表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/57

第50話 スラビア首都星系突入作戦2


 第1艦隊を構成するTUKUBA(ツクバ)IKOMA(イコマ)KURAMA(クラマ)TUKUBA(ツクバ)型巡洋戦艦三艦は、順調にスラビア領内での超長距離ジャンプ航行を続けていった。


 TUKUBA(ツクバ)型は通常弾を使用したとしても、異常なまでの射撃精度のおかげで既存の巡洋戦艦をはるかに凌駕する打撃力を持つが、艦内設備は小型艦以下だ。


 艦内にはベッドもなければシャワー設備もない。そういった環境での往復十一日間の作戦行動だ。艦内は特殊な区画を除き一気圧、二十度に保たれてはいるが、常時宇宙服を着用することが推奨される。十日程度で特注品の宇宙服内が臭くなることも体が痒くなることも無いだろうが、やはりなにがしかの衛生施設の付いた船を同伴すればよかった。



 スラビア首都星系に向け、主要航路から大きく迂回した航路をとったわが第1艦隊は、ジャンプアウト先で星系防衛艦隊などに遭遇することもなく侵出を続けている。あと二回のジャンプを残すのみでスラビアの首都星系に突入できるところまで艦隊は侵出した。


 ここまで戦闘もなく侵出できたのも、第3艦隊以下のイルツク星系を舞台とした陽動作戦が功を奏した結果だろう。


 あと二回のジャンプは超長距離ジャンプではなく、通常艦でのジャンプ距離、数星系をまたぐ程度のジャンプでスラビア首都星系に艦隊は突入する予定だ。



 スラビア軍では、首都星系を含む中央方面軍から抽出した、イルツク奪還艦隊をすでに中央方面から出撃させている。中央方面にはまだ主力艦は残っているだろうが、最新の情報では、新鋭艦は奪還艦隊にほとんど編入され出払っているようだ。


 次の星系ではジャンプアウト後、ある程度時間をかけて星系防衛艦隊を撃破することにしている。時間をかけるのは、指呼の間に捉えたスラビア首都星系を含めた周辺の宇宙戦力をジャンプ先の星系に集中させる時間をスラビア軍に与えるためだ。ある程度の戦力が誘引できたところで、こちらはさっさと、スラビア首都星系に突入して作戦目的である新演算装置の研究開発施設を破壊する算段である。



『これより、第1艦隊、艦隊同期星系間ジャンプ、秒読み開始します。


 170、165、……、60、59、……、3、2、1、ジャンプ』




 安定宙域()近傍には星系防衛艦隊が遊弋している可能性が高いが、あえてわれわれはジャンプ先の星系の安定宙域近傍(・・)にジャンプアウトした。




『星系防衛艦隊とみられる敵艦群を発見。総数6』


『光学観測完了。敵艦群構成各艦の詳細判明。旧式軽巡1、旧式駆逐艦5。事前情報通りのため砲撃諸元修正なし。敵艦各艦は艦首を安定宙域中心方向に向けています』


 もちろんこの星系についても、精密探査を完了しているため、宇宙構造物、全惑星、全衛星、全小惑星の質量、自転、公転データなどは完全にそろっている。


『第1艦隊はこれより既定の戦闘方針により戦闘を開始します』


『目標、後方の敵艦群。使用火器、後部40ミリ実体弾砲』


『第1目標、敵一番艦』


 敵艦には艦隊共通で一番から六番の番号がふられ、攻撃目標が艦隊各艦で重複しないよう調整されている。


 艦隊は建前上一切の通信を遮断しているが、ワンセブンは僚艦2隻の状況は把握しているのだろう。


 敵艦隊からの誰何すいかも当然あったはずだし、そういった諸々(もろもろ)を一切無視して第1艦隊各艦は回頭し軸線を散開する敵艦に向けた。明らかな発砲事前行動ではあるが、この段階では、こちらが前面を向けているのか後方を向けているのか判別は難しい。主砲の砲口のある前面を向けるための回頭であると判断するべきものだが、敵艦隊はかなり遅れて、回頭を始め艦首をこちらに向けようとしているが明らかに遅い。


 40ミリ砲弾であれ、艦首または艦尾の六門の砲から各砲毎秒十二発、六門合計毎秒七十二発。一秒間も発砲して敵艦の心臓部に集中して砲弾をたたき込めば簡単に撃沈できるが、敵方には救援要請を発信してもらいたいので一気に撃沈しないよう、着弾点を適当に散らさなくてはならない。最初の砲撃目標は敵艦艦首で、まずは軸線砲を沈黙させ、前面の兵装を順次破壊していく。


『発砲開始。止め!』


『目標変更、敵四番艦』


 艦の軸線をずらすことなく40ミリ実体弾砲が砲身可動範囲で捕らえることのできるもう一隻の敵艦に対して砲撃を加えていく。IKOMA、KURAMAも第二目標に砲撃を加え始めた。


 敵艦はこちらに対して、発砲可能な砲が次々沈黙してしまい、反撃ができないまま、スクラップにされていく。


『敵艦は救援要請とともにわが方の情報を発しています』


 どの程度の情報が送られたのかは、ワンセブンが通信を傍受して解析しているのだろうが、ある程度有力な艦隊であると認識させる必要があるため、ここからは一気にとどめを刺すはずだ。


『これより、敵艦群を殲滅します』


 いままで、通信設備等を破壊しないよう攻撃用兵装に絞っていた砲撃が、敵艦の機関部に対して開始された。艦の重要区画は装甲をある程度施しているといっても、中小型艦の装甲。その装甲に対して、鍛造タングステンカーバイドの弾心を持つ超高速の40ミリ砲弾が同一カ所の至近に十発も集中すれば、簡単に装甲は弾け飛び、機関部は破壊される。




 敵艦群をものの三十秒もかからず撃滅したわが第1艦隊は、示威行動として星系内の宇宙設備の破壊に取り掛かった。


 艦隊は、現在の位置に最も近いガス巨星の静止衛星軌道上に建設されたガス採取井戸に対し、射線の通る砲撃可能位置まで移動を始める。


 この星系に存在する別の安定宙域近傍で遊弋中の敵艦群はわれわれの動きを阻止しようと移動を開始しているようだが、その動きは非常に緩慢であることが見て取れる。そのため、われわれが攻撃可能点に到達する前に迎撃できる位置まで進出することは無理なようだ。


 敵艦群の指揮官からすれば、われわれが小規模ながら旧式中小型群では太刀打ちできない有力な艦隊であることは承知しているため、自艦を含めて無駄な犠牲は出したくないという気持ちは理解できる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ