第40話 ガトウ星系戦
ここは瑞穂皇国航宙軍第1艦隊旗艦TUKUBA指令室。
TUKUBAおよびその姉妹艦二隻は人工惑星URASIMAにおいて出撃準備をほぼ終了している。
「とうとう、連中がやってきたな。敵の艦隊は基地で推進剤やらの補給に三日はかかるだろう」
『その前に殲滅する予定ですので、補給が終了することはないでしょう。今回の作戦で、大華連邦は主力艦を全艦失います。大華連邦で現在建造中の主力艦の竣工は4カ月後。それからの戦力化にはさらに3カ月は必要です』
「俺たちが大華連邦の艦隊を叩き潰せば、スラビアが動きやすくなるな」
『これまでの一連の作戦はそのためでしたから。大華連邦が主力艦を喪失すれば、スラビアは、当初予定していた進出線を大きく越えて進出してきます。伸びきった補給線を遊撃艦隊で襲撃を繰り返し立ち枯れさせます。楽な戦いになりそうです』
現在、宇宙工廠DAIKIでは、第2遊撃艦隊を編成するため、巡洋駆逐艦4隻を建造中だ。もちろん巡洋駆逐艦はワンセブンマイナーを装備するため、乗員の訓練は短期間で済む。スラビアが大華連邦の奥深く侵入するころには就役可能だ。
「かわいそうだが、どちらも敵国。最後には出張ってくるスラビアの連中も殲滅するんだろ?」
『もちろんそのつもりです』
「陸戦隊の強襲揚陸艦は輝玉星系に戻ったころだろうが、第3艦隊の移動はどうなっている?」
『第3艦隊はスラビアとの境界星域付近から、すでに移動を開始しており、今回の戦闘終了後ガトウ星系に到着する予定です』
……
『第1艦隊全艦、出撃準備完了しました』
「……、よし、そろそろ時間だ。吉田中尉、出るぞ」
「はい、艦長。第1艦隊全艦出撃します」
俺も一応は航宙軍司令長官だし、第1艦隊司令長官なんだが、このTUKUBA内には基本旧知の吉田中尉しかいないし、閣下と呼ばれるのはむず痒いので、艦長と呼ばせている。
URASIMAを出航したわれわれは、予定のジャンプ点にまもなく到着した。
『ジャンプ目標、ガトウ星系指定座標。艦隊各艦本艦に同期します』
「全艦同期確認」
『艦隊、長距離同期ジャンプ60秒前、58、57、……、3、2、1、ジャンプ』
いつもの一瞬意識が切り替わったような感覚の後、
『ジャンプ成功。各艦正常です』
『敵艦隊確認。敵人工惑星確認しました』
『同期射撃目標、敵誘導弾未来位置』
『1番から6番、40ミリ実体弾砲射撃開始』
艦首側6門の40ミリ実体弾砲が各砲毎秒12発の発射速度で射撃を開始した。
『40ミリ実体弾砲射撃終了』
『敵人工惑星、対艦誘導弾らしきもの多数発射しました』
『……、対艦誘導弾、弾幕に突入。カウント、12、36、……、256、312。敵誘導弾残数6』
『敵誘導弾残弾に対し、40ミリ実体弾砲射撃開始、……、射撃終了』
『……、全敵誘導弾破壊完了しました』
これで、敵の人工惑星基地は有効な攻撃ができなくなったろう。
「敵艦隊の動きはどうだ?」
『こちらに向けて増速中です』
「これだけ戦闘が一方的になると、われわれだとどうしても慢心してしまうが、ワンセブンがいればそういったことが起こらないのが、ワンセブンの違った意味でのいいところだな」
『お褒めにあずかり恐縮です』
こういったところは、ワンセブンは人と変わらないな。俺もそう思って接する方が楽だからいい。
『今回の作戦の目的は、敵主力艦および各種補給艦の撃破です。重巡以下の艦は見逃しても構いません』
「見逃すというのは?」
『いずれ、スラビアとの戦いですり潰されますから、多少ともスラビア側に損害を与えてもらうためです。また、すでに死に体の大華連邦ですから多少の情報を持ち帰らせても構いません』
「なるほど」
『それでは、そろそろ作戦を開始します』
「第1艦隊、全兵装使用自由」
『ジャンプ目標、戦闘想定宙域。艦隊各艦本艦に同期します』
「全艦同期確認」
『艦隊、短距離ジャンプ30秒前、28、27、……、3、2、1、ジャンプ』
瑞穂皇国航宙軍第1艦隊により、皇国領内に建造されていた大華連合の人工惑星基地も基地内の人員諸共破壊され、派遣艦隊の主力艦もことごとく撃沈された。
大華連合の派遣艦隊(大華連邦第1艦隊)
戦艦×0(4→0)
重巡洋艦×2(8→2)
軽巡洋艦×8(12→8)
駆逐艦×36(48→36)
各種補給艦×0
警備艦隊
旧式軽巡洋艦×2
旧式駆逐艦×6
ジャンプ可能な残存艦は安定宙域から大華連邦に脱出した。TUKUBA型では、捕虜など取れないという名目で、ジャンプ機関を喪失しガトウ星系に取り残された敵艦はことごとく撃沈した。
われわれ第1艦隊が敵艦隊を撃破し終わり、竜宮星系に撤収したころ、ガトウ星域に到着した第3艦隊には、大華連邦艦のスクラップの回収を行わせている。
「昨日、皇国標準時、17時ころ、わが国に侵入した大華連邦の艦隊に対し、瑞穂皇国航宙軍艦隊が応戦。大華連合の主力艦4隻を含む多くの艦を激戦の末撃沈しました」
今さらではあるが多少脚色したストーリーで皇国国内に向けて戦勝情報をリリースした。情報秘匿のため特殊砲弾で戦艦が吹き飛ぶところは撮影はしていたが流さず、第3艦隊の主力艦の姿と、通常の徹甲弾で小型艦を撃沈する模様だけをつけたものだ。
国内の国威発揚の意味合いはあまりない。この情報はもちろん、
『大華連合の主力艦はなくなった。かの国に速やかに侵攻せよ』
との、スラビアへのメッセージである。大華連邦には銀河の檜舞台から降りていただき、スラビアを誘い出すエサになっていただくわけだ。