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「第十一話」盗賊の大義名分

 森と夜の闇に身を潜めながら、俺は屋敷の様子を伺っていた。しかし一向に状況は好転しない……人、人、武器を持った血の気の多い男共が、血眼になりながらたった一人を探している。


 探される側である俺は、今更ながら何をやっているんだろうなと思った。目当ての『玄武玉』を盗んだのに、それと引き換えに見ず知らずの少女を助けようとしている。自分が成し遂げるべき使命への片道切符、その欠片をようやく手に入れたというのに、だ。


 ──脳裏に浮かぶ、シュナの顔。


 恐怖に怯えた顔、怒りに歯を食いしばる顔、眠たそうな顔、ちょっと落ち込んだ顔、ちょっと小生意気に笑った顔。──全部、俺が見てきた彼女である。


「……」


 ああ、惜しいな。と、俺は即座に思った。

 もしも自分がもっと粘着質で、真面目で、一度決めたことは最優先で成し遂げるような男だったら、こんなことで迷わずにいられただろう。

 だが、俺は嬉しいとも思う。このケジメのなく甘ったれた自分のおかげで、少しだけ……本当に少しだけ、寄り道ができるからである。──自分以外の誰かと歩む、素敵な寄り道を。


 口の端が上がっていることに気づき、やれやれと頭を抱える。どうやら俺は、自分が想像していたより何倍もあの少女のことを気に入っていたのだろう。


 ああ、そうだ。

 俺は盗賊、欲しいものは全て奪う。相手が誰であろうが、欲しい物がどんなに手の届かない場所にあろうが……我慢などしない、遠慮などしない。俺にはそれをする大義名分がある。


 ようやくそれを、思い出せた。


「んじゃ、ボチボチはじめっか」


 屈んだ姿勢のまま、近くにおいてあったカバンに手を突っ込む。そこには一箱のマッチがあり、俺はその中からマッチを一本取り出す。摩擦によって燃え上がる棒の先を、片手に持っていた導火線に着火する。──すると。


 轟ッ! 少し離れた森のど真ん中にて、大爆発が起きたのである。


 何事かと騒ぎ始める見張りの男たちは、面白いと思うほどにそちらへ走っていく。あっという間に屋敷周辺の警備はガラ空きになり、まるで「どこからでも入ってください」と言いたげな程である。


 俺は堂々と、それでいて迅速に屋敷の中に入る。騒ぎに乗じて扉を開け放ち、そのまま廊下を走る。慌てふためく見張りに一撃を見舞って意識を奪い、壁を蹴り、宙を舞いながら……俺は虱潰しにシュナを探した。


 ここまで来たら、とことんやってから帰ってやる。


(待ってろ、シュナ)


 そうだ、『玄武玉』もシュナも何もかも……俺の手の中に残したまま、クソ生意気に清々しく笑ってやるんだ。


(俺が必ず、お前を盗み出してやる!)



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