヤネもユキノも、まだ読むにはちょっと早い本。
「ガラスはしょせん、金属や宝石のまがい物だ。大切なものを何もかもガラスに変えてしまったこの街は、間違った道を歩んでいる」
アヤネは、一歩後ずさった。男の人は、一歩近づいた。
「それなのに、宝石だけは本物が欲しいと、君たちはそう言うのかね」
この人、怪盗だ。恐ろしくて、アヤネはすくんでしまった。
男の人は、ポケットから青い宝石を取り出した。
「『海の神秘』は、私がもらう。その代わりにこれをあげよう。本物そっくりの、ガラスのサファイヤだ。これを大事にするといい」
「そんなこと、させないっ!」
アヤネの後ろから、凛とした声が響いた。
「私たちの富山を馬鹿にしたら、許さないんだから!」
ユキノだ。ユキノのお父さんも、警備員も一緒だった。
「あんたは、いったい何者なの__?」
男の人は、にやりと笑った。
「私は怪盗カレイドスコープ。予定より少し早いが、宝石はいただくとしよう」
怪盗カレイドスコープと名乗った男が、口笛を鋭く吹いた。
すると、どこから入ってきたのか、何十羽もの鷹が図書館に飛び込んだ。くちばしに何かくわえていて、きらきらと輝いた。子どもたちは大騒ぎ、大人は悲鳴を上げて逃げ惑う。
「おっと、本を汚しては悪いからな」
怪盗は、身を翻し、図書館を走って出て行った。追いかけようとする警備員を、鷹の群れが襲う。そして怪盗の姿が見えなくなると、鷹も散り散りに飛んでいった。
「待ちなさい!」
ユキノが走り出そうとした。アヤネは慌てて引き止める。
「危ないよ!」
「離してよ! あいつ、許せない!」
ユキノは、怒りでぶるぶる震えていた。行かせまいと抱きしめるアヤネにも、その悔しさが伝わってくる。
「お父さんもお母さんも、誇りを持ってガラスの街を作ってる! それなのに、まがい物だなんて! 間違ってるだなんて!」
「ユキノ……」
「宝石なんてどうでもいいけど、あいつには謝ってもらうんだから!」
とうとうユキノは、アヤネを振り切って駆け出した。アヤネも後を追いかける。
展示コーナーは、大惨事だった。
ユキノとアヤネは、あっけにとられてその様子を眺めた。いつの間にか、何をどうしたのか、ガラス張りの床が全て鏡に変わっていた。鏡でできた柱も何十本に増えて、まるで鏡の森になってしまったみたいだった。床の上に色とりどりのガラスボールや細かいビーズが散らばっていて、たくさんの人がすっころんでしまっていた。職員の誘導で、客が避難する。警備員や警察の怒声が飛び交い、鏡に映った人の姿が何十人何百人の集まりに見えた。
その上、一体何のつもりなのか、全身タイツを被った集団がトイレから飛び出してきて、何をするでもなくめちゃくちゃに走り回った。警備員は怒って取り押さえようとするけれど、意外に背が低い彼らは身軽にかわす。
「どこに誰がいるのか、さっぱり分かんない!」
ユキノが悲鳴を上げる。アヤネは辺りを見回した。
「この混乱に紛れて、逃げ出すつもりなのね」
あっははははは。怪盗の高笑いが、美術館中に響き渡った。
「宝石は、ちょうだいした! 実に、簡単だった! さらば、諸君!」
「そんな……」
走り回る大人たちに蹴飛ばされないよう、二人は柱の側に固まった。
鏡の中で、鷹が飛ぶ。誰かが踏んですべった床の上のボールが、転がっていってまた別の誰かを転ばせる。全身タイツの連中は、みんなを馬鹿にするみたいにダンスを踊る。警備員が右往左往している。きょろきょろしていたアヤネは、ついに悠々と男が歩いていくのを見つけた。
「あっ!」
アヤネは大声を上げた。
「いた! 怪盗! あそこにいる……!」
だけど、その瞬間鏡の反射で、怪盗の姿は何百人に増殖した。怪盗はアヤネと目が合うと、にっこりと笑った。
「この、鏡を何とかしないと!」
悩むアヤネを、突然、ユキノが揺さぶった。
「ねえ! いいこと思いついた!」
怪盗は、目を回し倒れてしまった警備員のおでこを弾き、怯える見物客に手を振り、ご機嫌で自分の成果を満喫していた。
客の中に部下を紛れ込ませ、鏡の柱を用意し、板状の鏡を床に敷き詰める。訓練した鷹を飛び込ませ、警備員や見物客を混乱させる。それだけで皆すっかりうろたえ、自分を見つけられないでいる。
「ガラスより、鏡だね、鏡。つまらないショーケースが、わくわくする万華鏡に早変わりだ!」
そうして、盗み出した宝石を取り出して見ると、とても満足した。
「『海の神秘』は取り返しましたよ、立山先生」」
満足しながら振り返った怪盗は、ぎょっとした。
鏡の柱が、壁が、曇っている。何も映らないほどに。
「何だ? 湯気か?」
しかし、近くの柱を慌ててこすってみても、曇りは消えない。
しまった。これでは、自分の居場所が分かってしまう……!
だが、時すでに遅し。二人の女の子を筆頭とした警備員たちが、怪盗の周りをぐるりと取り囲んだ。
ユキノとアヤネは、うろたえる怪盗に指を突きつけた。
「これで終わりよ、怪盗カレイドスコープ!」
警察が銃を抜き、怪盗に向けた。怪盗は、慌てて両手を上げる。
「参った、参った。しかし、どうやって……」
「鏡を曇らせたかって?」
ユキノが一歩前に出て、ポケットからスプレー缶を取り出した。
「お母さんの発明よ。一瞬で、ガラスをすりガラスにするスプレー。鏡だって、もともとはガラスなんだから」
「……ああ、知ってるよ」
「これでもまだ、ガラスはまがい物だって、言う?」
怪盗は、ふんと顔をそむけた。だけど、ユキノとアヤネの剣幕に負けて、とうとう
「悪かった、取り消すよ」
と小さな声で言った。
ユキノとアヤネは、ハイタッチする。大手柄だ。富山市の大事なたからものを、守ったんだから!
アヤネのお父さんが、刑事と共に、前に進み出た。
「君は、このキラリのキュレーターだね?」
怪盗は、まだ首に提げたままの社員証を見下ろし、忌々しげに投げ捨てた。
後ろで、どたどたと大きな物音が聞こえた。怪盗は振り向いた。全身タイツたちがついに捕まってしまったのだ。
「ああ、彼らはまだ未成年だ。手荒なことはしないでくれたまえ」
全身タイツのうち、一人が顔の部分を脱いだ。ユキノとアヤネには見覚えがある。
「あの人、スノードームの……!」
巨大なスノードームを作るいたずらを、考えついた中学生だった。ユキノは結構仲が良かったので、ショックを受けてしまった。
「どうして、こんな犯罪に……」
怪盗が、にやりとした。
「彼らは、大人たちを困らせてやりたかっただけなのさ。実に可愛らしいじゃないか!」
「子どもたちはともかく、君のしたことは立派な犯罪だ」
アヤネのお父さんが厳しく言った。
「君は、立山純三市の元で勉強していたね。先生から宝石を譲ってもらえなかったことを逆恨みしているのかい?」
「違う」
怪盗は、憎たらしい顔で反論する。
「先生は、『海の神秘』を富山市に渡すつもりはなかった。市が、宝石を先生から奪ったんだ。そもそも、富山市をガラスの街にすることに、先生や町の名士たちは……」
刑事が、慌てて口を挟んだ。
「分かった分かった! 続きは、署で聞こう」
ユキノたちは顔を見合わせる。お父さんたち、何だか慌てているように見える。宝石はもう、取り戻したのに?
手錠をかけられた怪盗が、ユキノとアヤネの前を通り過ぎるとき、呟いた。
「これから、ガラスの警察署に行って、ガラスの裁判所で裁かれて、ガラスの刑務所で暮らすのか。やれやれ、うんざりするよ」
アヤネは思わず言い返した。
「あら、心配しなくていいわ。だって……」
怪盗やユキノ、二人の親たちも含め、その場の皆が続きを聞こうと耳を澄ませた。
「だって、裁判所は高岡にあるのよ!」
このお話は完全なるフィクションです。




