第41話 スラビア、大華連邦侵入
ここは、スラビア共和国第二方面軍司令部。軍司令官アントーノフ大将の執務室。
スラビア風の金ぴかの部屋の中には例のごとくアントーノフ大将と参謀長カリーニン中将の二名。
「閣下、情報部から連絡がありました。先日、大華連邦が皇国内で建造を進めていた例の人工惑星基地が稼働したことを受け、その基地に大華連邦の艦隊が進出したのですが、基地ごと皇国の奪還部隊により大打撃を受けました。大華側は人工惑星基地を完全破壊され、進出艦隊の主力艦は全艦喪失した模様です。この情報は確認中ですが、情報通りですと、現在大華連邦には主力艦は存在しないことになります。戦闘の詳細についても現在確認中です」
「ほう、ここにきて主力艦を全喪失か。大華連邦を破った皇国の戦力も気にはなるな」
「われわれと相討ちになった皇国の打撃艦隊である第7艦隊は現在残存主力艦は修理、整備中との情報を得ています。今現在皇国で自由に動ける主力艦隊は機動部隊である第3艦隊のみですが、わが国との境界領域近傍に進出しているとの未確認情報が以前ありました。しかしその情報は依然確認されておりません。
情報は欺瞞であった可能性もあり、おそらくその情報に大華連邦は踊らされ、皇国に侵入してしまい、単一艦隊としては列強最強ともいわれる皇国第3艦隊に撃破されたのではないでしょうか。
逆に言えば、今回の戦闘において皇国の第3艦隊も艦載攻撃機を相当量消耗しているはずですから、当面積極的作戦行動はとれないものと思われます」
「カリーニン君、推測でものを言ってはいけない。とはいえ、私も君の推測には同意するよ。となると、われわれが自由に動ける最適な時期は今だという訳だな」
「皇国は、これまで通り積極的な拡張政策をとるとは思えませんので、少なくとも今回の侵攻作戦中は無視しても差し支えないと思います」
「カリーニン君、侵攻作戦ではないだろう。あくまで、解放作戦だろう?」
「申し訳ありません。解放作戦です」
「いや、今のは言葉遊びの冗談だ。しかし、こちらの侵攻、いや解放準備が整った段階で大華連邦が主力艦を全艦喪失とはな。ハッハッハッハ」
「情報は確認中ですが、おそらく間違いないでしょう。この調子ですと、解放過程で予想される当方の損害が以前の見積もりと比べ大きく減少しますので、大華連邦の首都星系をこのまま解放できそうですが、いかがいたしましょう?」
「果実は大きければ大きい方がいい。収穫できるときに収穫せんとな。カリーニン君もそう思うだろ?」
「了解しました。それでは、惑星解放と解放後の治安駐留のための地上軍のさらなる増援を軍司令官名で中央に要請しておきます。状況は中央でも把握していますから、増援は問題なく送られてくるでしょう」
「そのように頼む。作戦計画も大華連邦首都星系解放を念頭に組み替えてくれたまえ。司令部もこの先、大華連邦内に進めるべきかもしれんな」
「了解しました。司令部移転の準備も進めておきます」
「よろしく頼む」
スラビア共和国第二方面軍の作戦部が方面軍参謀長カリーニン中将の指導のもとに作成した大華連邦首都星系攻略を作戦主目標とした改訂作戦案に沿って大規模な侵攻作戦の準備が急速に整っていく。
当初の侵攻作戦の作戦目標は、大華連邦の有力艦隊を撃破し、なるべく多くの有人星系を解放することだったが、大華連邦が主力艦を全喪失した情報を得たため、作戦目標から有力艦隊の撃破が外され、代わりに首都星系解放が加えられた。作戦の変更内容は小さなものであったため、それほど作戦開始が遅滞することなく対大華連邦侵攻作戦は開始された。
スラビア第二方面軍は今回の作戦のため第2艦隊より臨時に艦を抽出し、完全充足の第1艦隊に第2艦隊の巡洋戦艦2隻を編入した強化艦隊を派遣することとした。戦闘序列は、
解放艦隊(派遣艦隊、第1艦隊基幹)
戦艦×6
巡洋戦艦×2(2隻とも第2艦隊より臨時編入)
重巡洋艦×12(2隻第2艦隊より臨時編入)
軽巡洋艦×8(2隻第2艦隊より臨時編入)
駆逐艦×48(10隻第2艦隊より臨時編入)
+各種補給艦など
また、スラビア第二方面軍は、大華連邦の星系を解放した後の治安維持と、星系民を慰撫するため、中央に陸上部隊の増援と食糧の輸送を要請している。要請にしたがって送られた治安部隊は問題はないが、中央より運ばれた食料は家畜用飼料としての穀物だった。スラビア中央では、解放民は、所詮他国の国民であるし、食糧不足の折なのでそれで充分であると判断した結果である。
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わが方のメッセージはスラビア側にちゃんと届いたようで、われわれがガトウ星系において大華連邦の人工惑星基地と艦隊を撃破した一週間後、スラビア共和国艦隊が大華連邦に対してこちらの思惑通り大規模な侵攻作戦を開始した。大規模であればあるほど、最終的に刈り取る果実が大きくなるのでこちらとしては好ましい。