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「第六話」買い物

 ちょうど食料を切らしていたため、俺はシュナと買い出しに行くことにした。

 無論、俺一人で行く方がリスク的にも少ないのは言わずもがなである。しかしながら防音機能の無いアジトであれだけ駄々をこねられてしまえば、こうやって連れ出してやるほうがバレる危険性は抑えられるというものだ。


「ひゃあ……おっきな建物がいっぱいだぁ……」


 とまぁ、不満げに心の中で愚痴をたらふく言ってやったものの、実はちょっと楽しんでいる自分がいるのも事実であった。素顔を隠すためのフードから、いつも見ている筈の退屈な景色も、あれだけ楽しげにされてしまえば特別なものに見えるのである。


「クリス!」

「っ……馬鹿!」


 急いでシュナの襟首を掴み、道の隅に引っ張っていく。大変困惑した表情で怯えているところ申し訳ないが、俺は小声で胸の内を伝えた。


「いいかよく聞け、どんな大義名分があろうと俺は世間から見ればただの泥棒! お尋ね者なんだ……俺の名前はここで出すな、俺たちの正体がバレたらとんでもないことになっちまう」


 シュナは口を塞がれたままこくこくと頷いた。息が苦しそうだったので慌てて手を離すと、シュナは同じく小さな声で耳打ちしてきた。


「ねぇ、とんでもないことって……どんなこと?」

「はぁ? とんでもないことっていったら、そりゃ……うーん?」


 正直言って、わからない。

 いや、貴族の家への強盗行為なのだから死罪は確定なのだろうが、それでもどんな死に方をするかは知らない。この少女のことだ、適当に言えば質問攻めは避けられないだろう。それは困る、面倒くさい。


 と、そんな悩める俺の脳裏に、昔読んだ絵本の内容が映り込んできた。


「……海賊の処刑って、何をするか知ってるか?」

「か、海賊!?」

「声がでかいっつの」


 道端に留まり続けるのも怪しいと思い、俺はシュナの手を引いて歩き出す。何故かシュナの握りが甘い気がしたので、ぎゅっと掴んでやった。なんだか頭がふわふわするが、悪い気はしないのでそのまま歩いた。


「んで、何をするかって言うとな、縛り首なんだよ。海賊の首をロープで括って、ぶら下げるんだ……な? とんでもねぇだろ?」

「……うん」

「んあ?」


 なんだこいつ、急に元気が無くなってやがる。この話がそんなに怖かったのだろうか? そりゃあ物騒な内容ではあるけども、そんな急降下するほどだろうか?


 なんだか申し訳ないことをしてしまったのではないか、と。不安になった。どうすればいいだろう、そう考えた俺は、安直でしかし効果がありそうな方法を試すことにした。


「……なぁ」

「な、なぁに? クリ……リン!」


 クリリン? なんだそりゃ。

 俺は思わず笑ってしまった。咄嗟とはいえ、名前以外で呼ばれるのは生まれて初めてで、しかもそれが、なんだか面白い響きだったからだ。


「お前、なんか食べたいものとかあるか?」

「食べたいもの? えっとね、うーん……あっ」


 しばらく思い悩んでいたシュナの指先が、ある方向へと向けられた。釣られてそちらへ顔を向けると、小麦の香ばしい香りが漂ってきて……俺の鼻腔をくすぐった。


「パン! ボク、パンが食べたい!」


 輝かしい笑顔に頷き、俺とシュナは店の中へと吸い寄せられていった。


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