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「第三話」シュナの条件

 シュナは起こした上体を俺に向け、目をしっかりと見てきた。黒く艶のある髪の向こう側には、翡翠のような瞳である。その表情に感情の色は見受けられなかったが、真剣に耳を傾けてくれている事だけは、嫌というほど分かった。


「……俺の母さんは、ノストラードっていう魔法使いに殺されたんだ」


 思い出すように、沸々と煮えた何かを手で掬うように。

 俺は、俺の原動力であり最も醜悪な部分に、今一度目を向けた。


「酷いもんだよ、真正面から殺すわけじゃなくて……わざわざアイツは呪いを使ったんだ。それもとびきり効果が長くて、死ぬまで時間のかかる拷問用の呪いを。なんでだか分かるか? それはな、アイツが母さんの全てを奪おうとしていたからなんだ。魔法の才能も、富も……『自分よりも優秀な魔法使い』っていう、邪魔な存在も」


 握りしめた拳が、ビキビキと小さく音を立てている。爪が肉に食い込み、血が出ようとも、俺は力を込めるのをやめられない。やめてしまえば、俺は愚策に、今すぐにでも奴の屋敷に走り出してしまう。


「ノストラードは、お前の故郷の宝具を自分の力の源にしてる。貧弱な魔力、扱いきれない魔法……それはぜーんぶ、母さんから奪ったんだ」


 そう、ノストラードという男は、魔法使いとしては下の下なのだ。だからありとあらゆる汚い手を使って母さんを殺し、シュナの故郷から四つの宝具を奪い、それをさも自分の努力と才能によるものだと誇示し、でかい屋敷で良い暮らしをしてやがる。──そんなことが、まかり通るわけがない。


 許せるわけがない。


「……そっか」


 シュナは俺の話を噛み砕くように頷いたあと、俺の目を見てきた。


「クリスは、復讐がしたいんだね」

「──」


 妙な感覚だった。怒りでも、悲しみでも、それ以外のすべての勘定にも当てはまらない……そうだ、このシュナという少女と出会ってから、何かが変わってきている気がする。初めてのはずなのに、懐かしいようなそんな心境にさせられる。


「当たり前だろ」


 シュナの問いに即答できなかった自分が気持ち悪い、ちょっと揺らいでる自分が憎たらしい。あんなことをされて、こんな所まで追いやられて、それでもまだ足りないというのか? 

「たった一人の家族を殺されたんだぞ」


 いいや、いいや、俺はそうしなければいけない。母さんだって、それを望んでいる。


「……そうだよね」


 シュナはソファーから身を乗り出し、少し離れた俺の頬を撫でる。手が触れた途端、俺は酷く驚いた。あんなに暖かかった手が、こんなにも冷たくなっている……いいや、違う。これは、俺のほうが熱くなっているんだ。目に入った汗が、それを証明していた。


「……いいよ」

「え?」


 シュナは再びソファーにもたれかかり、俺に笑ってみせた。


「『玄武玉』を貸してあげる。君の復讐が終わるまで、ね」

「本当か!?」

「ただし! ボクからも一つ条件があるんだ」


 条件? 俺が訝しげな顔をすると、シュナは「あはは」と軽めに笑った。


「そんなに難しくないし、君の目的を邪魔するようなものじゃないよ。寧ろ君にとっては、メリットかもしれない」

「やけに勿体ぶってるが、条件ってのは何なんだ?」


 俺が聞くと、シュナはまたもや……今度はもっとふんわりとした笑みを浮かべた。

 彼女は自分を指差した。俺が「まさか」と言いたげな顔をした、次の瞬間。


「ボクに、君の復讐の手伝いをさせてほしいんだ」




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